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毒をもって笑いを制す―「M―1グランプリ2022」個人的まとめ

こんにちは!
 久しぶりの記事執筆です。
 今回は去る12月18日に行われた「M―1グランプリ」について書きたいと思います。長くなるかもしれませんが,どうぞ最後までお付き合いください。それでは参ります!

はじめに


 本題に入る前に今年の「M―1グランプリ」の概要を少し整理しておきたいと思います。
 今年は過去最多7,261組のエントリーがあった中選ばれた9組と敗者復活戦を勝ち上がった1組が決勝戦の舞台へ。そんな中,昨年大会準優勝のオズワルドが準決勝敗退,第3位のインディアンスが準々決勝で敗退する等の波乱がありました。
 また,昨年まで審査員を務めたオール巨人さんと上沼恵美子さんに代わり,新たに博多大吉さんと山田邦子さんが審査員に加わりました。大吉先生は5年ぶりの審査員復帰,山田邦子さんは初の審査員となりましたが,辛口すぎる採点にネットでは賛否両論が分かれました。個人的には邦子さんの審査は「面白い」「面白くない」の基準が曖昧になっていないような感じがして好きでした。

【M―1グランプリ2022 審査員】
・山田 邦子
・博多大吉(博多華丸・大吉)
・塙 宣之(ナイツ)
・富澤たけし(サンドウィッチマン/2007年大会王者)
・立川志らく
・礼  二(中川家/2001年大会王者)
・松本 人志(ダウンタウン)

審査員として登場した博多大吉さん
©ABCテレビ

 

審査員として登場した山田邦子さん

 オープニングでは昨年大会優勝の錦鯉に密着したVTRや歴代王者の優勝シーン(錦鯉さんはその後,優勝トロフィーを持ってテレビ朝日のロビーからスタジオのギャラリー(サブのエリア)へ登場),今年の大会の予選の様子などが流された後,ファイナリストの名前が読み上げられタイトルコール。スタジオに灯りが点り,今年もMCを務めた今田耕司さん,上戸彩さんが登場し,審査員紹介へと移りました。
 長々と話してしまいましたが,そろそろこの辺で参りましょう。ここからは各ファイナリストのネタについて個人的な感想を書き連ねていきたいと思います。

※ 上から大会公式キャッチコピー,コンビ名の横の丸数字はネタの披露順,コンビ名の横の括弧は所属事務所,コンビ名の下の時刻はネタの開始時刻。

ファーストラウンド

“草食系ロジカル”
エントリーNo.4491

① カベポスター

(吉本興業)
19:16

 今年の「ABCお笑いグランプリ」を制したカベポスターさんは永見さんが小学生の頃に参加した大声大会を題材にした漫才。「好きなもの」をテーマにした大声を出すのですが,「ポケットモンスター」「シーチキン」「湯布院」「ビーフン」等絶妙に言葉選びを間違えてしまい,微妙な空気に。
 次の年は「自分のほしいもの」を題材に大声大会が行われたのですが,「ミシン」「金運」「七輪」等とまたもやワードセンスを間違え,言葉選び最下位に。
 2年にわたる大声大会の様子を絶妙な言葉遊びで表現したトップバッターから純度の高い漫才だったように感じました。

“アンコントロール”
エントリーNo.26

② 真空ジェシカ

(プロダクション人力舎)
19:28

 共演者の信頼を得たいからシルバー人材センターへ行こうというガクさんとそこの職員の川北さんとのやり取りが描かれるネタで,そこのセンターの名前が「ヘブンズゲート」と縁起が悪いことや,人材センターの職員の名前が「じんざいとものり」とどこか陣内智則さんをモジったものだったり,「パトカーで来た」「ノルウェーの刑務所みたい」「AEDに使われた形跡がある」「戒名の歌を歌う人=かいみょん」など…そこかしこに研ぎ澄まされたワードが使われていて,さすが高学歴コンビだなと思わせるのと同時に昨年に披露した「一日市長」よりもさらにブラッシュアップされたネタで個人的には今大会で一番面白かったネタでした。

“敗者復活枠”
エントリーNo.3311

③ オズワルド

(吉本興業)
発表→19:42 ネタ開始→19:47

 敗者復活戦で披露した「明晰夢」(寝て見た夢の内容をはっきりと覚えている夢)の話を畠中さんが展開し,それに適宜伊藤さんがツッコミを入れていくスタイルのネタでしたが,さすがは決勝常連。落ち着き払っていたなという印象でした。ネタの途中で夢と現実がごっちゃになっていくところから畠中さんの狂気が炙り出されていくというのは普段のオズワルドさんらしかったですが,個人的には敗者復活戦とはネタを変えてほしかったなというのと同時にどこかいつものオズワルドよりテンポが悪かったように感じて残念でした。

