「そこにあって、ないもの」 - 『ひきだしにテラリウム』を読んで④

 学園恋愛アニメを描く漫画家、モビルスー
ツを着て世界を守る少年、ペットを飼う人間
など一話完結型のショートショート・コミッ
クが全33篇も収録されている。非常に豪華な
作品だ。が、何かがおかしい。文化庁メディ
ア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞したこと
から実力のほどがうかがえる。この作品には
そこにあってないものがあった。
 九井諒子は世界を普通に描く。生まれたて
の子をもらってきてペットとして飼う。同じ
時を過ごしながらペットのほうが人間より先
に老いていく。そうした日常は普通以外のな
にものでもない。ただ1点を除いては。そう、
そこには決定的に異質なものがある。間違い
とさえ言ってもいい。人間が飼っているのは
ペットサイズの人間なのだ。一つだけ明らか
に不調和なものを紛れ込ませて平然としてい
る。これが九井諒子の手口だ。あまりに突拍
子もないことに思考停止しながらも、脳味噌
をグチャグチャ掻き回される感覚に幾らかの
快感を覚えて問うてみる。なぜそんなことを。
ペットサイズの人間とそれを飼う人間。両者
を並べて立たせてみる。そこにあってなかっ
たものが立ち現れた。生物の時間だ。同じモ
ノサシで測るから長短がよくわかる。それを
現実世界に持ち込み描くから実感が湧く。
 視点を変えてペットの気持ちになってみる。
モノサシはここでも人間だ。SF世界の未来
都市のような空間に住んでいる。お風呂に入
れば機械が体を洗ってくれて、ドライヤーで
乾かしてくれる。お腹が減ればおいしい食事
が用意され、風にあたりたくなったら散歩に
連れ出してくれる。そんな生活をしていた女
の前に、野生で生きるひと組の親子が現れる。
自由にしてやると言うのだ。安心・安全・快
適な生活を捨てることが幸せなのだろうか。
女は自由など選ばない。これがペットの本音
かもしれない。違うかもしれない。とにかく
九井諒子という人は、そうやってそこにあっ
てないものをあらわにしてみせる人なのだ。


《書籍情報》
タイトル:『ひきだしにテラリウム』
著者  :九井諒子
出版社 :イースト・プレス
出版年 :2013年

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わーい
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まるごとホンネで世界を見たら☆

苫米地式コーチング認定コーチ。ライター。

ショートショート研究所

400字〜800字の制限の中でどこまで表現できるか実験してみます。
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