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コンクリートを知らない人のためのセメントとコンクリートの話

先日、ツナガルドボク中国というNPOにお呼ばれして、大学生達を前にざっくりとセメントについて話す機会がありました。
招いてもらったきっかけは、僕が代表理事の宮内さん(大学院一年生)のファンだったから。
宮内さんは僕よりもいくつか年下だけど、その活動にはいつも刺激をもらっています。詳しくは下の記事など読んでください。

依頼された内容としては、「ざっくりとセメントとコンクリートの説明をしてください」という内容だけど、これがすごく困った。
というのも、僕はセメントやコンクリートをざっくりと考えたことがなかったからです。
僕が大学でコンクリートに出会ってからだいたい7年くらい経ち、そのままコンクリートを専攻してコンクリートの仕事をするようになったけれど、ずーっと専門家としてコンクリートに関わってきました
コンクリートを知っている人と、小難しいコンクリートの話をするのは、プロだからできて当然です。
(僕はまだ経験が浅くて未熟な部分もたくさんあるけれど、”新米”とか”若手”とか言って自分を下げることは、聞き手・読み手とコンクリートに対して失礼だから絶対にしないようにしています。専門を明かして話す以上、年数に関わらずプロです。)

でもふと、セメントとコンクリートの違いを知らない人に、自分ならどう説明するんだろう、と気になりました。

ので、引き受けました。
その時のスライドを少し改変して公開します。(宮内さん、許可ありがとうございます。)
あくまでセメントやコンクリートを知らない人に向けて書いているし、僕個人の解釈や思想が強い部分もめちゃあるので、建設業で働いている人とか、コンクリートを専門にする人にとっては欠伸の出るようなことや、反対意見もあると思います。
本当は、そういう意見が盛り上がることが一番だと考えているので、批判・批評も超ウェルカムです。

と、その前に。

皆さんがどういった経緯でこの記事を読んでいるのかはわかりませんが、僕は「コンクリート」について知りたい方がいれば、真っ先に以下の記事をお勧めします。
僕が知る限り、インターネット上で、ここまでコンクリートに関して簡潔・中立かつ余すところなく述べている記事はありません。
僕は僕の記事の面白さは保証できませんが、インターネット内外問わずコンクリートに関する文書をたくさん読んできた読者として、これだけは保証できます。

で、ここからは。

そういった完成された記事ではなく、僕の主観と偏見とアルコール混じりの駄文に付き合ってくれる方がいれば、ぜひぜひお読みください。

【この記事の見方】
・時間のない人/時間はあるけど興味のない人
⇒スライドだけ見てください。
・時間があって興味のある人
⇒スライド1枚ごとに解説文を書いたので、この記事の後ろの方まで読んでみてください。飽きたら閉じて明日にでも読んでください。

スライドは、こちら

以下、コメンタリーです。

【1枚目】

とりあえずセメントが何かっていうと、コンクリートの材料です。これに尽きます。
実際、国内で流通しているセメントは70%くらいが生コンクリート、15%くらいがプレキャストコンクリート、15%くらいが地盤固化材として使用されています。
コンクリートの定義はさまざまで、この後もお話しますが、とりあえず水とセメントを混ぜるという組み合わせは絶対です。
これは、セメントと水が化学反応性を持っているからで、コンクリートが固まる理屈はセメントの反応で説明できます。
砂と石は水に対して化学反応性を持っていないために、安定します。
そのため、コンクリ―トにおいて骨格を形成する役割を担っています。だから「骨材」と呼ばれるわけで、セメントは肉で水は血といったところでしょうかね。
セメントに水を混ぜると「セメントペースト」というサラサラの流体に、そこに砂を足すと「モルタル」というもうちょっとドロドロしたものに、そこに石を足すと「コンクリート」というもうちょっとゴロゴロしたものになります。
この3つは、建設を学ぶ大学生でもなければ区別する必要はありません。トマトとプチトマトみたいなものです。(トマトとプチトマトは全然違うだろ!という方がいらっしゃったらゴメンナサイ)
どんな使い方をするにせよ、セメントと水というのは必須の材料になってくるわけですが、そこから産まれる材料は広く「コンクリートのなかま」くらいに考えていいと思います。
ちなみにですが、セメントはコンクリートに使われますが、コンクリートはセメントがなくても作ることができます。
下の記事などでもコメントしましたが、セメントの代わりに、セメントに似た粉を代替品に使うことはできます。
混和材とか結合材とか呼ばれますが、近年ではセメントを全く使わずにこれらの粉で代替することも技術的には可能です。
セメント⇒コンクリートですが、コンクリート⇒セメントとは限らないわけです。

じゃあ、セメントで作られるコンクリートって、何なんでしょうか?

