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現代社会とコンクリート

おそらくセンター試験には出題されないだろうけど、現代社会とコンクリートは切っても切れない材料です。

現代、という言葉が具体的にどこからどこまでを指すかはわからないけれど、日本においては1949年に東京の業平橋(いまのスカイツリーの下)で東京コンクリート工業社が発足したことから生コンクリート産業がはじまり、これが高度経済成長期の建設需要に後押しされる形で爆発的に普及し、今日の日本社会はコンクリートだらけです。
仮に明日、コンクリートに取って代わる建設材料が現れたとしても、100年クラスの寿命を持ち解体工事が大変なコンクリートが街から姿を消すことはとても予想できません
そう考えると、2019年現在から数えて前後の数十年から百年くらいの間は、たぶんコンクリートはこの社会において欠かせない材料になっていると思います。(少なくとも日本では)
日本では現在、年間でおよそ2億トン(=8500万㎥)の生コンクリートが出荷されており、人口と365日でこの数字を割ると、単純計算でも日本人は毎日4kg前後のコンクリートを消費している計算になるわけです。
とんでもない量ですが、たぶんほとんど知られていません

ここでは、現代社会においてコンクリートやそれにまつわる活動がどんな位置づけになっているかをまとめてみたいと思います。
今日も必要な予備知識はこれだけ。

コンクリート=水+セメント+砂+石

それではさっそく。目次は以下。

コンクリート・セメントの消費量

とにかく、コンクリートっていうのは、消費量が莫大な材料です。

トップ画像にも載せませたが、これは今年の2月に見学に行った完成直前の八ッ場ダムですが、こんなに巨大な構造物を造ることができるのはコンクリートくらいのものです。
ダムの体積がそのまま使用量だとすると、だいたい八ッ場ダムで100万㎥(=240万トン)のコンクリートが使用されている計算です。
もちろん、こういった大規模なプロジェクトから、戸建て住宅の基礎やブロック塀に至るまで、大小様々な形でコンクリートが提供されています。

実際、どれくらいの量が流通しているかというのは、しっかりと統計が取られています。
生コンクリートセメントは月毎・都道府県毎の出荷量が記録されており、これは後々の節でも色々な形でデータをお見せします。

2018年度の国内における生コンクリート出荷量は8500万㎥(=2億トン)で、セメントは4200万トンです。
数字がデカすぎてなにがなんやらですが、まず補足しないといけないのは、生コンクリートは体積(㎥)で数え、セメントは重量(トン、kg)で数えます。
例えば家を建てるときに柱(タテの部材)や梁(ヨコの部材)をコンクリートでつくるとしたとき、その寸法からコンクリートの必要量がわかります。
そのため工事現場では必要なぶんのコンクリート体積を計算し発注するので(実際には、ちょっと余裕をもたせて)、生コンクリートの出荷は体積で記録されます。
出荷の要請を受けて、生コンクリート工場では所定の量の材料を混ぜ合わせてコンクリートをつくりますが、この時は重さで計量します。
水を何キロ、セメントを何キロ、といったふうに。
そのため、セメントは重量で記録されます。

で、出荷量の話に戻りますが。
とにかく、セメントを材料とするコンクリートっていう建設材料は、ものすごい量が消費されています。
冒頭でも述べましたが、一人当たりの消費量で考えるとセメントなら約1kg生コンクリートなら約4kgくらいの量を毎日僕たちは消費している計算になります。
(ちなみに主食のお米だと150gくらい。)

ここで少し、世界に目を向けてみましょう。
各国のセメント生産量を比較すると、だいたい以下のようになります。
(セメント産業年報より2015年度データを使用)

まあとにかく、中国がすごいわけです。最近はインドの成長も目覚ましいですが。
セメントの生産量が何に影響されるかというといろいろ要因は考えられるので、試しにGDPで比較してみましょう。
日本のセメント生産量・GDPを1としたときの各国の比を比べてみると、以下のグラフのようになります。

