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ファイターズ新球場が地価を動かす!?-北海道北広島市の地価上昇の驚異

3月23日に発表された2021年1月1日時点の公示地価。これを見て、私は正直ある点に驚いた。新型コロナウイルスの影響による下落傾向への変化や一部繁華街の大幅下落ではない。驚いたのは、新たな野球場、言い換えればボールパークの整備が及ぼす影響の大きさである。これを引き起こしたのは、北海道日本ハムファイターズの北広島市への新球場移転計画で、「ファイターズが地価を動かした」ということもできる。さらに、周辺整備や街づくりと一体になった構想が、地価への影響を大きくしたともいえる。

■新球場周辺の驚くべき地価上昇

住宅地、商業地それぞれの、率ベースでみた上昇幅の全国上位10地点は以下のとおり。これを見て正直驚いた。

▼住宅地の上昇幅全国10位(2021年地価公示より)

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▼商業地の上昇幅全国10位(2021年地価公示より)

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住宅地では10地点中4地点が、商業地では1地点が、合計20地点中5地点が北海道北広島市のもの。しかも、他の15地点では前年に比べ上昇幅が縮小しているのに対し、北広島市の5地点は、上昇幅が拡大しているか、ほぼ横ばいになっている。
これら5つの地価公示標準地に共通するのは、北海道ボールパーク(その新球場はエスコンフィールドと命名)から2㎞圏内に位置することだ。同パークの新設に合わせ、付近にJR新駅の建設も予定されている。その位置関係は以下のとおり。

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▲北海道ボールパークと地価公示標準地との位置関係

その変動は以下のとおり。各地点とも、2020年から上昇傾向に転じている。

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▲標準地北広島-1(住宅地)の対前年変動率の推移

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▲標準地北広島-4(住宅地)の対前年変動率の推移

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▲標準地北広島-6(住宅地)の対前年変動率の推移

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▲標準地北広島-14(住宅地)の対前年変動率の推移


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▲標準地北広島5-1(商業地)の対前年変動率の推移

地価公示の価格時点は1月1日なので、この地価の大きな動きは、2019年に始まっていたことになる。
さらに、付近の道基準地地価(価格時点は7月1日)の対前年比の変動は以下の通り。2019年7月まで1年間の上昇幅が、特に一部地点では急拡大している。2019年前半には、この大幅な地価上昇がすでに始まっていた。

・北広島(道)-2:
 +2.2%(2018.7)→+12.2%(2019.7)→+8.7%(2020.7)
・北広島(道)-3:
 +1.9%(2018.7)→+6.3%(2019.7)→+8.0%(2020.7)
・北広島(道)5-1:
 +1.9%(2018.7)→+3.8%(2019.7)→+9.1%(2020.7)

■北海道ボールパークの概要と経緯

北海道ボールパークにできるのは、エスコンフィールドと命名され、北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる野球場施設単体ではない。周辺も含めた36㏊の一体の敷地に、約3万5000人収容の開閉式の新球場を核とした「北海道ボールパークFビレッジ」と称する大規模な開発計画が予定されている。にぎわいのあるコミュニティ空間の形成を目指し、飲食や買い物ができるマーケット、グランピングや各種スポーツが楽しめるエリアなどが順次整備される。
新球場の内容は以下のとおり。

建設費用:約600億円 ※球場周辺外構部及び球場内設備・機器等を含む
仕様  :開閉式屋根 天然芝フィールド
建築面積:約50,000㎡
延べ面積:約100,000㎡
収容人数:約35,000人
構造  :RC造 S造
階数  :地下1階、地上4階

この3つの重点テーマは以下のとおりである。

・次世代ライブエンターテイメント
 テクノロジー等を活用した新しい拡張観戦体験の創造
・最先端ウェルネスライフ
 大自然アクティビティや最先端健康ソリューションの創造
・未来型リビングコミュニティ
 スポーツを核としたオープンでフラットな街づくり

この公式サイトは以下。自然と一体となった球場を中心とした新たな魅力ある街の姿が描き出されている。
https://www.hkdballpark.com/

そして、北広島市も、このボールパーク構想を、新たなまちづくりの核として位置づけている。その詳細は以下のサイトを参照。北広島駅西口には18階建の高層ビルも構想されている。
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/ballpark/detail/00130860.html