【2枚目】

わからないことはだいたいグーグルにきけばいいと思うんですが、検索するとこんな感じに説明してくれます。

「コンクリートは、砂、砂利、水などをセメントで凝固させた硬化者で建築土木工事の材料として多く利用される」 ウィキペディアより

ですって。
わかりづらいですよね。
だいたい、大学でコンクリートの授業があると1コマ目に同様の説明をされます。
英語の授業を「This is a pen」で始めるように、こういうところから始めたら僕みたいに勉強嫌いな人間にとっては蕁麻疹が出て終わりです。
(まあ、大学とかで専門課程として教えるときには中立性を保つためにこういう科学的な定義は絶対に必要ですが)
さすがに僕も、母親にコンクリートって何?と聞かれたときに「コンクリートは、砂、砂利、水などをセメントで凝固させた硬化者で建築土木工事の材料」とは答えませんし、いくら口下手の多い土木建築コンクリート界隈の人でも、コンクリートのことを「コンクリートは、砂、砂利、水などをセメントで凝固させた硬化者で建築土木工事の材料」と言う人はいませんが、ここの定義は人によってさまざまなんだと思います。もちろん、「コンクリートは、砂、砂利、水などをセメントで凝固させた硬化者で建築土木工事の材料」という定義も正しいんですけどね。

【3枚目】

これはあくまで、僕の考え。
僕は常々、「コンクリートは人工の石」であると考えています。
コンクリートのことを考えるようになってまだ10年も経っていないけれど、これが現時点での僕の考えですし、そう考えるコンクリート技術者は少なくありません。
下の2行ではメチャクチャなことを書いていますが、これは無視しましょう。
でも一応弁解をさせてもらうと、コンクリートは地球上で水の次に使用量の多い材料ですが、この理由はすごーく単純で、地球にありふれている材料から構成されるからです。
コンクリートやセメントの組成は、カルシウム、酸素、マグネシウムにアルミニウム、ケイ素、鉄などです。
この構成は、地殻と同じです。だから地球上にありふれている材料でコンクリートは作ることができますし、地球上のどこでもコンクリートが蔓延っている理由でもあります。
人間である、というのはさすがに素面では言いませんが、かなり人間の役割が大きい材料であると思うためです。
少し後述しますが、他の材料に比べて人間が左右するファクターが多いのがコンクリートという材料の特徴の一つだと思っています。

【4枚目】

道路の白線だけを踏んで学校から帰ることはできるかもしれませんが、コンクリートだけを踏んで帰ることはもっと簡単です。
認識していなくとも、コンクリートを視界に入れずに生活することは、いまのこの国では不可能です。
それだけコンクリートという材料は世の中に普及していますが、たとえば日本人ひとりあたりで年間300kgくらいの量のセメントを消費しています。
同じようにコンクリートの量で計算すると、だいたい年間1500kg/人くらいですかね。
もちろん、コンクリートが実際に使用されるのは土木建築工事ですので、個人としてその使用を意識するのはマイホームを建てるときくらいかもしれませんが、それだけの量のコンクリートが流通しています。
いまの日本はコンクリートによる社会インフラの整備がひと段落しており、ストックとしてのコンクリート量は盤石で、フローとしてのコンクリート量は途上国に比べると当然小さいです。
そのあたりは、以前の記事などをご参考に。

【5枚目】

コンクリートは人工の石なので、石の代わりとして使用されます。
そうなると、自然と2つの材料でできたモノの形はなんとなーく似てくるわけです。
この理由は、石で培った設計手法をコンクリートに反映していることと、手法が転用できるくらいに2つの材料の特性が似ていることが大きいです。
典型的な例はスライドで示しているアーチの橋ですが、これは橋にかかる力(自信の重さと交通荷重の重さ)を圧縮力で受け流すため、圧縮に対して強い材料に有利です。
石もコンクリートもこの特性を持っているので、似たような形になります。
(もちろん、アーチという構造は鋼材などにも使われますし、石や煉瓦のブロックがバラバラになるのを防ぐ意味もありますが)
構造物の強さというのは、形と材料の2つで大きく決まるので、材料が似れば形も似てくるのは当然のことです。

