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思いを言葉にすることの大切さを、わかっているだけじゃダメだから、実践していこうと思いま…

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思いを言葉にすることの大切さを、わかっているだけじゃダメだから、実践していこうと思いました。世の中の出来事やニュースに対する感想であったり、頭の中でぐるぐると考えていたことを文字にしていこうと思います。

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最近の記事

もちこ(2019)『「運命の恋」のはずなのに、どうして私の彼氏じゃないんだろう』KADOKAWA

無慈悲な失恋を経験した筆者によるツイッター文学の集大成たるエッセイ集。恋と失恋にまつわる様々な思いを同世代に向けて寄り添いながら伝えている。前向きな恋を応援していく基調に仕上がっている。 「最後は幸せになれるはず」、結局そう信じて腐らずに動き続けられる人が幸せになれるのだろうか。正解のない、無限の組み合わせのうごめく情動を、人間同士なんとかして乗りこなして皆で幸せになっていきたい。

    • 青山美智子(2022)『月の立つ林で』ポプラ社

      月をテーマに、同じポッドキャストの配信を聞く人たちのそれぞれの人生の一コマを描く群像劇。百人百様の課題に対して、なぜか沁みてくる配信の声とそれでも向き合わなければのは自分だという現実に、みんな懸命に立ち向かっていく。 現代文学に当たり前のようにスマホやタブレットが登場し、ラジオではなくポッドキャストが心と心を繋ぐ。時代が変わっても、それでも私たちの目の前にある苦しみはいつも変わらない。やりたいことと求められる役割、夢と現実、家族関係、そうした人間関係にまつわる課題にそれでも

      • 堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第三部:激流』早川書房

        政治と報道をめぐる三部作の最終部。新しい世代は古来の因縁をどのようにして乗り越えていくのか、鮮やかに描き出していく。舞台が現代となり、政治と女性とか、絶対的な信念の揺らぎとか、そういったものが題材になっているのがもっともらしい。 最後に、表題の「小さき王たち」について。小さな選挙区からその土地の理屈で選びだされる日本の政治家をよく表した言葉だと思い本書を手に取った。期待するほど選挙制度に対する批評は無かったが、この秀逸な題名を付けた著者の今後の作品も楽しみにしていきたい。

        • 堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第二部:泥流』早川書房

          早熟の少し浮かれた様相だった日本社会の雰囲気をよく表した描写のなかで、第一部に続いて政治と報道の関係をモチーフに物語は進む。少し創作味が濃いが、断っても断ち切れない人間関係の存在を読者に伝えるには分かりやすい描写でもある。 今作でもパートナーの存在の大きさが際立つ。仕事の展開と並行して、主人公たちのプライベートも進行していく。どんな人間にも公私の両面がある。そんな当たり前の現実が微笑ましくもあり羨ましくもある。

        もちこ(2019)『「運命の恋」のはずなのに、どうして私の彼氏じゃないんだろう』KADOKAWA

        • 青山美智子(2022)『月の立つ林で』ポプラ社

        • 堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第三部:激流』早川書房

        • 堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第二部:泥流』早川書房

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          146本
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          12本
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          7本

        記事

          堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第一部:濁流』早川書房

          田中角栄を彷彿とさせるある政治家と新聞記者の戦いを描く政治小説。選挙買収を巡る疑惑が物語の中心だが、その周囲で、世襲の苦楽や若者の人生設計、伴侶の大切さを真実味を持って伝えてきてくれる厚みのある一冊。 臨場感のある描写や展開は娯楽作品として十分すぎるが、日本のこの手のエンタメは必ずと言っていいほど政治家サイドが汚職や買収などに手を染める悪者として描かれる。政治は皆んな悪だという固定観念を再生産している責任は文学界にもあるのではないか。

          堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第一部:濁流』早川書房

          一穂ミチ(2022)『光のとこにいてね』文藝春秋

          ある二人の女性の、幼少期、青年期、壮年期それぞれにおける短い出会いと別れを描き出す。記憶に鮮明に残るような、自分にとっての特別な人。そんな存在に巡り合えたことが、日常を華やかに破壊的に変える。 ここまで奇跡的な出会いは無いにしても、現代を生きる私たちにも皆、自分を変える誰かとの物語を持っている。「推し」というものだってそうだろう。個の確立した時代でも、厳かに存在する他者との交わりを大切にしたい。

          一穂ミチ(2022)『光のとこにいてね』文藝春秋

          池澤夏樹(1991)『スティル・ライフ』中央公論新社

          仕事仲間の一人としてしか認識していなかった人間が、ある出来事をきっかけにして、自分のプライベートに入り込んでくる物語。プライベートに入り込むというのは、つまり、自分の内面を変える力となることを意味する。 突然現れた奇妙な展開を通して、この世界に対するまなざしを変えることになる。村上春樹作品と似ている。人は誰もが、他者からの影響を受けて自分自身を変貌させる。そしていつしか、他者は輪郭を失い、溶け込んでいく。

          池澤夏樹(1991)『スティル・ライフ』中央公論新社

          島本理生(2020)『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』幻冬舎文庫

          一人の女性と、エイズを持った年上男性の、ある恋の物語。相手を思いやるとか、気遣うとか、そういった優しい感情の運び方が、落ち着いた文体で綺麗な言葉で記されている。読むと温かな気持ちになる一冊。 エイズに限らず、技術は進歩しているのに社会の偏見やそれを受けた自己規制がなかなか拭えないでいる現象は多い。一人の人間そのもの全てを、お互いにつき合わせる恋愛という関係性の持つ凄みを感じることが出来る。