“ゆるハイブリッド”
エントリーNo.4948

④ ロングコートダディ

(吉本興業)
20:00

 カッコいいマラソンランナーに憧れる兎さんがマラソン世界大会に出ようと堂前さんに誘われる所から始まるネタで,堂前さんの走り方のクセの強さが笑いを誘うと共に色んな人に堂前さんが抜かされていく様子を舞台を上手に使って遠近法で表現していて素晴らしいなと感じました。個人的には“一緒に走ろう”と言った堂前さんがのちに兎さんが怪我をした際に介抱に回っているシーンがあり絶妙な伏線回収のようになっていて最高でした。
 ちなみにオープニングVTRで「足がつった」と言っていたのは兎さんだったようです。

“熱血リベンジ”
エントリーNo.2852

⑤ さや香

(吉本興業)
20:12

 年齢の衰えを感じたから神社の賽銭箱に免許を返納したという話でしたが,蓋を開けてみれば「まだ30代」「好きな食べ物は漬け物で漬け物でご飯3杯いける」「カラオケでCreepy Nutsを歌って草が生える」など…実際は衰えていないという矛盾をつかれていくネタで,漫才として完成されていたなと感じました。
 個人的には「佐賀は入れるけど出られない」「佐賀は免許返納したらタクシーが2割引」という佐賀のディスりがあって面白かったです。実際に佐賀ではこのようなサービスが行われており,最大8割引きになることもあるそうですよ。

“あぶない地味男”
エントリーNo.1795

⑥ 男性ブランコ

(吉本興業)
20:28

 架空の“音符運び”という職業を題材にした漫才で,平井さんが音楽家のもとに音符を運ぶ仕事をしているのですが,毎回最後の最後に失敗して相方の浦井さんが危険な目に遭うという顛末でその様子をコミカルに描くコントに近いネタだったように感じます。
 個人的には音符や五線譜,フォルティッシモなど音符や音楽記号の種類によって運び方が変わるんだなというのがプロの職業らしくて面白かったです。

“クレイジーな輝き”
エントリーNo.1771

⑦ ダイヤモンド

(吉本興業)
20:38

 決勝初出場となったダイヤモンドさんのネタは野澤さんの「男女兼用車両」「有銭飲食」「農薬野菜」「地上鉄」「有賃乗車」などと言った変な言い換えに小野さんが困惑しながらもツッコミを入れていくスタイルのネタでセンス系のネタだったように感じます。
 個人的には野澤さんが小野さんの耳元でボケの最後に「~もね」と言う所や言葉遊びの中で出た「不自然ローソン」「定価ローソン」というワードが面白くて印象に残りました。

“なかよし奇想天外”
エントリーNo.1794

⑧ ヨネダ2000

(吉本興業)
20:52

 芸歴2年,今大会で女性コンビでは唯一の決勝進出という快挙を成し遂げたヨネダ2000のお二人はネタの冒頭,誠さんが「イギリスで餅をつくと一儲け出来る計算になる」と言い始め,二人で延々と餅つきをしていくというシュールかつ奇抜な発想でリズム感の良いネタでした。先日の「THE W」に引き続き,ヨネダワールド全開でした。
 個人的にはネタ中にDA PUMPの「if…」を引用して誠さんが「♪もち(し)も君が一人なら~」と歌う場面やネタ後の今田さんのやり取りで「M―1グランプリ」の“M”を「餅つき」と捉えているコメントが面白く漫才新時代の到来を予感させるなとも感じました。

“ノーリアル”
エントリーNo.2402

⑨ キュウ

(タイタン)
21:05

 ネタ順9番目,芸歴9年目,エントリーNo.の数字を全部足すと9など…さまざまな9にまつわるジンクスがあったキュウさんのネタはなぞかけを題材にしたネタで終始お二人の漫才らしくぴろさんがボケて清水さんが冷静にツッコみ,淡々と進んでいくのですが,今回はそれに加えて清水さんの「○○でしょう!」というツッコミも冴え,後半にかけて尻上がりに面白くなっていく漫才だなと感じました。
 9番目にキュウを引くという奇跡を起こした今年の笑神籤ゲストの那須川天心選手には感謝です。