6枚目

でも、それだけだったら、黙って石だけ使っていればいいんですよ。
コンクリートを石の代わりに使う理由は、石よりも取り扱いがラクなことと、石にはできないことができるからです。
その理由はスライドに書いてある通りですが、このあたりを自由にコントロールする際には、セメントの役割が非常に大きいです。
というのも、他の材料(水・砂・石)が天然由来であるので、これらの品質を自在に変えることは基本的にはできません。
(濁りや塩分の無い水を使ったり、石や砂の形をキレイにする、といった処理はできますが)
それと、形の自由度の話。たとえば、石の形を変えようと思ったら、山から巨大な石を持ってきてノミでゴリゴリと削る必要があります。
コンクリートの場合、セメントが水と固まる前はドロドロの流動性を持っていますので、型枠に流し込んで好きな形を得ることができます。
ペットボトルにコンクリートを流し込んだら、ペットボトルと同じ形のコンクリートができあがります。
この、形を変えられるというのはコンクリートの最大の長所です。
この際、セメントの種類や比率を変えることによってコンクリートの品質を自在に調整することができます。
品質、というのは例えば固める前のやわらかさであったり固まった後の硬さ・強さであったり固まる時の変形量や発熱量であったりとさまざまですが、これらの性能に見合ったレシピを探すのが技術者の腕の見せ所です。
セメントが固まるまではそれぞれの材料は自然のままの形をしているので、材料の供給はそれぞれのタイミングで行うことができます。
材料を始めて工事の準備ができたら、僕らの好きなタイミングで混ぜればコンクリートができあがるので、工事の工程に柔軟性を持たせられます。

【7枚目】

コンクリートは他の材料と何が違うのかという話。
代表的な建設材料として、日本でなじみの深い木材と、コンクリートのライバルであり最大の理解者でもあり同じ近代材料でもある鋼材を例にとって考えてみましょう。
これもいろいろな考え方があると思うんですが、僕はコンクリートという材料の特色は、2つあると考えています。
1つは、産まれる場所と使われる場所が同じであるということ。
要するに、木材や鋼材で好きな建物を建てたいときは、決まった形の(例えば棒状だったり曲がっていたり凹凸がついていたり)の木や骨材を工事現場まで持ってきて、現場で組み合わせてつくります。
そのため、これらの材料を使うときは釘やボルトやリベットや溶接といった接合のための技術が発達しました。
コンクリートにおいては、決まった形のない流体のコンクリートを固めて固体にするため、好きな形を得ることができます。
これらの差は、材料が形を得る場所と使われる場所が同じかどうか、で大きく決まります。
木材や鋼材は工場などで決まった形で出荷されますが、コンクリートはドロドロの不定形で出荷されるので、こうした差が生じます。

【8枚目】

もう1つの特色は、コンクリートの材料は単体では自然界には存在するけど、コンクリートは自然界には存在しないことです。
例えば上の写真は北海道のタウシュベツ橋梁という既に遺棄されたものすごーく古い鉄道橋ですが、この写真のそこら中にコンクリートのそれぞれの材料が写っています。
(実際には、後ろの山は石灰石鉱山ではないでしょうが…)
とはいえ、これらの材料を混ぜない限りはコンクリートにならないわけで、その意味でコンクリートはこの「混ぜる」という、きわめて人間的で古典的で泥臭い部分の大きい材料です。

生まれる場所と使われる場所が同じであることと、人間の手がないと成り立たないことがコンクリートの前提であり、これこそが自然・人工、古風・現代、液体・個体という、コンクリートが内包するあらゆる二項対立の根源であると僕は考えています。
自然界においても、カルシウムとシリカやアルカリ金属が反応してコンクリートに似た物質を偶発的に形成することはありますがが、それはただの鉱物であり、これをコンクリートと呼ぶ人はあまりいません。
concreteという英単語の成り立ちはラテン語の「concretus=con:共に+crescere:成長する+tus:過去分詞形」に由来しており、現代でも材料の「コンクリート」の名詞として以外にも「固まった」や「具体的な」を意味する形容詞として、プラスアルファの意味を持っています。
日本語では、コンクリートは漢字で書くと「混凝土」。
混ぜて、凝固して、土から(を)作る。
僕は、どんなコンクリートの技術や建築物や構造物よりも、この言葉が好きです。
頭でっかちになりがちなコンクリート技術者が立ち返るべき点を、たった3文字で教えてくれます。

【9枚目】

そんなコンクリートの歴史は、新しいようで古いようで、とにかく奥深いのは確かです。
まあ、この辺は以前の記事でさんざん書いたので、その辺読んでください。
ちなみに現代のセメントはポルトランドセメントって呼ばれますが、これはこの硬化した後の色合いがイギリスのポルトランド島で採れる良質な石と似ていたことに由来しています。

