我が息子、偏食につき

子供の偏食ーそれは世の母親たちを悩ませ、惑わせ、追い詰めるもの。

第一子では特に、母親は余裕がない。
初めてのことうまくいかないことに孤軍奮闘試行錯誤。
ひとつひとつに丁寧に対応しなければ腕の中のこの弱い生き物は動かなくなる可能性だってある、という絶え間のない緊張感。
頑張っても誰に褒められるわけでもなく達成感も得にくい。
目の前の小さな赤子一人にひたすら振り回されて終わる一日。
来る日も来る日もその繰り返し。

本や雑誌はもちろん、ママ向け子育てWEBサイトにあらゆるSNS。
得ようと思えば情報はいくらでも出てくる。
正しいか間違っているかは別として、いくらでも。

いつの間にか、新米お母さんはひとつの問いでがんじがらめになる。

私は“きちんと”母親をやれている?

そしてその答えを、目の前の我が子に求めてしまうようになる。

言葉が早い。毎日たくさん話しかけてあげたからだ。
もうジャンプできるの。毎日公園に連れて行って体を動かす遊びをさせていたからだ。
立ち歩かずご飯が食べられる。食事に集中できる環境を用意しているからだ。
すぐに癇癪を起さない。親が日々落ち着いた穏やかな態度だからだ。

私(親)がクリアした問題の答えが、ここ(子)にある。
そんなクソくだらない方程式で、考えてしまうようになる。

裏返せばそこにあるのは、「この子がこんなこともできない、困ったことばかりする、言うことを聞かないのは、親(私)がまっとうな子育てをできていないせいだ」という歪んだ結論である。

もー、バカバカ。お母さん、違うよ。違いますよー。
今ならもう、笑ってそう言える。

だいたい、“きちんと”ってなんだ。
本やネットに書かれた理想の母親像を頭に刷り込み、「そうあらねばならない」と思い込む。
所謂定型発達のチェック項目を、我が子の様子と突き合わせてまるで答え合わせをするように確認していく。
項目に〇がつかなければ不安になる。どうして?私がいけないの?この子がおかしいの?どうして?こんなにがんばってるのに。

いやいやお母さんちょっと待って。子供はあなたとは切り離された別個の生き物であって、意志もあるし性格も生まれ持った能力もそれぞれ。「自分のせいでこの子はこうなった」なんて、一見責任感の強い言葉に見えて、こんな傲慢な言葉もない。

あなたのできることなんて、たかが知れているよ。
もちろん一番身近なお手本として親の影響力は大きいけれど、でもしたこと全部が結果に反映されるわけじゃない。プログラムじゃないんだから。
今ならもう、少しだけ冷静にそう言える。



息子が二歳を過ぎた頃、私はそんな偏った考え方での子育て真っ最中だった。
二歳の誕生日を前にようやく卒乳し、本格的に大人と一緒のご飯を食べるようになってやっと、私はその偏食っぷりを気に掛けるようになった。
それまでは「おっぱいから栄養取れてるから大丈夫でしょ」という同じく卒乳が遅かった友人の言葉を頼りに、気にしないようにしていたのかもしれない。必殺「問題の先送り」。

唐揚げ、ハンバーグ、カレー、オムライスなどなど、子供の鉄板メニューが軒並みアウト。当然野菜は炒めても煮ても生でもアウト。
好物は寿司、それもサーモン限定。いや、毎日寿司って予算的に無理だし栄養的にもダメだろ。
幸い、日常の食卓での唯一と言っていい好物は納豆だった。栄養あるじゃん。安いじゃん。喜んで食べるじゃん。もう毎日納豆。

それでも一応、あれこれ作ってはどうかな食べるかなって、やってはみたのだ。
「ごはんできたよー」って呼んで、やってきた息子は席に着くと毎回、肩を落として「ハア…」とため息、そして一言。

「まずそう…」

何度そう言われたかわからない。

考えてもみてほしい。ごはん何にしようかなぁと、家族の好みを思い浮かべ、レシピを検索して、食材を調達したり冷蔵庫の中身を考慮しながら時間をかけて作った料理を、毎朝毎昼毎晩「まずそう」と言われることの地獄。

プッツンするでしょう、それは。
いや、実際は怒るというよりも悲しくなって力が抜けてしまった。
「美味しくないならしょうがないけど、人に伝えるときは言い方を考えようね」
そう諭すので精一杯。いったい私は何のために時間をかけて作ったんだろうとうなだれながらお皿を下げる。

私の作る料理がまずいからいけないんだ。料理上手なお母さんじゃなくてごめんね。もっと手の込んだ料理にしなきゃ。この子が食べられるものを考えなくちゃ。そうやって自分を責めた。
そうかと思えば「こんなにやってるのに何で!」とイライラが募り強い言葉を投げつけてしまったり。情緒不安定か(それだぞ)。

野菜をみじん切りにしてハンバーグにイン?やりました。
シチューやカレーやスープを具沢山に?やりました。
鶏むね肉と色々野菜をフードプロセッサーで混ぜて手作りナゲット?やりました。

全・滅です。

おやつあげすぎなんじゃない?
食べなきゃおやつなしだよって徹底すれば?