まあ僕も研究職でいろいろなグラフを書いてきたけど、仕事でこんなめちゃくちゃなグラフ出したらぶっ飛ばされます
何が言いたいかっていうと、セメントの生産量はどうやらGDPとは比例しないということです。
だから2つのグラフには相関も何もありません。
中国の生産量がずば抜け過ぎているのでわかりづらいですが、それ以外の国と比較しても経済活動の規模とセメント生産量は必ずしも比例するわけではなさそう。
これには色々と理由があって、まず第一にセメントの自給率というのは各国によって異なります。
コンクリートの材料のうち、他の材料よりも生産にコストを要して保存の効くセメントは、海外から輸入することも可能です。
そのため、セメント生産量≠コンクリート消費量なわけですが、生憎コンクリートの各国での消費量はまとまったデータがありません。
ただこれらの国に関して言えば、セメントの生産が可能な国ですので、そういった国ではわざわざ輸送コストをかけて輸入することはそこまでありません。
概ね、セメント生産量が大きければ国内のコンクリート消費量も大きくなると考えていいと思いますが、セメント生産量は近隣諸国への輸出量も含んでいることを考える必要があります。

ということを示すために、2018年度における国内におけるセメント販売量と生コンクリート出荷量を比較してみました。綺麗な相関関係です。
これは、仕事で出しても怒られないグラフです。

建設投資額との関係

セメントなりコンクリートの消費量がGDPよりも比例すると考えられるのは、建設投資額です。
なんといってもコンクリートは建設材料なわけですから、建設需要が良ければコンクリートが売れると予想できます。
例のごとく、グラフにするとこんなかんじ。

悪くない相関ですね。
ちなみにこの間、セメントとコンクリートの出荷量はほぼ比例と考えてもらって大丈夫です。
建設需要にしろセメント・コンクリートの販売量にしろ、平成初期のピーク時に比べて現在ではその半分程度に落ち着いています。
アベノミクス以降の近年の傾向としては、建設需要は回復しているのにセメント需要はそれほど回復していないことが挙げられます。
つまり、近年の建設工事はコンクリートから脱却しつつあります。
これにはいくつか理由があって、そのひとつがコンクリート造の建物が減少していることです。
だいたい、建物をつくるときはRC(鉄筋コンクリート)造、S(鉄骨)造、木造およびこれらの複合構造などが挙げられますが、近年ではS造などの他の材料に取って代わられてきつつあります。
もうひとつは、建設工事の内容・目的が変わってきていることです。
僕は最初に八ッ場ダムの写真を挙げましたが、こんな工事はいまの日本では稀です。
ダム建設のようにコンクリート使用量の多い治水工事などよりも道路工事など他の分野の工事シェアが上がってきていること、さらには同じ道路工事でも道路を単純に敷くのではなくETCや監視カメラなどの設備を設置したりと、設備投資の内容の変化が影響しています。
一件一件の公共事業が小型化し、諸経費が増加していることも考えられます。
新設工事の減少も見逃せない理由です。
建設投資、と言ってもその全てが新しい建物を建てるのではなく、経年劣化で傷んだ建物を修理することも立派な建設工事です。
いまでは投資額の4分の1程度がこのような維持管理に移行しつつあります。

というわけで、建設投資額とコンクリートの消費量に相関はあるのは間違いないのですが、この比率は上述のような事情で変わっていきます。
近年の日本では、上に挙げたような事情でコンクリート以外の要素が建設工事に関与する割合が増えてきているわけです。
(というわけで、実は僕たちはそんなに景気が良くないのです。)

同様のことは、先ほどのGDPとの比較のグラフからも言えます。
建設工事の中でコンクリートの割合が相対的に低下しているように、全産業における建設業の割合も低下していることが考えられます。
GDP額との乖離は結局、建設がお金になるかどうかということにもつながります。
先ほどのグラフでは例えば、世界第一の経済国であるアメリカは、セメントの消費量は日本や韓国とそこまで大きな差は無いと言えます。
かなり乱暴な言い方をすれば、アメリカにとっては、国内の建設投資がひと段落してる上に安価で輸出したとしても輸送によるコスト割れを起こしかねないセメントをせっせと作るよりも、iPhoneを売ったほうが遥かにお金になります。
この辺は、コンクリート・セメント産業の規模がその国の産業の中でどれくらい大きいか、という話に関わってきます。
繰り返しですが、日本ではセメントもコンクリートも、現在ではバブル全盛期の半分程度の需要にとどまっています。
一方この間、情報通信などの他の産業が台頭していることもあり、セメント・コンクリート産業は全産業界における規模を相対的に半分以下まで減少させてると考えられます。(別にこれ自体は悪いことではありません)