■ボールパーク構想の地価への影響

地価動向と整備経緯を比較すると、2018年秋の新球場の誘致決定が、周辺の地価上昇の引き金となった可能性が高いといえる。また、球場単体でなく周辺と一体となった「まちづくり」としての開発であること、新駅計画や再開発計画の発表が、その上昇幅を大きくし、またコロナ禍の現在でも上昇を維持させているとも考えられる。

北海道ボールパークをめぐる主な経緯は以下の通り。新球場建設が正式決定したのは2018年後半である。標準地地価が大きく影響を受けるようになったのは、そのあとの2019年1年間(2019年1月~2020年1月)である。

2016.6 北広島市がファイターズ球団事務所を訪問し、誘致活動を行う旨の
              申し入れ
2016.12 日本ハムとファイターズにより、新球場構想の具体的な調査検討
                開始を発表
                北広島市からファイターズへ提案書を提出
2018.3  新球場の準備会社「株式会社北海道ボールパーク」設立
2018.10 現予定地への新球場建設が正式決定
2018.11 基本設計及び実施設計期間
2019.10 新球場保有・運営会社「株式会社ファイターズ スポーツ&エンタ
                 ーテイメント」設立
2019.12 新駅の建設計画概要、北広島駅の改修計画を発表(JR北海道)
2020.1   新球場名が「エスコンフィールドHOKKAIDO」と決定
2020.2   JR北広島駅西口の再開発計画「駅西口周辺エリア活性化計画」発
                表(北広島市)
2020.4  「エスコンフィールドHOKKAIDO」の起工式
2020.12 「駅西口周辺エリア活性化計画」のパートナー企業に日本エスコ
                  ンを選定(北広島市)
2021.1     周辺の道路整備計画を発表(北広島市)
2023.3   「エスコンフィールドHOKKAIDO」開業(予定)
2028.3ごろ 新駅開業??

新球場の建設が正式に決定したのは2018年の秋であり、地価上昇が明らかになった2019年前半と見事に符合している。その後、周辺も含めたまちづくりのプランが公表されるとともに、2019年末~2020年初にかけて周辺の整備計画が次々と発表され、2020年4月に球場が着工した。コロナ禍の2020年以降も上昇を維持している大きな要因には、こうした周辺を含めたボールパーク内外の整備計画が具体化していることも挙げられる。新球場の整備により雇用や産業が創出され、新たな住宅需要が生まれるといった効果も見逃せない。
そして、地価水準が比較的低廉であった北広島市に新しい大型施設や開発計画が入ることで、率ベースでみた上昇幅が大きくなった、という影響もあるだろう。
現在、地価公示標準地の鑑定評価書はオンラインで閲覧可能となっているが、一様に価格変動要因としてボールパーク構想やそれに関連する新駅設置や北広島駅西口再開発の影響を挙げている。主要な標準地の鑑定評価書の「市場の特性」を抜粋すると以下のようになる。

(北広島-1)
「…ボールパーク建設予定地に比較的近く、新駅の設置により利便性の向上も見込まれ、需要はあるが、流通する物件が少なく、新型コロナ感染症の拡大以降も売手市場が継続している。…」
「…札幌の地価と比較して低位であるため需要は堅調であったが、ボールパーク開業や新駅設置による新たな雇用やアパート需要に対する期待から、近年、地価の上昇傾向が顕著である。…」
(北広島5-2)
「…周辺市の商業地価格と比較した割安感の広がりに加えて、数年後開業するBPへの期待感から、同駅(北広島駅)の乗降客数の増加が予想され、不動産需要が高まっている。一方、将来の地価上昇を見込んだ商業地の売り控えが認められ、取引自体が減少しつつある。…」
「…ボールパーク建設、新駅設置、JR北広島駅西口の整備等が具体化しており、周辺を含めた今後の発展が期待されている。…」