          島本理生(2020)『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』幻冬舎文庫

          小野寺史宜(2021)『ミニシアターの六人』小学館

          単館系映画の過去作のリバイバル上映を題材に、それをたまたま同じ回に鑑賞していた六人のそれぞれの人生の一幕を描く群像劇。映画のシーンと現実のシーンが折り重なるように語られていくため不思議な没入感がある。 末永監督の映画でも、この六人の現実にも、何か大きな事件が起こる訳ではない。それでいて、彼らにとっては重大で、十分にドラマチックな人生を、ただ迫りくる波を乗り越えるようにして生きている。

          小野寺史宜(2021)『ミニシアターの六人』小学館

          馬場ゆうき(2022)『日本に20代国会議員がいなくなる日』国政情報センター

          2021年の第49回衆議院議員総選挙で誕生した当代唯一の20代国会議員である福島県選出の馬場ゆうき衆議院議員による自伝的著書。いかにして育ち、政治家となり、何を考えてきたのかが余すことなく記されている。 一人一人がそれなりに立派な考えを持っているものだということを考えさせられる。しかしそれでも、皆が力を合わせて同じ方向に向けて進んで行くことは中々難しい。それは多様性と熟議の観点からはいいことだとも思うけれども、ここから一歩も動けないことは好ましいことではない。彼が立憲民主党

          馬場ゆうき(2022)『日本に20代国会議員がいなくなる日』国政情報センター

          ミノーシュ・シャフィク著・森内薫訳(2022)『21世紀の社会契約』東洋経済新報社

          稀代の経済学者が記す、新時代の世界に求められる社会契約の具体的な中身を示す指南書。パンデミックも一つのきっかけとなり、変わり続ける社会は旧来の社会契約による公共と個人の役割分担の限界を露呈させている。それならば社会契約を作り変えることを私たち契約の当事者はためらうべきではないと説く。 本書で提示されている具体的な処方箋は、幼児教育の充実・健康管理プログラム・育休の取得・平均寿命と連動した定年の変更・生涯学習と再就職の推進・将来世代の政治参加である。こうした議論に触れるたびに

          ミノーシュ・シャフィク著・森内薫訳(2022)『21世紀の社会契約』東洋経済新報社

          伊与原新(2020)『八月の銀の雪』新潮社

          科学に基づいた様々な現象を題材にし、人々の温かな生き様を編み合わせたエピソード集。「科学的」と言うと、なんだかお堅い遠い世界の話に思えるが、私たちの住むこの世界を研究対象にしてきたわけだから、当たり前のように日常に溶け込んでいることに気づける一冊でもある。 毎日何気なく触れ合っているこの世界が、実は壮大な仕組みで数多くの見えない歯車が噛み合わさって動いていること、その中に私たち人間も位置づけられ大切な日々を暮らしていることを意識させられる。

          伊与原新(2020)『八月の銀の雪』新潮社

          白秋社編集チーム編著・天野馨南子監修(2021)『未婚化する日本:ペアーズ共同調査と統計データが示すその傾向と対策』白秋社

          少子化が最重要課題となっている我が国社会。そして孤独や孤立に苛まれる市民。それらの原因として注目されなければならないのが「未婚化」である。人との繋がりの最小単位である家族について重要な視点を提供する一冊。 この40年間で日本の夫婦一組が持つ子どもの数は、実は少子化の傾向から想像されるほど変わっておらず2人前後である。それなのに、合計特殊出生率が下がり新生児の人数が過去最少になっているのはなぜか。本書が提示する答えが結婚する男女の減少=未婚化である。子育て支援が中心だった我が

          白秋社編集チーム編著・天野馨南子監修(2021)『未婚化する日本:ペアーズ共同調査と統計データが示すその傾向と対策』白秋社

          鯨井あめ(2022)『晴れ、時々くらげを呼ぶ』講談社文庫

          くらげを雨乞いのように呼ぼうとする女子高生の奇行をアクセントにして、親子関係、他者への関心、夢や優しさという思いの有り様を描く長編。どこか儚げな文体は、ガラス細工のように大切にしたくなる現実を象徴しているようである。 小説を題材にした小説ということもあり、読書好きには楽しい。本好きは物静かだと思われるが、実は真逆であるというのは本当に真実だと思うし、何が好きにせよ興味の向くものに一心に走っていける姿は素晴らしい。

          鯨井あめ(2022)『晴れ、時々くらげを呼ぶ』講談社文庫

          青羽悠(2022)『青く滲んだ月の行方』講談社

          この変なこだわりというかプライドが自分をいつまでも縛り続けている。そんなことは分かっているのに、でもだったらどうすればいいの。若者のリアルを描く共作2部の男性視点からの一冊。いつか、積み重ねてきた今を認められるのか。 自分だけの秘めた悩みのように思えて、そばにいる人に実はあっさりと見抜かれている。孤高とか陳腐とかなんてのは思い込みで、ちっぽけな人間の人間同士のやり取りで物事なんて氷解してしまうから。まあ、それが難しんだけど。

          青羽悠(2022)『青く滲んだ月の行方』講談社

          真下みこと(2022)『茜さす日に嘘を隠して』講談社

          上手くいかないこと、どうしたって上手くいかないこと、そんなのばっかで押し潰されそうになる。若者のリアルを描く共作2部のうち女性視点からの一冊。分からないことばかりなのに、やりたい衝動は抑えきれない。 世の中と上手く折り合いを付けることと、自分を切り売りしないで大切にすること。重いことと、どうでもいいような軽いもの。疑心暗鬼で被害妄想、それでも話してみると案外思っていたのと違っていたりする世界。

          真下みこと(2022)『茜さす日に嘘を隠して』講談社