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流行を超えていけ《Club with Sの日 第18回レポ》



「ノンバイナリーがたくさんいる会議は時間がかかる」

え、すごいじゃん!!
ノンバイナリーの人が会議に参加できる日が来たんだね!!
しかも一人じゃなくて、たくさんいるの!?
その前に、周りの人たちが“ノンバイナリー”というジェンダーを認識しているってことだよね?
そして、当事者たちがオープンにできる環境なんだね?
超すごい。
ノンバイナリーのみんな、活躍してくれてありがとう!!
レプリゼントしてくれてありがとう!!
あなたたちは僕らの希望です。

……ブラックジョークはこれくらいにしておくか。
最初のセリフ、主語のジェンダーを変えるだけで当事者に与える印象、社会に与える影響は大きく異なる。
なぜなら、そこに差別が存在するから。
何かを語る場、何かを決定する場に参加できる機会は、ジェンダーによって極端に差がある。
なぜなら、そこに格差が存在するから。

「ジェンダー平等」が2021年新語・流行語大賞にノミネートされた。
そのニュースを見かけた時、たくさんの疑問が頭に浮かんだ。
ジェンダー問題について議論される過程で、「ノンバイナリー」という単語は何回登場しただろうか?
その場にノンバイナリーやジェンダー・マイノリティ当事者はいただろうか?
ジェンダー平等にほんの少しでも近付いたのだろうか? (世界基準で見てどう?)
ジェンダー平等って流行や新しい価値観なのだろうか? (今まで闘ってくれた人々を無視するつもり?)
……というか、そもそも流行した?

ノンバイナリーは流行になれない。
ノンバイナリーは流行を生み出せない。
なぜなら、そこに存在しないことになっているから。

悔しかった。
自分がいない前提で形成された「ジェンダー平等」社会を見つめなければいけないことに。
違和感とやるせなさと確かな怒りは行動に変えていく。

ノンバイナリーの視点で流行を語れる時間、ノンバイナリーのカルチャーがメインストリームになれる空間、ここにあります。

2021年12月29日
今年のミーティング最終回
Club with Sの日 第18回
テーマ『ノンバイナリーの流行語とは?』

本題に入る前に、ノンバイナリー関連作品の紹介タイム。
今回は映画『The Matrix』シリーズ。
コンピュータによる仮想世界を通してトランスジェンダーの物語を描いた『The Matrix』について、Non-“Binary”の人たちとオンライン上で繋がり共有できたこと、これこそ『The Matrix Resurrections』だし、運命的なものを感じる。
でも、これは自分の選択。
『The Matrix Resurrections』がアップデートをテーマにしたように、僕らは変わりゆくものに向き合う。

言葉の意味は時代や環境、あるいはそれらが同じでも世代によって異なる。
例えば、僕らが日々使っている単語「Queer」。
80年代を舞台にした映画『Sing Street』で、男子高校生の主人公は同級生から「Queer」という言葉でからかわれる。
一方、2021年に公開された現代を描いた映画『Everybody's Talking About Jamie』では、ゲイの男子高校生である主人公が誇りを持って「I am queer.」と言い、いじめっ子に対抗する。
元々侮蔑的な意味合いを持っていた言葉が、「自分はQueerだ。それが何か問題でも?」という開き直りに変わり、LGBTQ+当事者たちの連帯と“PRIDE”と共に肯定的に用いられるようになった。

Queer
Pride
They
Binary
Rainbow
メンバーの方のお話を聴きながら、単語ひとつでも様々なコミュニティの文化や歴史を背負っているものであり、単純な意味だけでなく、日々変化するニュアンスやそれらを尊重することこそ大切だと気付かせてもらった。

そして、Queerコミュニティのカルチャーをすくい上げ、守ることと同じくらい、流行からはみ出てしまった人たちに寄り添いたい。

流行の歌が聴けなくなった時期を覚えている。
中学生の時だ。
自分は学校で同級生からいじめられていた。
日常的に暴力を目にしていた。
いじめの加害者、いじめを見て見ぬふりしていた周りのクラスメイト。
彼らは流行の歌を楽しそうに聴いていた。
そして、そんな音楽はたいてい、愛と優しさを歌う。
自分にはそれがとても奇妙に映った。
罪悪感とか、居心地の悪さみたいなものを感じたりしないのだろうか。
死や暴力や恐怖を扱った、(歌詞で直接的に表現しなくても)それらをメロディーや演奏で伝える曲ならわかるけど。
デスメタルを聴けよ。
当時の自分はそんな冷ややかな目を向けていた。(デスメタルファンの皆様、ごめんなさい)
違和感はどんどん肥大化して、自分はパンクに逃げ込むことになる。
高校生になる頃にはGreen Dayを聴いていた。
同級生が誰も聴かない音楽、名前すら知らないバンドの存在は自分を強くしてくれた。
英語の歌詞の意味はほとんどわからなかったけれど(スマホを持っていなかったので歌詞検索ができなかった)、遠く離れたアメリカで生まれたポップなメロディは、不思議と自分を安心させてくれた。
ウォークマンで繰り返し聴いていたお気に入りの一曲。そのタイトルは

『Minority』

もし君が何かの理由で流行が響かなくなってしまった時、どうか、自分を責めたり、つまらない人間だと思わないでほしい。
周りの友達が盛り上がっている恋愛ドラマでジェンダー差別的な描写があり、話に乗れなくなってしまう瞬間。
同世代の人たちに人気のバンドが人種差別的な発言をして、それまで好きだった曲にも抵抗を感じるようになってしまう瞬間。
マイノリティ当事者だと、そんな瞬間に遭遇する可能性が高いはず。
変化に対して気にしないふりもできるかもしれないけれど、そのせいで何かを犠牲にしてはいないだろうか。
君だけの視点。
君だけの感性。
君だけの解釈。
それらは果たして流行よりも劣っていると言えるのだろうか。

簡単に手に入るものでも、すぐに忘れ去られてしまうものでもなく、自身にとって本当に大切な、たった一つの普遍的な自由を守り抜くために……

流行を超えていけ。

Club with Sを始めてから約半年が経った。
この半年間、開催したミーティングの数はなんと18回。(+ミニClub with Sの日1回)
ノンバイナリーとクエスチョニングの若者が全国各地から集まって、こんな頻繁にリアルタイムで語り合えるコミュニティを他に知らない。
Club with Sがやっていることは50年早いと思っている。
2071年を生きるQueerの若者たちはこのコミュニティの存在を知って何を想うだろう。
「2021年の時点でノンバイナリーのための居場所があったんだって!!」
「嘘でしょ(笑) その時代の日本ってシェンダー・アイデンティティについてオープンに語れる社会じゃなかったよね?
しかも一般人がやってたの!?」

変化と衝撃はここから生まれる。
メンバーのみなさん、本当にすごいことをやっているよ!!
50年後の世界に誇りたい。
2021年、ここに逸材たちが存在したことを。

最後に、Club with Sと出逢ってくれた全ての方々に心から感謝いたします。
本当にありがとうございました。
来年も無知や恐れを超えて、変化を味方にしていきます。
そして、その変化ひとつひとつに、ノンバイナリーの物語を刻んでいきます。





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