見出し画像

No day but today《Club with Sの日 第19回レポ》



「明日の予定は?」
「明日生きているかもわからないのに?」
                ──『Shoplifters of the World』(2021)


将来の夢。
未来への希望。
そんなものは遠い昔に置いてきてしまった。
今日を生き延びるのに必死だったから。

マイクロアグレッションの攻撃。
アウティングへの不安。
隠れて生きることだけが正解だった。
Queerだったから。

偏見に満ちた毎日は続く。
そして、これからもQueerであり続ける。

「私にはこんなに高い能力があります。だから、参加させてください」
「僕にはこんなに強い経済力があります。だから、話す機会をください」

マイノリティの前にだけ立ちはだかる高いハードル。
マイノリティにだけ求められる極端な生産性。

「あれ、これっておかしくないか……?」
そう気付いた時にはもう手遅れで、声を奪われている。
小さな違和感はどんどん確信に変わっていって、こんな現実を観るくらいなら無知のままがよかったとすら思い始めている。

「自分は人間です。あなたと同じ人間です」
そう権利を主張する前に、日常に疲れ切って心を閉ざしている。
自身の中に築いた強固な壁に愛着すら抱き始めている。

そんな彼らのためにできることはなんだろう。
壁を登るのを応援すること?
違う。
壁を壊すこと?
それも違う。
自分が出した答えは、壁の内側にいても語れる空間を生み出すことだ。
共にうずくまって、感情を共有することだ。


「自分を表現するのに人の許可はいらない」
            ──『Everybody's Talking About Jamie』(2021)


2022年1月19日
今年初のミーティング
Club with Sの日 第19回
テーマ『ノンバイナリーのManifestationとは?』

本題に入る前に、ノンバイナリー関連作品の紹介タイム。
今回は映画『Alex Strangelove』
鑑賞後にたまたま調べたら、ノンバイナリーの俳優・Jesse James Keitelが出演していると知った。
2022年の映画鑑賞1本目から、Queerの俳優さんたちが活躍している作品に出逢えてラッキーだ。
そして、このニュースについて触れないわけにはいかない。

Mj Rodriguezがトランスジェンダーであることを公表した女性として初めてゴールデン・グローブ賞を受賞。
ありがとう、おめでとう、Mj Rodriguez!!
LOVE WINS.
扉は開かれた。
さあ、僕らの舞台へ。

Manifestation
実現化
引き寄せの力

一年の初めに漠然と夢を語ってもよかったのだけど、(それはとても映画らしくて魅力的だ)、明確な意思を持って理想像をオープンにしたかったので、Manifestingという方法をとることにした。
Manifestingのコツは「〜したい」「〜がほしい」ではなく、「〜できた」「〜を手に入れた」という前提で、理想の自分を想像すること。
なぜなら、これはファンタジーじゃない。
想像できる人なら、創造できる。
僕らはきっと、実現できる。

Club with Sのメンバーは多趣味で様々な分野に挑戦する意欲にあふれた人が多い気がする。
今回も、そんな姿を見せてもらった。
何か新しいことを学ぼうと思った時、そしてそれが義務感ではなく純粋な興味から生まれる時、嬉しくなるのは、自分自身の中に「他者や異なる文化を理解したい」「未知の物事と向き合いたい」という感情があると知ることができるからだ。
メンバーの方が体現してくれる、変化を恐れず、むしろ楽しみながら開拓していこうとする姿勢はとても眩しく見えた。
夢の大きさや目標の種類よりも、まずは希望をコミュニティで打ち明けることのできた君自身に大きな拍手を。

いよいよ自分の番が回ってきた。
誰にも伝えたことのない夢をカミングアウトするのはやっぱり緊張する。
でも、どうしてもここで語らなければならない、ここでしか語れないと確信した理由を知っている。
その夢に至るまでの想いや叶えた先の光景を共有できる人は、似たような立場だったり、同じような経験をしてきた人だけだから。
Club with Sでしか生まれない物語がある。
Queerにしか見れない世界がある。
だから、今、書き残しておく。


「自由を説くことと自由であることは別だ」
                      ──『Easy Rider』(1969)


今日の自炊について頭がいっぱいで、明日の大切な人とのディナーを楽しむことを忘れていた。
今日は何を作って済ませようか、そのためにスーパーで何を買って帰らなきゃいけないか。
そういうToDoリストじゃなくて。
明日、相手とどんな話で盛り上がるのか、食後のデザートは何にしようか。
こういう期待で胸を膨らませたかった。

たまには、未来の話もしたい。

“未来”と聞いた時、想像するものが明日なのか、1年後なのか、それとも30年後なのか、人それそれだと思う。
現在進行形で命の危険を感じている人に将来について考えさせることは、もしかしたら残酷なことなのかもしれない。
自由と死が、最もかけ離れていると思い込んでいた二者が、実は隣り合わせになっていると気付いたのは、映画の見過ぎだろうか。
だけど、それがたとえ空虚な夢物語に陥ろうとも、対話を選択したい。
なぜなら、僕らにとっては安全な居場所で何かを語れることこそ自由だから。
ミーティング中、確かに自分は未来の彼らと出会ったのだ。
自由を体現した彼らと出会ったのだ。

言葉の力について、よく考える。
音楽が伴えば歌詞になる詩。
愛が込められたらラブレターになる詩。
時間が刻まれたら伝記になる詩。
過去に存在できなかった物語に思いを馳せ、今この瞬間の物語と正面から向き合い、次の世代へ語り継ぐこと。
存在した証を残すこと。
それが、自分が唯一できることで、こんなメッセージを届けることになる。

君の物語はなかったことにされていいものなんかじゃない。
君にとって最も個人的な話を求めている人がここにいるということを忘れないでほしい。
もちろん、言葉じゃなくてもいいんだ。
音楽や写真や映像。
絵画や彫刻。
インスタレーションやデジタルアート。
自分なりの表現方法でストーリーテラーとなることを、肯定し、尊重したい。
誰もが語るべき物語を持っている。
今から、自由になろう。


「そう、君たちが教えてくれた、疑うということがわかったんだ
 知識に依存していたから
 でも、知らないものを受け入れてみようと思う
 だって、予定では3年前に死んでいるはずだから」
                         ──『Rent』(2005)


僕らは、生きている。
それは、世界で最も強くて美しい真実だ。




読んでくださってありがとうございます。いただいたサポートは【Club with S】運営メンバーがジェンダー論を学ぶ学費(主に書籍代)に使わせていただきます。