コンクリートはどこへ消えたか

それでも冒頭で言ったように、いまでも日本人は毎日数キロのコンクリートを消費しているわけですが、おそらくそれを実感している人はいません。
(ちなみに僕は実際に消費しています。)
皆さんがコンクリートの消費を意識するのはせいぜいマイホームを建てるときくらいでしょうか。そう考えるともしかしたら人生で一度あるかないかかもしれません。

じゃあ、コンクリートって結局どこに・どれくらい使われているんでしょうか?
コンクリートもセメントも、使用用途は「官公需」「民需」に分けられます。
簡単に言うと、公共事業か民間工事か、といったところですね。
2017年度実績ですと、生コンクリートは官公需が40%で民需が60%、セメントは46%で54%です。
どちらも、官公需4割・民需6割といったイメージでいいと思います。
民需の方が多いんです
つまり、政府が主導して社会インフラの普及や雇用確保のために道路やトンネルやダムを建てるよりも、個人や法人が家屋や建物を建てたり、鉄道会社や道路会社がビジネスとして交通網を確保するのに使われるコンクリートの方が多いわけです。
同様のことは建設投資額にも言えます。

僕たち現代人は、建設工事が自分とは関係ないところで起き、なおかつ無駄なものが多いように考えがちです。
それがハコモノ政治の批判や「道路族」などといったマイナスイメージを持った言葉を産み出しました。
そうはいっても、建設工事やコンクリートの使用のうちの半数以上は、民間で、つまり自由経済の世界で起こっていることであり、社会の選択なんです。
意識することは少ないかもしれませんが、コンクリートの大量使用というのは間違いなく皆さんの意思が反映されているはずです。
だから、「コンクリートから人へ」という言葉は、僕は許せません。
コンクリートが使用される社会を否定するようなマニフェストを標榜することはそれを選択した有権者への冒涜になりかねませんし、もちろん土木技術者とコンクリート技術者は内心傷つきます。
(一方、社会に対してコンクリートの良さを伝えきれていない我々にも大きな責任があると僕は考えています。)

えーと、ちょっと話がそれましたね。
民需というのは景気に左右されますので、世界経済の動向にももちろん影響を受けます。
投資家の皆さんはご注意ください。

コンクリートの流通と価格

民需が多いとは言ってもコンクリートを身近に感じない理由の一つに、個人で買うことがほとんどないことが挙げられます。
同じことは建設業界にも言えて、要するにセメント・コンクリート・建設というのはBtoBの世界なわけです。
建設会社がほとんどCMを打たないのは、お茶の間にCMを流したところで建設工事の受注が直接増えることがないからです。
半面、不買運動などの社会的制裁を行えないため、何かあれば業界全体のイメージがなんとなく低下してしまう。
建設業がどこか暗く見えがちなのはこういった理由もあると思います。
そういうわけで建設業というのは一般社会への知名度も低くなりがちです。
僕の身の回りの人も現在勤務する会社への内定を伝えたときも社名を知りませんでしたし、田舎の地元ではなおさらなので、同窓会ではモテません。

話を戻します。
個人では買う機会のなかなか無いコンクリートですが、実際のところはどうやって流通しているのでしょうか。
図にすると、だいたいこんなかんじ。

図中では、最も一般的な流通経路を赤線で示しています。
まずコンクリートになる前の材料としてセメントの話ですが、このほとんどがトラックやタンカーなどの大型輸送により流通します。
バラセメント」とよばれますが、ぶっちゃけセメントのほぼ99%がこの形で流通します
これは特約店を通じて消費者に流通します。
消費者とは誰か、という話ですがだいたい現在では、セメントの7割くらいが生コン向けに消費されるイメージですね。
流通量はごく少ないのですが、袋詰めのセメントは特約店や卸協同組合を経由して工事業者に流通します。
工事現場でちょっとした量のコンクリートやモルタル(石の無いコンクリート)を練るのに使用されるのがこの袋詰めのセメントですね。

次に生コンクリートの流通ですが、これは生コン協組(協同組合)を経由する場合が主流です。
協同組合とは何か、ということは次節で述べますが、これと提携のある販売店を通じて工事業者が購入します。
そのため個人でも生コンクリートを購入することはできますが、最低出荷量は750ℓとかなので、気軽に買うことはできないわけですね。

