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既成概念に媚びず、自ら定義となり得る者たちへ《Club with Sの日 第1回レポ》


2021年6月24日
ClubwithSの日 第1回
ついに、この日がやってきた。
ずっと待ち望んできた太陽であると同時に、勢いだけで駆け抜けてしまった末に偶然手にした星のようなもの。

自分は、初めてリアルタイムでノンバイナリーの方とお話することになる。
感慨深い。
この感動に浸って、無言になる可能性しかなかった。
ひたすら喜びを噛み締める一時間。
それはそれでアリなんじゃないか、とも思っていた。

僕らは、“同じジェンダー・アイデンティティの人と出会えた”ことすら喜びになってしまう世界を生きている。

振り返ってみると、ノンバイナリーだけではなく、LGBTQ+当事者の人とリアルタイムで声を出してお話するのは初めてだった。
SNSでメッセージのやり取りをしたことは何度かあるけれど、それもたった数人。
直接会って会話したのはおそらく、ゼロ。
実際には“いた”のだと思う。
本人が“言わなかった”だけなのだと思う。

初対面のクィア同士、緊張と興奮と照れと期待がぐちゃぐちゃに混ざった固まりを背負って、若干声を震わせながら話しはじめた時。
最初に感じたのは安堵だった。
共通の趣味があって嬉しい。
全く違う趣味があって嬉しい。
“Non”binaryとか“A”genderとか、いちいち打ち消しの語を付けてくれるおかげで、存在自体が空虚なものに陥りがちなマイノリティ。
それぞれに居住地があって、学校や職場があって、趣味があって、時間割がある。
人並みに人間だし、人並みに社会をやっている。
こんな当たり前のことを、誰よりも自分自身が忘れそうになる。
可視化されてこなかったから。
でも、もうそんな言い訳をする必要はなくなった。
Club with Sがあるから。

第1回のテーマは『ノンバイナリーとは?』。
んん? これはちょっとおかしいのでは? と思われるかもしれない。
なぜ、当事者たちがそろって、自認したはずのジェンダー・アイデンティティの意味を確認し合わねばならないのか? と。
その答えは「答えがないから」というのが最も相応しいかもしれない。

LGBTQ+の中でも特に、単語そのものに辿り着くために大きなハードルがあって、やっと手にしても、そこに記されている情報のあまりの少なさに愕然とする。
“ノンバイナリー”の定義なんて、当事者の数だけ存在する。
そして、それを否定も肯定もせず、ただ受け入れるための空間こそ、Club with Sだった。
“ノンバイナリー”という字を辞書で引いたら、Club with Sメンバー全員の名前、そこに足しておこう。

今回、彼らのお話を聴きながら考えた。
ジェンダー・アイデンティティという名の多様性があって、多様性の中の一要素がノンバイナリー。
ではなく、ノンバイナリーの中にこそ真の多様性があるのだ、と。

先日、SNS上でのこと。
「トランス当事者は人口の0.5%程度だそうです」というある方の投稿を引用して「0.5%のひとりです」と声を上げてみたら、「具体的にどんな根拠でご自分がトランス当事者だと思われてるんですか?」と見知らぬ方から返信が来た。
(ノンバイナリーがトランスジェンダーに含まれるのか、という厳密な領域についての議論はあえてここではしないが)
返信を読んでびっくりしてしまった。
考えたことがなかったから。
気付いたらそうなっていたし、そうなっていたから気付けた。
これとこれとこれがそろったから、はい、ノンバイナリー確定ね。
みたいなチェック項目があるわけじゃないし、なろうと思ってなれるものでもない。
逆に、根拠を考えずに自然とそうなったという事実が、何よりの証拠だ。
結論:
「シスジェンダーの女性あるいは男性ならば聞かれなかっただろうジェンダー・アイデンティティの根拠を、初対面の人から聞かれなければならないということ自体が、トランス当事者ゆえのものではないでしょうか」

僕らは今夜も彷徨う。
手を伸ばしても届かないのに、手探りで追究し続ける。
暗い海の底で、窒息しかける。
切っても切り離せない自己だから、何度も何度も魘されて、うんざりしたりもする。
いっそ楽になりたい、と単純な時空に迎合しそうになった時、傷の奥に微かな光を見つける。
ありとあらゆるものが《男・女》二元論で成り立つ世界で、そこを切り開いていける力が自分にはあるのだ、と思い知る。
これからは自分だけが手にした価値観で世界を見つめていけるのだ、と確信する。
ノンバイナリーを自認した瞬間、僕らはジェンダーという名のブラックホールに飛び込んだ。

「ジェンダーは『学問的に中立』な概念どころではない。むしろあらゆる学知のジェンダー超然性に挑戦する、破壊力と生産力をもった概念である」

上野千鶴子さんが述べられたこの考え方が好きだ。

LGBTQ+コミュニティでよく見聞きする言葉「セレブレイト」。
たくさんの人たちからの“祝福”も大切だけど、ノンバイナリーにはもっと相応しいものを。
それは、未知へ飛び込んだ覚悟のある者同士が交わす固い“握手”。
ブラックホールの果てに、僕らは仲間と出逢った。

2021年6月24日
ノンバイナリーの人たちが集う夜が確かにこの世界に存在したこと、忘れないでいたい。

記録よりも記憶を希望で更新できるようなコミュニティへ。
Club with Sはまだはじまったばかりだ。


読んでくださってありがとうございます。いただいたサポートは【Club with S】運営メンバーがジェンダー論を学ぶ学費(主に書籍代)に使わせていただきます。