見出し画像

BUCK-TICK 櫻井敦司さんが司っていたものについて

櫻井敦司さんの急死

2023年10月19日の午後6時30分、BUCK-TICKが横浜市内でファンクラブ限定のライブを行っていたところ、曲の途中で体調不良によって救急搬送。その日の午後11時9分、脳幹出血で櫻井敦司さんは亡くなりました。享年57歳。心よりご冥福をお祈りするとともに、このシンガーソング・タグ・クラウドを櫻井さんとBUCK-TICKのみなさん、そして今も変わらずBUCK-TICKを大切に思っているあなたへ捧げます。

シンガーソング・タグ・クラウドとは?

音楽と接続した形で言葉を残している人物の語彙を一言一句分解して定量的に解析。よく使う単語やイディオムから、精神のフォルムを明らかにしようとするプログラミング手法。今回は櫻井敦司さんがBUCK-TICKで書いた歌詞80,607文字(アルバム22枚 / 曲数:191曲)を元に解析をしました。正直まだ、気持ちの整理がついていません。櫻井さんが残してくれた言葉を反芻することで、平静を保つ努力をしています。

タグクラウド化の過程で明らかになる言葉と登場回数

プログラマー忍者ハットリさんの感想

解析をするまえに、まずはフラットな意見を。言葉の分類作業はプログラミング担当の忍者ハットリさんに頼んでいるのだが、彼女はあまり音楽を聞かない。当事者とも距離があって、率直な感想を抱きやすい。そもそも僕が好きな人しかクラウド化しないから、分析する前からかなり偏っている。忍者ハットリさん曰く、櫻井さんは身の周りのことを大切に歌にしているらしい。手に余る大きなものを歌にする人もいるなかで、櫻井さんはあくまで身の回りのこと。自分の理解の届く範囲のことをしっかり歌にしている印象をもったのだそうだ。たしかに櫻井さんの愛した猫は「cat」という言葉になって歌のなかに49回も登場しているし、「歌う」ことが大好きだったことも歌詞に現れている。

人称表現と組み合わせの巧みさ

歌詞を書く人のなかでも、ここは大きく分かれる。僕は僕のまま、一人称を固定して歌うのが基本。櫻井さんは「俺」と歌うときも、「僕」と歌うときもある。「お前」のことだけ歌う人がいれば、「あなた」のことだけを歌い続ける人もいる。人間は潜在的なバランス感覚を持っており、俺の宛先はお前に、僕や私の宛先はあなたにしてしまうところがある。櫻井さんは、俺があなたを宛先にすることも、僕がお前に歌うこともある。曲ごとに、個人的な関係を、歌を聞くあなたと結んでいたのだと思う。歌の数だけ関係性がある。解釈がある。優れた作品と触れたときだけ感じられる自由度が、櫻井さんの歌詞には常にある。

死の数だけ生があり、狂うほど振り切れた感情の先に愛がある

「愛する」と同じ数だけ「狂う」という言葉を使っていたり、「死ぬ」という言葉の数だけ「生きる」という表現がある。櫻井さんは、一見物騒にも思える言葉を使いながらも、度を越えた感情表現を正規表現のように使っていた。道化師Aの歌詞のなかに「俺だけが 殺したいほど愛している」というイディオムが登場する。ここに全て現われているように感じる。「殺す」という言葉についても、多面的な配慮のうえで使われている。瞬間的にムカついたから殺すという短絡的な表現は皆無、櫻井さんは反戦の意思をデビュー当時からいろいろな形で表明してきた。だから、殺すという言葉ひとつとっても、けして簡単に使っていない。殺すものがいれば、殺されるものもいる。痛みと悲しみがつきまとう。一方で、Jonathan Jet-Coasterでは、一般的には兵器として扱われているものを、スピード感と密度の代替として使っている。これもある意味で反戦だと思う。誰かを愛したり好きになるときに宿る情熱、それが結ばれるかもしれない時に生じる揚力、これを櫻井さんは最後まで信じていたと思う。Jonathan Jet-Coasterは、文字通り闇を切り裂こうとするものたちへの応援歌とも解釈できた。締切が迫って元気もなくて、先が見えてない深夜によく聞いている。

目、胸、血、手、声、命、唇、体などの身体表現、それに紐づく動詞(踊る、歌う、揺れる、消える、震える、濡れる)が織りなすイメージの洪水

櫻井さんのビジュアルイメージが、どんな楽曲を聴いていても色濃く想起されるのがBUCK-TICKの特徴のひとつだ。単に櫻井さんの破格の美しさに起因すると思っていたのだが、解析をしてみると言葉としても身体を切り刻むように歌の中に封じ込めてあった。骨ばった指で目を覆い隠していたり、細くて筋肉質な両腕を高く掲げて天を仰いだり、ガーターベルトを装着させた長い足を交差させながら踊っていたり。ライブを観ればそのイメージの洪水と対面することになるのだが、音だけに耳を傾けてもやっぱり櫻井敦司さんのビジュアルイメージはそこにある。名詞だけではなく、身体と紐づく動詞も多用している。それがリスナーの脳内で展開されるイメージを連続的なものにしている。意図的だったのか、自ずと身につけた手法だったのか。いまは確認する術を持たないが、櫻井さんがイメージの指揮者であったことは自明だ。ここに今井寿さんの天才的かつ超飛躍的な音像世界、そして星野英彦さんの繊細でサウンド、そして樋口豊さんとヤガミトールさんの大胆かつ緻密なリズムが混ざりあい現象として爆ぜるBUCK-TICK。あらためて唯一無二の凄まじいバンドだと思う。

歌が好きで、猫が好きで。何よりもBUCK-TICKとファン(お魚さん)を愛した櫻井敦司さん。安らかにお眠りください。そして今井寿さん、インスタでBUCK-TICK続ける意思を表明してくれてありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?