“小市民怒涛の叫び”
エントリーNo.3312

⑩ ウエストランド

(タイタン)
21:19

 2年ぶりの決勝戦進出となったウエストランドさんは今年も井口さんの日頃から溜まりに溜まった毒舌が爆発。ひょっとしたらこの記事も井口さんには非難の的にされるかも…。と思いながら書いてます笑。(審査員ぶって個人的な批評や芸人の分析をしているやつに腹が立つそうなので…)個人的にはネタ中にテレビプロデューサーの佐久間宣行さんの名前を出してきたり,YouTuberや路上ミュージシャンは警察に捕まり始めているという毒は人間の奥底に眠る毒っ気と化学反応を起こして共感出来る毒になっているなと感じて面白かったです。

 ファーストラウンドで総合得点が高かったさや香・ロングコートダディ・ウエストランドの3組がファイナルラウンド進出を決めました。

ファイナルラウンド

“小市民怒涛の叫び”
エントリーNo.3312

①⑪ ウエストランド

(タイタン)
21:37

 1本目のネタからわずか20分弱で披露された2本目のネタでも井口さんの毒舌が冴え渡っていました。ネタは1本目と同様に“あるなしクイズ”を題材にしたネタだったのですが,「舞台役者やアイドルには向上心がない」「文学的なタイトルと不条理なフライヤーでやる単独ライブ」「ライブのポスターをポスターではなくフライヤーと呼ぶコント師」「長尺のネタ動画をあげているコント師」などさまざまな毒が繰り出された中,個人的に一番面白かったのは「『M―1グランプリ』にはあって『R―1グランプリ』にはないもの」というお題で井口さんが放った「大会としての価値・夢・希望。R―1優勝して売れた芸人見たことがない」というもの。どこか共感してしまった方も多かったのではないかと思います。
 コンプライアンスやらで言論すらも統制され始めている世の中でそれに逆行するかのごとく,毒舌を振り撒いている井口さんが“国民の代弁者”となり,多くの人の共感を呼ぶネタだったように感じます。スタジオのウケも良かったです。

“ゆるハイブリッド”
エントリーNo.4948
②⑫ ロングコートダディ


21:43

 タイムマシーンを題材にした漫才で江戸時代に行きたいという兎さんが堂前さんの操るタイムマシーンに乗り,ポーズや仕草・町の様子などから江戸時代かと思ってタイムスリップした先が毎回現代であるという展開。そこで2人の「○○やんけ~!」というツッコミが炸裂します。
 ラストは江戸か昨年からの2択でしたが,それも外すというまさかの展開。これに掛けて最後のオチは「もうええど」となっていたのが面白くて印象的でした。
 個人的にはタイムマシーンでタイムリープする際のBGMが毎回「笑ってコラえて!」の「ダーツの旅」のテーマというのが面白くて好きでした。

“熱血リベンジ”
エントリーNo.2852

③⑬ さや香

(吉本興業)
21:48

 「男女の友情は成立するか」という2人の論戦が繰り広げられていく漫才で昨年のゆにばーすさんの漫才を彷彿とさせる漫才でこちらも尻上がりに論戦が激化していく様子は見ていて面白かったです。

最後に

 午後10時06分。審査員7名中6名の票を獲得する圧勝でウエストランドが18代目王者に。その瞬間,井口さんはガッツポーズ,河本さんは涙。
 優勝コメントを求められると井口さんが「こんなにも少なくネタを飛ばした奴(河本さん)が号泣している」とお得意の毒。相方の河本さんは「相方ばかり過労ですごく暇なので,チャンピオンになったらコンビとして呼んで欲しい」とコンビでの仕事を懇願しました。

優勝したウエストランドの二人
(左)井口浩之さん (右)河本 太さん
©お笑いナタリー


 優勝したウエストランドのお二人には優勝トロフィーと賞金1000万円のほか,以下の景品が贈られました。

・佐賀牛1頭分(Cygames)
・M―1優勝者にふさわしいすごいジョッキ(SUNTORY)
・金のシリーズ659個(セブンイレブン)
・東京大阪間片道ヘリで行ける権・どん兵衛一年分(日清食品)

 昨年は燻り続けてきた最年長のおじさん達が,今年は鬱屈とした世の中の怒りを代弁した小市民が漫才の頂に立った「M―1グランプリ」。来年はどんな歴史が刻まれるのか今から楽しみにしたいと思います。優勝したウエストランドの皆さん,本当におめでとうございます!そしてファイナリスト達,そして今年のM―1を戦った7,261組の戦士達に改めて最大の敬意を表したいと思います。本当にお疲れ様でした!

 そしてこれが今年最後の記事投稿になります。今年も記事をご覧頂き,誠にありがとうございました。寒い季節で体調崩しやすいとは思いますが,皆様くれぐれも体調管理にはお気をつけください。それでは良いお年を!

 なお,今年の「M―1グランプリ」の各審査員の審査結果は以下の通りです。

「M―1グランプリ2022」審査結果一覧

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