どうやらお気軽には購入できないコンクリートですが、価格っていくらくらいなんでしょうか。
最新の積算資料(建設に関わる資材等の価格や料金をまとめている月刊誌)によると、現在の全国平均は以下の通りです。

セメント:10600円/トン
生コンクリート:14000円/㎥

少し書き方を変えますか。

セメント:10.6円/キロ
生コンクリート:14円/ℓ または 5.8円/キロ

いやー、安いですね
(ここで高いと思われてしまうと僕の生活に関わるので勘弁してください。)

実際、皆さんが予想する価格っていくらくらいなんでしょうか?
キロあたり数円から10円程度で購入できるものは身の回りでは水くらいなもので、スーパーでみかける食品などの感覚からすると相当安価に思えるかもしれません。
そうはいっても、前に述べたように水に次ぐほどの膨大な出荷量を有する材料なわけですから、このくらいの価格で流通しています。
ちなみにコンクリートの体積の大半を占める石や砂はもっと安くて、キロあたり2、3円とかです。

安いのは上記の流通経路で買う場合で、アマゾンでセメントを購入しようとすると1kgあたり100円以上とかで売っています。
100均とかでも数百グラムの工作用セメントが売っていますね。
これは別に皆さんがセメントやコンクリートの価格を知らないからってアコギな商売をしているわけではなくて、袋詰めや小口出荷によってそれだけコストがかさんでいるからです。
大量出荷のスケールメリットは偉大ですね。

というわけで、家庭でコンクリートが必要な際には流通平均から考えると単価の高い材料をホームセンターなどで揃えて買うか、一世一代の覚悟を決めて750ℓとかの大量の生コンクリートを発注すればいいわけです。
無茶は良くないし生コン屋さんに迷惑をかけてもいけないので、できれば前者でお願いしますね。

生コンクリートという産業

この記事の最初から生コン生コンと連呼してきましたが、生コンクリートという産業について改めてご説明したいと思います。
世の中にコンクリートを流通させる方法は2つあって、一つは硬化したコンクリートを出荷する方法です。
プレキャスト(PCa)コンクリートと呼ばれますが、これは工場で製造から硬化までが完了するコンクリートです。
使用用途としては擁壁や暗渠、身近なところだと駐車場の車止めなんかもその仲間です。
これらは、工場での生産性を考慮して、決まった形のものが出荷されます。


もう一つが生コンクリートで、これは工場で製造(練り混ぜ)し、工事現場で硬化が完了するコンクリートです。
つまり、コンクリートは硬化前のドロドロの状態で出荷され、これが生(英語だとfresh)という言葉の由来です。

工場で出荷される前、「スランプ試験」という試験に使用された生コンクリート。
このようにドロドロの形をしているため、振動を与えれば簡単に流れることができます。

ドロドロの最大のメリットは、工事現場で所定の型枠に打ち込むことによって自由な形を得ることができます。
プレキャストと比較すると、環境条件が変わりやすい工事現場での品質管理が難しくなりますが、この自由度の高さは何物にも代えがたいです。
セメントの用途先から逆算すると、現在でも日本ではコンクリートの7~8割くらいが生コンクリートとして使用され、残りがプレキャストか現場で練り混ぜられるコンクリートといったところでしょうか。

生コンクリートというのは出荷時点はドロドロの不定形ですが、JIS(日本工業規格)によって品質規定された、歴とした工業製品です。(JIS A 5308)
その品質としては強度や流動性などありますが、最も大事な規定は、練り混ぜられてから90分以内に工事現場に到着しないといけない、ということです。
時間が経ってしまうと、輸送中に硬化してしまいますからね。
90分で移動できる範囲を考えると、工場から10~15km程度の範囲で供給を行う必要があります。
この意味で生コンクリートとは、供給範囲が極端に狭い究極の地産地消産業であると言えます。
保存の効く製品であるセメントの工場が国内で17社30工場しかないのに対して、生コンクリート工場は国内に3322工場あり(2019年現在)、従業者数は2万人少々といったところです(試験:輸送:事務の人員日は3:6:1)。

経済産業省の「生コンクリート製造業の集約化に関する調査・検討報告書(2010)」では、生コンクリート産業の特色として次の10点を挙げています。

①在庫の効かない製品を商品とする
②地域密着型の産業である
③顧客との間の価格形成力が脆弱な産業
④原材料供給産業に従属的な産業
⑤建設用資材の中間製品の配達専業
⑥建設資材産業の件業者の多い産業
⑦協同組合による共同販売事業
⑧新規参入の比較的容易な産業
⑨創業面で環境配慮が必要
⑩品質差別化の難しい業種