人から言われたのか脳内で自問自答したのかわからないくらいに繰り返された問い。

やったんです。でも食べない。

私が甘いのがいけないんだ。もっと厳しくメリハリをつけた躾をしなきゃいけない、うやむやにするのがいけない。そう思って、あまりにも食べなかった時期、「食べないなら他にはないからね」の一点張りにして、結局夜・翌朝・昼、と三食抜いたことがある。もちろんおやつもなし。
息子は午後二時頃になってようやく、さすがにお腹が空いたのかお昼ご飯(もはや何ご飯?)を少し食べた。

「こんなの虐待なんじゃないか」そうも思った。

そこまでしたのは結局その一回きりだったけど、その後もしばらく、およそ二年ほど偏食は続いた。

来月八歳になる息子。今のブームはなんと、料理。
まだ始めて間もないのでたいしたものは作れない。切って、炒めて、調味する。それくらいだけれど、食材の組み合わせや調味料もだいたい自分で決めている。
「これを作ろう」と意気込んで作るというよりは、冷蔵庫の中を見て、あるものでおかずを作るのが好きという、主婦みたいな小学生。
今でも多少好き嫌いはあるにしても、なんだかんだ残さず食べている。
偏食に悩んだあの頃とは似ても似つかぬ食いしん坊になった。

今日も「自分で作ったものは美味しいなぁ」と満足げに、焼いた鶏肉をムシャムシャ食べた。
家族が美味しいと言って食べてくれるのも嬉しい様子で、普段はいじめてばかりの妹(三歳)にも、「おいしい」と言われれば自分の分を分けてあげることさえする。

きみ、小さい頃は全然食べなくて、いつもママの作ったご飯見て「まずそう」って言ってたんだよ、と話すと、それは…ひどいな…と苦笑い。
せっかく作ったのにそんなこと言われたら泣いちゃうよね、と笑い合った。

あの頃は「今」しか見えなくて、「今」なんとかしなければまずいと思い込んでしまっていた。
今でもいろんな場面で、そうなりそうになることもある。
どうしようなんとかしなくちゃ、私のせいで取り返しのつかないことになる、と。

でもたぶん、取り返しのつかないことになんか、滅多にならないのだ。
そう思えるくらいには、母親八年目の私は少し余裕が出てきたのかもしれない。

実際、これまで好き嫌いがほとんどなかった現在三歳の娘は半年ほど前から偏食が始まり少し手を焼いている。が、あまり気にならない。
息子のひどかった時期に比べればこの程度、かわいいもんだということもあるけれど、それ以上に私の「これがずっとは続かないだろう」という適当精神が育ったからというのが大きい。

これからも第一子に関しては特に、母も初めて直面することばかりで毎回頭を悩ませることだろう。
でもその度に、自分の「適当精神」を立派に育て上げていければいいな。
ひとりで抱え込むのではなくて、投げやりになるわけでもなくて。

未来の成長した子供たちにひそかに期待しながら、一緒になんとかしていこうぜ、なんとかなるだろう、というちょっとザックリした精神で、またここからの子育て街道、ゆるゆる進んでいければいい。

#エッセイ #コラム #子育て #育児 #偏食 #日記 

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子供の就寝後にリビングで書くことの多い私ですが、本当はカフェなんかに籠って美味しいコーヒーを飲みながら執筆したいのです。いただいたサポートは、そんなときのカフェ代にさせていただきます。粛々と書く…!

ありがとうございます!飛び上がるほど嬉しいです!
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こっこ

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コメント15件

初めまして。うちの4歳の息子も偏食で、毎日納豆と唐揚げしか食べないような日々です。試行錯誤して作りますが、月に2回くらいヒットするくらいで、ほぼ手も付けず、美味しくないと言われる日々、まさに今が辛かったです。
こっこさんの記事を読んで、初めて光が見えました。4年後に野菜を食べてくれる風景が想像できて泣けてきました😭
ありがとうございます。
まつだまゆかさん
お返事遅くなりました、コメントありがとうございます!
辛いですよね、毎日毎日おいしくないと言われるわ食卓につく子供の顔には覇気がないわ自分も鬼の形相か無気力な顔だわ…
息子の同級生で、今でも偏食で給食が辛そうな子はたくさんいます。
うちの息子も、なんとか頑張ってたべるものの、今日のこれはまずかった!って報告してきます笑
みんな自分のペースで成長してるんですよね。
どうか気負わず肩の力を抜いてお過ごしくださいね…!
わぁーなんか肩の力をふわっと抜けさせてもらいました。
うちも「なるようになる」と割と手をぬき気をぬいた子育てをしていますが、MAX5歳なので、本当にそれでいいのかは未知の世界。ときどきふと不安になっては「大丈夫だよ!・・・ね?」と自分に言い聞かせたりしています。

うちの子偏食はそうでもありませんが、きっとすべてに通ずる話だと思い、思わずコメントさせていただきました^^素敵な記事をありがとうございました!
綾瀬あおいさん
お返事が遅くなりごめんなさい💦
コメントありがとうございます✨
子育て、先が見えないからこれでいいのだろうか?の連続ですよね😣💦
終わってみたら「考え過ぎだったー!」ってことでも、そのときは思い詰めてしまうもので…
私も「きっと大丈夫…!」と自分に言い聞かせてます笑
お互い気を楽にやっていきたいですね…!
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