【10枚目】

えーと、セメントの話に戻りましょう。
上ではコンクリートに対する個人的な考えをツラツラと書きましたが、コンクリートがこのように人間の思想が入る余地を持っている良くも悪くも曖昧な材料であるのに対して、セメントは単なる工業材料に過ぎません。
そのため、その定義なんかはどうしても教科書的になりますが、端的に言うとスライドに書いている通りです。
特徴としては、石灰石という豊富な材料を主原料にするため、こと日本においては完全に国産可能です。
大学の教科書では、「セメントの材料は石灰石に粘土や鉄」、と書いていますが、これは半分正解で半分間違いです。
石灰石以外の材料は、アルミニウムや鉄分などの量を確保するために添加しますが、現在では天然よりも多種多様な廃棄物を再利用していることが多いです。
1000kgのセメントをつくるときに、471kgの廃棄物が原料や燃料として使用されています(2017年度実績)
おそらく、多くの人が思っているよりかは、環境に配慮している材料です。
というポジショントークを下記の記事でコメントしました。

セメントは水に対して反応性を持っています。
水に反応するまでは流動性を保っていますし、反応した後は強固な硬化体を構成します。なんて便利なんだ。
反応性を持っているということは、工事現場で作ることができる取り扱いの容易さと、化学反応を起こしてしまうという危うさを両立していることになります。
セメントが反応性物質であるということは、長所でもあると同時に弱点にもなり得ることは事実です。短所にしないようにするかは技術者の工夫と使い方次第です。
対策の一つとして、この反応性はある程度品質でコントロールできますし、工業的にも規格化されています。それについては後ほど。
乾いた粉であるというのは、出荷のことなどを考えると良い点も多いのですが、粉塵なので初めて使うときにはマスクくらいはしましょうね。

【11枚目】

セメント⇒コンクリートな関係は最初の方でも述べましたが、コンクリートの中でセメントってどんな位置づけなんでしょうか。
解釈の仕方はいろいろありますが、セメント屋として忘れてはならないのは、一個の材料にしかすぎない、ということでしょうか。
セメントだけではコンクリートは絶対にできません。(セメントと水でできたセメントペーストでは、割れやすいので建物をつくることは難しい)
一方、セメントがないと水・砂・石という材料がまとまりをもたないことも事実なので、リーダー的な役割を持っているのは確かです。
セメントは砂や石よりも小さく、水と共に流動性を担保するので形状の自由度に果たす役割も非常に大きいです。
セメントの品質によってコンクリートの品質も変わるので、コンクリートの性格や方向性を司る意味もあります。
この辺、皆さんどう考えているんでしょうか。

【12枚目】

そういうわけでコンクリートの方向性を決めるセメントなので、いろいろな種類のものが規定されています。
セメントは工業製品なので、JISによっていろいろ規定化されているわけですが、国内ではJIS R 5210~5214でいろいろな規定がされています。
ふつう、セメントというと「ポルトランドセメント」もっとも汎用的な種類のものを指し、これ以外のものは例えば「スラグ」セメントなど「〇〇セメント」という呼ばれ方をします。
ポルトランドセメントには大きくわけて5種類のタイプがありますが、これは反応の速さで決まります。
反応の速さを決めるひとつのポイントは、細かさです。
細かくて粒子が小さく、比表面積の大きいものほど早く硬化します。
コーヒー好きな人が、粉じゃなくて豆で保存するのと同じです。
粉の方が空気と触れ合う面積が大きいので、酸化してコーヒーの風味が落ちてしまうからです。
(保存方法もコーヒーと同じで、ひんやりとして湿度の少ない場所の方がセメントも長持ちします)
海外の規格でも細かさで反応性を分けることがありますが、日本の場合はそれだけじゃなく、化学的な成分も違ってきます。
セメントの硬化を左右する2つの鉱物に「エーライト:ケイ酸三カルシウム」と「ビーライト:ケイ酸二カルシウム」というものがあります。
ものすごーく雑に言うと、エーライトが多いほうが早く、ビーライトが多いほうが遅くかたまります。
そのため低熱セメントでは他の種類よりもビーライト量が多くなったりと、細かさだけでなく中身の部分も異なっています。

