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Breath story 6

いつまでも過去を引きずってはいけないと思っているのに、ふとした瞬間に引き戻される。
そしてそれが、いつまでも火種となって心の隅っこに消えずにいて、いつかしら私を悩ませる。

”泣いていいんだと思います”

そう言われたときには涙がこぼれ落ちて、地面に水玉模様を作っていた。
娘の前では絶対に泣かないと決めていたし、これ以上心配をかけたくもなかった。
少しずつ大人になる娘が、私の気持ちを酌んでくれるようになって、少しずつではあるけれど愚痴を溢すようにはなった。

それでも、泣いてはいけない、と心に決めていた。

玄関にたどり着くまでに泣き止もう。
この扉を開いたら違う私が待っているのだから。


ただいま、と開いた先に、まだ娘が帰宅していないことにホッとした。

✴︎✴︎✴︎

あれから

そう。あれから。

僕も少しずつ忙しくなってきて、外にいる時間も長くなって。
東京は少しずつ夏から秋に移りかわろうとしていた。

どこかのタイミングで会えれば、とずっと期待しながら
どこかで偶然に顔を見れたら、とずっとどこかで思いながら過ごしてきたけど
全く会えなかった。

「どうしたの?」
「何が?」
「大ちゃん、最近ため息すごいよ」

理由はわかってる。明白だ。
でも目の前の仕事に真摯に向き合うこと、これが今僕にできる最大のことだ。
今日はラジオの収録の日で、こんなご時世だからと、伝えたいありがとう、のメッセージを募集した。

「じゃあ僕から読むね、えーっと、ラジオネーム・・・はない、無名さんだね。」「新しいな」
「いいと思う!」

”私が伝えたいありがとう、が届くことを願っています。
あの日、私に泣いていいと思います、と背中を押してくれてありがとうございました”

読みながら、僕の異変に気がついたメンバーがカンペに”大丈夫?”と書いて見せた。

「このメッセージ、伝わったと思う」
「そうだといいよな」
「きっとずっとお互い心配していたんだと思う」
「このメッセージ聞いて、あ、私かも、俺かも、って思う人いたら番組にまた連絡欲しいね」

僕にはわかった。
これがあの人だってこと。

そして、そのメッセージの続きを見て、僕はとんでもなく会いたくて仕方なかった。

元気にしています。
元気でいて欲しいと願っています。
これからも。ずっと。

人は誰もが誰かの支えになっている。
こんな僕でも、いろんな複雑な感情なんて抜きにして、人として誰かの支えになっていたんだと思うと、少しだけ誇らしかった。



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