生コンクリートというのは前述の90分ルールの制約上、地域密着型にならざるを得ず(②)、前節で述べたように個人消費が期待できず顧客開拓が難しいために建設需要ありきの構造となり、その上保存の効かないドロドロの製品だからその時その時の出荷量に振り回され(①)、下請け構造の中では発言力はお世辞にも高いとは言えず(③)、家電製品などのように差別化は難しい(⑩)ものです。
このような背景から事業者たちが結託するのが生コンの協同組合で、生コン側としては価格安定や他事業者への交渉力の確保需要家側としては安定供給や品質確保といった面から協同組合の役割が必要になっています。
ちなみに全ての生コン会社が協同組合に属しているわけではなく、だいたい8割弱の会社が所属しています。

生コンというのは究極の地域密着産業で、なおかつその特色はその地域の協同組合に反映されるわけで、地域差の多い製品です。
コンクリートの地域差(これも機会があれば詳しく書きますが)というのはふつう、関西地方では良質な骨材が枯渇していて他所で採れた骨材を使用しているとか北海道では寒中コンクリート・九州では暑中コンクリートになるとか海沿いのコンクリートは中の鉄筋が錆びやすいとか、そういう技術的な面を指すことがほとんどですが、経済的に見てもめちゃくちゃ地域差の大きい材料です

まずひとつが出荷量ですが、これは冒頭のセメントの国別生産高と同じように、建設工事の需要などによって上下します。
まず、地域別の生コンクリートの出荷量は以下のグラフのようになります。

生コンの地域分けと言うのは少し特殊で、関東は一区と二区に分けています。
要するに一区が首都圏で二区がその他ですが、やはり首都圏>九州>近畿>東海といったように人口や経済規模の大きい地域ほど出荷量が大きくなります。

もっと細かく、都道府県別に見るとこう。

出荷量は東京と兵庫大阪(両府県の統合で統計が取られる)が頭抜けています。
愛知・福岡・北海道と主要な地方都市と首都圏の3県が続きます。
沖縄なんかは県別GDPはそこまで高くない割には出荷量が多く、それだけコンクリートを多く使用する工事の量が相対的に多いのだと考えられます。
最も少ないのは鳥取・島根・奈良の3県で、50万㎥弱といったところです。

続いて、価格はどうでしょうか。
これも上のように都道府県毎に色で示せばよいのでしょうが、もうこの作業をやりたくないのと、何より出荷量と価格には明確な相関がないので端折ります。
地域別の生コン価格(積算資料 2017年8月上旬調べ)は以下の表の通りです。

まず注目したいのは、九州と関西で1.7倍程度の開きがあることです。
これだけの地域価格差があるのは、工業製品ではかなり珍しいことではないでしょうか。
他の建設材料としてセメントや鉄筋や砕石などど比べて場合にも、これだけ地域差があるのは生コンクリートくらいのものです。
この地域差に何が影響しているかというのは断言することが難しいです。
ひとつ間違いないのは材料供給性の影響ですが、当然材料になるセメントや砂や石が高価な地域はコンクリートの価格もそれに釣られて高くなることが予想されます。
生コンが最も高価な関西は骨材資源に乏しく、反対に生コンが安価な九州は比較的豊富です。
九州では3000円少々程度で取引される砂利が関西では4000~5000円程度で取引されます。
これに加えて、建設工事の需要規模や生コン協組の地域性などによって、生コンの価格というのも全国各地で異なってきます。
建設工事の需要が盤石でなおかつ協組が安定している地域では強気の価格交渉に踏み込める、といったことも考えられます。

コンクリートという材料は工学的にもそうですが、経済的にもかなり地域性の高い材料であるわけです。
コンクリートを身近に感じる人は少ないかもしれませんが、こういう意味でも僕はコンクリートは良くも悪くも人間的な材料だよなあと考えています。

まとめ

コンクリートの消費量と経済指標との比較、国内における地域差を見てきましたが、現代社会においてコンクリートは他の工業製品と比較しても独特な立ち位置を有しています。
消費量がやたらと多い割には日常生活で意識することの少ない材料ですが、少しでもコンクリートを身近に感じてくれたら幸いです。
身近に感じるかどうかは皆さんにお任せしますが、コンクリートが皆さんの身近にあることは現代社会では紛れもない事実です。


