持久性アスリートは筋力トレーニングをすべきか?

持久性アスリートの中には、筋力トレーニングをして筋肉が太くなったり、体重が増えたりすることで持久性運動パフォーマンスに負の影響が起こると考えている人がいます。MacDougall et al (1979)は、6ヶ月のウエイトトレーニングが骨格筋の※ミトコンドリア容量密度が低下させることを報告しています。つまり、ウエイトトレーニングは、持久性運動パフォーマンスやトレーニングによるミトコンドリアの増加を阻害してしまう可能性があると考えられていました。こういった研究情報も持久性アスリートが筋力トレーニングを敬遠する理由の一端を担っているのかもしれません。

では、ウエイトトレーニングは持久性アスリートにとって本当に”悪”なのでしょうか? その答えのヒントとなる、ある実験をご紹介します。

Kraemer et al (1995)は、被験者をウエイトトレーニングと持久性トレーニングを行う群と持久性トレーニングのみを行う群に分けて12週間のトレーニング介入実験を行いました。その結果、両トレーニング群で同様の※最大酸素摂取量(VO2max)の向上があったことを報告しました。したがって、Kraemerらの研究によるとウエイトトレーニングは持久性トレーニングの効果に負の影響を与えないことが示されました。近年の研究では、筋力トレーニングは持久性トレーニングの効果を阻害しないだけでなく、さらに持久性アスリートの運動パフォーマンスを向上させるという報告が多くなされています。
※ミトコンドリア:運動に必要なエネルギーを産生する器官, 持久性アスリートに特に重要
※最大酸素摂取量:決まった時間あたりどれだけの量の酸素を取り込めるかを示したもの, 一般に最大酸素摂取量が高いほど持久性運動パフォーマンスが高い

筋力トレーニングと持久性トレーニングを同時に行うことによる効果

Millet et al (2002)は、エリートトライアスロン選手(VO2max: 67-69 ml/kg/min)を対象に14週間の高重量ウエイトトレーニング+持久性トレーニングを実施しました。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、※vVO2maxや※ランニングエコノミー(RE)が有意に向上したことを報告しています。つまり、高重量ウエイトトレーニングは持久性アスリートのパフォーマンスを高めうることが示されました。ちなみに、この実験における高重量ウエイトトレーニングとは、>90%1RMの重量で3-5回×3-5セットを週2回の頻度で行うもので、一般に短距離選手などが行うものと同等の内容です。したがって、Milletらの研究は、これまで現場で行われてきたような低重量・高回数のウエイトトレーニングではなく、高重量・低回数のウエイトトレーニングの有効性を報告したものであることを留意すべきです。
※vVO2max:走速度の増加に伴い酸素摂取量が徐々に増加し、”最大酸素摂取量”となった時の走速度, 長距離走のパフォーマンスを決める要因の一つ
※ランニングエコノミー:ある運動強度の時にどれだけ少ない酸素摂取量(≒エネルギー消費量)で運動できるかを表す運動効率の指標, 長距離走のパフォーマンスを決める要因の一つ

Spurrs et al (2003)は、一般の長距離ランナー(VO2max: 57 ml/kg/min)を対象に6週間のプライオメトリックトレーニング(2-3回/週)+持久性トレーニングを実施しました。プライオメトリックトレーニングとは、ジャンプやバウンディング、ホッピングなど一般に自重負荷・最大努力で行う筋力トレーニングです。Spurrsらの実験の結果、持久性トレーニングのみを行った場合に比べ、3Kmタイムトライアルの成績REが有意に向上したことを報告しています。
さらに、Saunders et al (2006)はエリート長距離ランナー(VO2max: 68-70 ml/kg/min)を対象に9週間のプライオメトリックトレーニング(3回/週)+持久性トレーニングを実施しました。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、有意なREの向上を報告しています。
一般に、競技レベルの高いアスリートほどトレーニングによる能力の向上は起こりにくいですが、SpurrsらとSaundersらの研究をみるとプライオメトリックトレーニング+持久性トレーニングは幅広い競技レベルのアスリートに有効なようです。また、SpurrsらとSaundersらの研究によるとプライオメトリックトレーニング+持久性トレーニングを併用した効果は6-9週間という短い期間でも得られることを示しています。

以上のように高重量ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングといった通常の持久性トレーニングでは発揮しないような大きな力発揮を伴うトレーニングと持久性トレーニングの併用が持久性アスリートの運動パフォーマンスを向上させるようです。

持久性アスリートはどのくらいの頻度で筋力トレーニングを行えばよいか?