■まとめ

周辺の地価動向への大きな動きは、新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中心とする北海道ボールパーク構想の地域へのインパクトの大きさを示したものといえる。この引き金は北海道日本ハムファイターズの移転であるのは言うまでもない。さらに、魅力ある球場の内容や、球場単体だけでない周辺のまちづくりと一体となった構想が、高い期待感を持って受け止められていると把握される。類似の球場やスポーツ施設で、周辺の地価にこれだけ大きなインパクトをもたらした施設は、私には記憶にない。
試合だけでなく常に稼働するスポーツ施設の新たな「365日モデル」の1つとして、地域と結びついた素晴らしい施設内容が実現することを期待している。


■追記:V・ファーレン長崎の新スタジアム計画の場合

JリーグのV・ファーレン長崎も新スタジアム構想を持っている。長崎駅から徒歩約10分の長崎県長崎市幸町に「長崎スタジアムシティプロジェクト」と銘打ったサッカースタジアム、アリーナ、商業施設、ホテル、オフィス、駐車場などを作る計画で、ジャパネットホールディングスが事業主体である。サッカースタジアムは2024年からの稼働を目指し、アリーナは2021-22シーズンからのB3参入を目指しているバスケットボール・チーム『長崎ヴェルカ』のホームアリーナとなる予定である。

ただし、現在の付近の地価公示標準地「長崎5-14」の地価動向と整備計画を比較した場合、北海道ボールパーク構想のような地価へのインパクトは現時点ではみられない。長崎の場合、サッカースタジアムの移転構想が具体化する前の2018年の上昇幅が最大で、以降は上昇幅の縮小が続いている。

北広島との違いは何だろうか??わからないが、計画の熟度や進行度、新駅の有無、従前の地価水準の違いが想定される。ただし、計画の進行に従って、地価への影響が今後に現れる可能性はある。

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▲長崎スタジアムシティプロジェクトと地価公示標準地との位置関係

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▲付近の標準地長崎5-14(商業地)の変動

(基本設計概要)
スタジアム 約20,000席
アリーナ  約5,000席
ホテル   約270室
オフィス  約20,000㎡(貸床)
商業施設  約20,000㎡(貸床)
(主な経緯)
2017.4  長崎市の幸町工場跡地の公募開始
2018.4  ジャパネットホールディングスが優先交渉権を獲得
2018.11 長崎・幸町工場跡地 不動産売買契約締結
2019.6 (株)リージョナルクリエーション長崎設立
2020.12 基本設計完了
2020.12〜2021.3 実施設計者および施工予定者 公募
2021.4     実施設計者および施工予定者 決定
2022年    着工
2024年    完成目標


(参考資料)
国土交通省「土地総合情報システム」
「HOKKAIDO BALLPARK F.VILLAGE」公式サイト
https://www.hkdballpark.com/
自治体と一からつくる「野球を見なくても楽しい」ボールパーク 新・公民連携最前線 2020.6.11
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/051900072/?P=1
ボールパーク特設サイト-北海道北広島市-
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/ballpark/
北広島市企画財政部ボールパーク推進室ボールパーク推進課「ボールパーク構想推進の経過と進捗について」2018年12月19日 総合計画推進委員会 資料
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/hotnews/files/00131500/00131545/bp.pdf
「北海道ボールパーク(仮称)開業に伴う新駅案の検討状況と北広島駅の改修計画について」
2019.12.11
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20191211_KO_BP.pdf
赤玉 裕匡「北広島市、北海道ボールパーク周辺の道路整備計画を発表 国道274号への連絡道、新駅周辺の歩行者道など建設」TRAICY、2021.2.1
https://www.traicy.com/posts/20210201197592/


J2長崎の新スタジアム建設が本格始動 街づくりと一体、民間企業が目指す“世界観” FOOTBALL ZONE、2021.3.23
https://www.football-zone.net/archives/313396
新スタだけじゃない…2024年開業予定の複合型施設「長崎スタジアムシティ」とは?
SOCCERKING、2020.12.4
https://www.soccer-king.jp/news/japan/japan_other/20201204/1144130.html
株式会社ジャパネットホールディングス、株式会社リージョナルクリエーション長崎「長崎スタジアムシティプロジェクト」2020年3月
https://www.mext.go.jp/sports/content/20200428-spt-sposeisy_000006568-2.pdf
長崎スタジアムシティプロジェクト進捗のご報告~基本設計完了~2020.12.18(ジャパネットグループのニュースリリース)
https://corporate.japanet.co.jp/newsrelease/20201218/

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