今日の本文は、以上です。
それでは、また。

【参考文献】
・セメント協会HP
http://www.jcassoc.or.jp/
・全国生コンクリート工業組合連合会・協同組合連合HP
https://www.zennama.or.jp
・セメント新聞社:セメント産業年報 アプローチ 第52集 2018年版
・(一社)経済産業統計協会:平成29年 生コンクリート統計年報
・コンクリートメディカルセンター「世界のセメント生産量とセメント産業企業別シェア」
https://concrete-mc.jp/cement-share/
・世界経済のネタ帳「世界の名目GDP(USドル)ランキング(過去: 2015年)」
https://ecodb.net/ranking/old/imf_ngdpd_2015.html
・国土交通省「統計情報」
http://www.mlit.go.jp/statistics/details/other_list.html
・(一社)経済産業統計協会「積算資料 2019年5月」
・経済産業省「生コンクリート製造業の集約化に関する調査・検討報告書(2010)」

*御礼
本記事で使用した生コンクリートの写真はきちょべーさん(@kichobee)からご提供いただきました。ありがとうございます!


今日のコラム:コンクリートと食べ物について

だいたいコンクリートを触りすぎると変なことを考えるようになって、綺麗につくれたコンクリートを見て「なんだか美味しそうだなあ」とか考えるようになります。
まあ実際にコンクリートが食べられるかと言ったらそんな訳はなく、映画「High&Low」で岩田剛典が生コンクリートを食べさせられる拷問のシーンでは胡麻豆腐が使われていました
コンクリートは食とは無縁ですしおそらく未来の世界でも食用コンクリートなんてものは使われないとは思いますが、コンクリートの話をするときはよく食べ物の話を例えに出します。

コンクリートは、どの材料をどの程度混ぜるかという「配合」がきわめて重要ですが、これは料理でいう所の「レシピ」と同じ。
コンクリートを料理に例えるとき、おそらく最も多く使われるのが「お好み焼き」です。
コンクリートとお好み焼きの対応関係は、セメント=小麦粉、骨材(石や砂)=キャベツなどの具材、混和材=トッピング、水=水といったところです。
お好み焼きもコンクリートも、粉に対する水の量がとても大事で、水が多すぎるとべちゃべちゃで固まらず、ある程度の嵩(カサ)を確保するためには粉と水以外の材料が欠かせませんね。
ちなみに粉と水の比率は、コンクリートだと2:1、お好み焼きだと1:1、たこ焼きだと1:3とかでしょうか。

これらはもちろん例え話の範疇ですが、コンクートに食料をほんとうに混ぜるとどうなるのでしょうか。
よく知られている対比として、コンクリートは塩を混ぜると早く固まり、砂糖を混ぜると遅く固まります。
塩分は内部鉄筋を腐食させる大敵としても知られております。
砂糖は非解離性のサッカライドを生成して、アルミナシリカゲルがセメント粒子に付着することで硬化を阻害します。
これを上手く利用して、かつてアメリカではミキサが故障した際には砂糖を投げ込んでコンクリートが固まるのを送らせてミキサー車をダメにするのを防いでいた、なんてエピソードもあります。
無いとは思いますが、コンクリートに生き埋めされるのがご心配な方は角砂糖でも持ち歩いておきましょう。

生コンで思い出したのですが、「生コンクリート」という日本語は戦後に土木学会の土木用語委員長を務めていた福田武雄先生が"fresh concrete"を「生コンクリート」と訳したことに始まると言われています。
これに怒ったのが日本のコンクリート工学の祖である吉田徳次郎先生で、「生の反対は煮るか焼くかであるが、煮たコンクリートも焼いたコンクリートも見たことが無い」と憤慨したそうです。
それでは"fresh concrete"とはどう訳せばいいのでしょう?と尋ねたところ、「まだ固まっていないコンクリート」だと応えたそうです。
(山田順治 著「コンクリート夜話」 第24話より)
この表現は今でも様々な教科書や設計指針などに反映されております。
とはいえ、吉田先生はコンクリートの最高強度理論において強度発現に最も効果のある養生は煮沸養生だと仰っているので、煮たコンクリートがあり得ないとも言えなくはないですね。


ほんとに終わりです。じゃあね。

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