LSDは筋の毛細血管を増やすのに効果的?

前回の記事「LSDは心臓を鍛えるのに効果的?」に続き、LSDと血管新生について書きたいと思います。
持久性アスリートの中には、筋の毛細血管を増やすには低強度・長時間の運動をすることが重要と考えている人も少なくないと思います。
今回は「LSDは筋の毛細血管を増やすのに効果的なのか」について注目していきます。

忙しい人向けにざっくりまとめると

◆LSDでも高強度インターバルトレーニングでも同様に血管新生がおこり、骨格筋の毛細血管密度を増やす
◆LSDと高強度インターバルトレーニングの血管新生の起こり方は必ずしも同じではなく、双方をバランスよく行うのが重要
◆おすすめのトレーニング強度配分は、低強度:中強度:高強度=75%:5-10%:15-20% (セッション数)

トレーニングによる心拍出量と筋への血液量の増加について

Musch et al (1987)は猟犬を対象として8-12週間の持久性トレーニングを実施したところ、トレーニング後に最大心拍出量が約30%増加したことを報告しています。また、興味深いことにこの30%増加した分の拍出量(血液)のうち、ほとんどが骨格筋へ供給されていたことを報告しています。
つまり、持久性トレーニングにより心臓が押し出せる血液量が増えるだけでなく、骨格筋へ効率よく血液を届けることが出来るようになったと考えられます。
骨格筋へ効率よく血液を届けるためには、骨格筋内の※血管新生や※リモデリングが必要だと考えられています。
※血管新生:新しく血管が作られること
※血管のリモデリング:血管どうしの構造的な変化、例. 毛細血管の”枝分かれ”が増えるなど

LSD vs 高強度インターバルトレーニング

では、どのようなトレーニングが血管新生に良いのでしょうか? 
また、一般に言われているようにLSDが効果的なのでしょうか?

Cocks et al (2013)は、一般男性を対象に6週間の持久性トレーニング (40-60min, ~65%VO2max, 5回/週) もしくは高強度インターバルトレーニング (4-6*30s sprint, 3回/週) を実施して、それぞれのトレーニングが骨格筋の毛細血管密度にどのような影響を与えるか検討しました。
その結果、持久性トレーニング及び高強度インターバルトレーニングの双方に同等の毛細血管密度を高める効果があったことを報告しています。一方で、血管新生に関わる一酸化窒素を合成する酵素 (eNOS) は両トレーニング群でトレーニングしていない状態に比べ有意に増加しましたが、高強度インターバルトレーニング群でeNOSの増加の程度がより高かったことを報告しています。
また、別の研究でも持久性トレーニングと高強度インターバルトレーニングで同様の血管新生が起こったことが確認されています (Scribbans et al., 2014)。
これらのことから、持久性トレーニングでも高強度インターバルトレーニングでも同様に血管新生を促し、骨格筋への血液量を増加させてくれると考えられます。

低強度の持久性トレーニングと高強度インターバルトレーニングの違いは?

では、血管新生に注目した際に、低強度の持久性トレーニングと高強度インターバルトレーニングの違いはあるのでしょうか?
まず、前述のCocksらの研究では、それぞれのトレーニングで同様の血管新生を報告していましたが、一方で、eNOSという酵素の適応に関しては違いがありました。このことから、それぞれのトレーニングによる適応には若干の差異があると考えられます。
ラットを対象としたいくつかの研究では、持久性トレーニングと高強度インターバルトレーニングによる筋線維タイプごとの血管新生について調べています (Rossiter et al., 2005; Gute et al.,1994 and 1996)。その結果、持久性トレーニングでは遅筋線維で主に血管新生を促しますが、その一方で速筋線維は血管新生を起こさない。他方、高強度インターバルトレーニングは中間筋と速筋線維で血管新生を起こしますが、遅筋線維では起こさないことが報告されています。
これらのことは、運動時の筋線維の動員様式 (サイズの原理)に依存していると考えられています。運動時に、運動強度が低いうちは基本的には遅筋線維から動員されていきます。強度の増加に従い徐々に遅筋線維の動員が飽和していくと、次に中間筋、速筋線維という具合に、力が弱いが持久性のある筋線維から順に使われていきます。つまり、主に遅筋線維を使う持久性トレーニングでは、遅筋線維の血管新生が強く起こり、一方、中間筋や速筋線維も動員する高強度インターバルトレーニングではこれらの筋の血管新生が起こるのではないかと考えられています。
以上のことから、骨格筋の血管新生に関する適応はトレーニングの強度によって異なる点があると考えられます。

まとめ

低強度持久性トレーニングでも高強度インターバルトレーニングでも血管新生が起こり、毛細血管密度を上昇させます。俗に言われるようにLSDが血管新生に有効ですが、LSDだけでなく高強度インターバルトレーニングも効果的です。
一方で、それぞれのトレーニングによる血管新生は必ずしも同じではなく異なる点もあります。競技への応用としては、双方のトレーニングを上手く組み合わせ、総合的に血管新生を促す必要性があるでしょう。
持久性アスリートの競技パフォーマンスを高める強度配分としては、低強度:中強度:高強度=75%:5-10%:15-20% (セッション数)程度をお勧めします(Seiler and Kjerland, 2006)。

参考文献

1) Musch et al. 1987. Training effects on regional blood flow response to maximal exercise in foxhounds.
2) Cocks et al. 2013. Sprint interval and endurance training are equally effective in increasing muscle microvascular density and eNOS content in sedentary males.
3) Scribbans et al. 2014. Fibre-specific responses to endurance and low volume high intensity interval training: striking similarities in acute and chronic adaptation.
4) Rossiter et al. 2005. Age is no barrier to muscle structural, biochemical and angiogenic adaptations to training up to 24 months in female rats.
5) Gute et al. 1994. Regional changes in capillary supply in skeletal muscle of interval-sprint and low-intensity, endurance-trained rats.
6) Gute et al. 1996. Regional changes in capillary supply in skeletal muscle of high-intensity endurance-trained rats.
7) Seiler and Kjerland. 2006. Quantifying training intensity distribution in elite endurance athletes: is there evidence for an “optimal” distribution?

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