リアルとファンタジーの味あわせ - 『ひきだしにテラリウム』を読んで②

 雨の中、失恋に泣く女子学生。追いかけて
きたイケメン男子。鼻の穴にかんざしのよう
なものを刺している。「全部誤解なんだ!」
叫んだ彼がかんざしを彼女の鼻の穴に刺すと、
たちまちピューンと誤解が解けて両思い。と
いう話を描いている漫画家の話。かと思えば、
この便利な道具ですれ違いを回避する未来人
の話でした。この道具を仮に「鼻かんざし」
と呼びます。同じ人間でも意思疎通は一筋縄
ではいきませんからね。道具は必要かも。
 さて、『ひきだしにテラリウム』は33篇の
ショートストーリーから構成される漫画です。
リアルな中にファンタジーの要素を混ぜ込ん
だり、ファンタジーで終わればいいのに急に
リアルに引き戻したり。話ごとに絵のタッチ
は変わるし、著者と同じく捉えどころのない
不思議ワールドが広がります。ただ、著者が
描く人間あるあるには共感どころもいっぱい。
 たとえば、役になりきった俳優が劇中の己
の悲運に怒り、現実世界で脚本家を殺害する
話があります。劇中世界で神に等しい存在の
脚本家が死ねば、劇中世界は成立しません。
宗教や哲学的見地からあれこれ小難しい議論
に発展しますが、ことの本質は殺人事件です。
話を複雑にして賢そうにする人、いますよね。
 声をかけたバイト仲間に無視されて脳内で
突如鳴り響く木槌の音。開廷の合図。「代理
裁判」は、自分が相手に嫌われているのかを
脳内の法廷で争う話。人は些細なことであれ
これ思い悩むものだけど、案外合理的な理由
が存在するのだと気づきます。結局のところ、
自分に都合の良い判断なのかもしれませんが。
 リアルとファンタジーが絶妙に交差する。
このスタイルが深刻さの中にも軽妙さを残し、
それでいてつい立ての後ろをチラッと覗いて
しまうような深読みを読者にさせるのです。
最初から最後まで振り回されっぱなしの九井
諒子ワールド。その奥深さがわかったら思い
きってダイブしてみて。わからなかった人に
は「鼻かんざし」を刺してあげます。


《書籍情報》
タイトル:『ひきだしにテラリウム』
著者  :九井諒子
出版社 :イースト・プレス
出版年 :2013年

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わーい
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まるごとホンネで世界を見たら☆

苫米地式コーチング認定コーチ。ライター。

ショートショート研究所

400字〜800字の制限の中でどこまで表現できるか実験してみます。
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