高重量ウエイトトレーニングやプライオメトリックトレーニングが持久性運動パフォーマンスに好影響を与えうることはこれまでにお示ししましたが、ではどのくらいの頻度で行えばよいのでしょう? トレーニングプログラムに組み込む際に考慮すべき重要な問題です。
Paavolainen et al (1999)はエリート長距離ランナー(VO2max: 68 ml/kg/min)を対象に9週間のプライオメトリックトレーニング+持久性トレーニングを実施しました。全トレーニング時間のうち、介入群は32%をプライオメトリックトレーニングに充てました。一方で、対照群は3%をプライオメトリックトレーニングに充てました。その結果、対照群に比べ、介入群で5kmタイムトライアルの成績REが有意に向上しました。
同様の内容の別の研究があります。Mikkola et al(2007)は若年アスリート(16-18歳)を対象に8週間の爆発的筋力トレーニング+持久性トレーニングを実施しました。全トレーニング時間のうち、介入群は19% (3回/週)を、対照群は4%(1回/週)を爆発的筋力トレーニングに充てました。その結果、対照群に比べ、介入群でRE(※最大下および超最大運動時)と※力の立ち上がり率(RFD)が有意に向上したことを報告しています。
PaavolainenらとMikkolaらの研究によると、週1回程度の低頻度の筋力トレーニングでは持久性運動パフォーマンスを向上させる効果は期待できないようです。これまでに挙げた筋力トレーニングと持久性トレーニングの併用効果を報告した研究を参考にすると2-3回/週の筋力トレーニングが持久性運動パフォーマンスを向上させるようです。
※最大下運動:100%VO2maxより低い強度の運動
※超最大運動:100%VO2maxより高い強度の運動, 超最大運動のREは血中乳酸濃度などで測る
※力の立ち上がり率:単位時間あたりの力の変化量, RFDが高いと素早く力発揮ができる

筋力トレーニングはラストスパート能力を高めるのにも有効?

陸上長距離走や自転車ロード競技では、アスリートは必ずしも一定ペースで運動するだけでなく、時に急激にペースを上昇・下降させることが求められます。特にレース終盤のラストスパートでは、その良し悪しが順位に直結してきます。
Rønnestad et al (2011)は自転車競技選手を対象に12週間の高重量ウエイトトレーニング(2-3回/週)+持久性トレーニングを実施しました。また、185分間の最大下強度の自転車漕ぎ(44%Wmax, Heart rate: 120-140)の後に、5分間の全力漕ぎを行うユニークなテストを行いました。その結果、持久性トレーニングのみを行った場合と比べ、最後の5分間の平均パワー値が有意に高かったことを報告しています。このことから、筋力トレーニングは持久性アスリートのラストスパート能力を高めるかもしれません。

まとめ及び補足

●筋力トレーニングを行う際には、低負荷・高回数ではなく高負荷・低回数のウエイトトレーニングを行いましょう。もしくはプライオメトリックトレーニングのような自重のトレーニングであれば最大努力で行いましょう。
●週に2-3回の頻度で行いましょう。週1回では効果が得られません。
●筋力トレーニングのビギナーはまず正しいフォームを獲得しましょう。特にウエイトトレーニングは間違ったフォームで行うと大きな怪我につながる可能性があります。
●トレーニング開始後すぐは量や重量を少し抑えめにして徐々に増やしましょう(特にビギナーの場合)
●試合準備期に2-3回/週で筋力トレーニングをして一度得たトレーニング効果は試合期に1回/週でもある程度維持できることが報告されています(Rønnestad et al., 2010 and 2011b)
●同じ日にウエイトトレーニングと持久性トレーニングを行う場合の順序は、
1)筋力を高めたいときは、ウエイトトレーニング→持久性トレーニング
2)VO2maxを高めたいときはどちらでもよい
ことが報告されています(Murlasits et al., 2018)

参考文献

1) MacDougall et al. 1979. Mitochondrial volume density in human skeletal muscle following heavy resistance training.
2) Kraemer et al. 1995. Compatibility of high-intensity strength and endurance training on hormonal and skeletal muscle adaptations.
3) Millet et al. 2002. Effects of concurrent endurance and strength training on running economy and VO2 kinetics.
4) Spurrs et al. 2003. The effect of plyometric training on distance running performance.
5) Saunders et al. 2006. Short-term plyometric training improves running economy in highly trained middle and long distance runners.
6) Paavolainen et al. 1999. Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power.
7) Mikkola et al. 2007. Concurrent endurance and explosive type strength training improves neuromuscular and anaerobic characteristics in young distance runners.
8) Rønnestad et al. 2011. Strength training improves 5‐min all‐out performance following 185 min of cycling.
9) Rønnestad et al. 2010. In-season strength maintenance training increases well-trained cyclists' performance.
10) Rønnestad et al. 2011b. Effects of in-season strength maintenance training frequency in professional soccer players.
11) Murlasits et al. 2018. The physiological effects of concurrent strength and endurance training sequence: A systematic review and meta-analysis



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

44

ランニングとスポーツ科学

ランニングを中心とした持久性運動に関するスポーツ科学の知見を紹介します。 科学的根拠に基づいて、正しく、効率的にトレーニングしましょう!
1つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。