直観的には、固まるのは早いほうがいいんじゃないの?と思う方が多いのではないでしょうか。
でも、コンクリートの硬化が発熱性の化学反応性である以上、早すぎる反応にはリスクが伴います。
例えば、一度に爆発的に反応すると、自身のため込んだ反応熱でひび割れてしまいます。
一方で、緊急の工事などの急を要する時や、道路工事などの現場周囲の通行止めを短くしたいときには早く反応するセメントが好まれます。
最終的な強さはゆっくりと反応するセメントの方が高い傾向にありますし、超高強度コンクリートなどにおいては低熱系のセメントをベースに使うことが多いです。
時間の尺度がどれくらい異なるかというと、普通のセメントでは28日の強度を代表的な管理値に考えます。
これがたとえば早強では7日、低熱では91日、といったふうになります。
7の倍数にするのは、試験の曜日をそろえて管理をラクにするためです。
僕は大学生のときに「コンクリートは作ったら1カ月も放っておいていいらしい」という甘言につられてコンクリートを専門に選びましたが、いったいどこで間違ったのか、毎日コンクリートのことばかり考えるようになりました。

なんにせよ、セメントの性格はさまざまですが、水と出会って発熱するまでのスピードが特に異なります。まあ恋愛と同じだと考えてください。たぶん違うけど。

【13枚目】

じゃあね、セメントがコンクリートにとって一番大事な材料かときかれたら、僕は違うと思うんです
コンクリートって実際は、ほとんど石と砂でできています。
コンクリートが人工石だとして、石を造るいちばん簡単な方法は、石をそのまま使えばいいからです。
セメントっていうのは、あくまでその補助的な役割をしているだけです。流動性とか固まり方を変えたりとか。
良いコンクリートは良い骨材から、というのはコンクリート工学の基本中の基本ですが、困ったことにいまの日本では、良質な骨材というのは枯渇しつつあります。
コンクリートの材料として最も好ましいのは塩分を含まず、丸くてコロコロした河川の骨材ですが、これらは高度成長期に採取しまくって現在ではなかなか使用できません。
環境のことを考えると、リサイクルしたものを天然の骨材の代わりに使う(再生骨材とか回収骨材とか呼ばれます)ことがこれからますます大事になるのは間違いないのですが、いかんせん天然よりも品質に劣りがちです。
この部分を補完していくためにも、セメントとコンクリート技術者は頑張っていかなきゃなあと考えています。

【14枚目】

コンクリートのこれまでのことは、いろいろな記事で書いた通りです。

じゃあこれから先にはどうなるか、ということは、僕にはわかりませんし、あまり深く考えてもしょうがないなと思っています。
これは先の問題に対して逃げているわけではなくて、予想が外れることを見越した上で(というか、絶対に外れる。僕たちは来年のセメント出荷量もどこで地震が起きるのかも街中のどのコンクリートが壊れるのかも、正確にはわからない)、今現在のコンクリートに取り組むしかないと考えています。
でも、困ったことにコンクリートというのはものすごーく時間軸の長い材料です。
ローマン・コンクリートと現代コンクリートの差は耐久性だとよく言われます。
現代の鉄筋コンクリートは高々100年程度しかもたないのに、ローマのコンクリートは2000年の耐久性すら持ち得ます(たいていのローマンコンクリートは現代のものよりも寿命は短いし強度はぜんぜん劣りますが、そうしたものが一部あるのは事実です)。
この2000年の間に起きた変化は、人類にとってコンクリートが「子孫(種族)のためのもの」から「自分(個人)のためのもの」に変わったことだと僕は考えています。
ローマンコンクリートはつくるのに必要な労力と時間は現代とは比べ物にならないし、その用途は都市の擁壁とか社会インフラとか、ローマ帝国の未来のためのものでした。
現代のコンクリートは、もっと流通品・消耗品に近い性格を持っています。
自分が生きている間に用を成せばいいから、人間と寿命がだいたい同じ鉄筋コンクリートが発展したことは、人類が種族の繁栄から個人の豊かさを優先するようになったことと対応しています。
設計と施工が簡単で定期更新の可能な鉄筋コンクリート集合住宅が不動産屋にも建設業者にも居住者にも友好的だったことは、高度経済成長期を振り返ればわかります。
それが悪いことだとは思わないけれど、それでも僕はコンクリートが僕たちだけじゃなくて子供たちのためのものになってほしいと願っています。
コンクリートが何かわからない人々が、これから先も安心して暮らせるようなコンクリートをつくって、面倒を見ていくのが僕たちの仕事です。

と、いう話をしてきました。

おしまいです。ほなまた。

【写真提供元】
Pixabay
https://pixabay.com/ja/
FIND/47
https://find47.jp

おまけ。この日の僕の服装は、スーツが超高強度コンクリート色、ネクタイが高強度コンクリート色、シャツが普通強度コンクリート色でした。

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