この旦那、やりおる…!
「#私のパートナー」
そんな言葉を見て一番に思い浮かんだのは、一年前に結婚した私の旦那だ。
つい先日、10月12日から13日にかけて日本列島を襲った台風19号。
たくさんの雨と強すぎるの風を引き連れた台風は、過ぎ去った今も土砂災害や河川の氾濫、浸水や停電といった形で姿を変えて猛威を振るっている。
「命を守る行動を」
「特別警報が発表される可能性があります」
そんなニュースは台風が来る前日からひっきりなしにTVで流れていた。
ただ事ではない雰囲気を察知し、私と旦那は一緒になって出来る限りの台風対策をした。…と書きたいが、実はその準備の直前に私と旦那はテレビゲームをしていて大喧嘩した。
私がテレビゲームをやり、それを横で鑑賞する旦那。
「あー!そこはダメ!違う違う!」
「だから言ったのに~」
こちらの苦労も知らずに好き勝手言う旦那に無性に腹が立ち、言い合いの喧嘩に発展してしまったのだ。
そんなわけで、台風が来ていて対策をしなければいけないところを、私は寝室でふて寝する事態となってしまった。
旦那が申し訳なさそうに寝室に来たが、私は怒りマックス激おこぷんぷん丸。知らないふりをして、そのまま布団を頭からかぶった。
しばらくすると、隣の部屋から変な物音が聞こえてきた。
ビーーーーーーーー、ビリビリ。ビーーーー。ビビ。
何の音か分からず耳を澄ませていると、カーテンレールを引くような音もする。何だろう、何をしているんだろう。でも知らない…!私は怒っているんだから…!!
そんな子供じみた怒りを抱えて、やっぱり寝室からは出られないでいた。
この時旦那はベランダの窓全部に養生テープを貼っていた。私がふてくされている間、一人、迫って来る台風のために対策を進めていたのだ。
実は、この後すぐに旦那は仕事に出ることになっていた。昼過ぎから次の日の昼まで、当直の仕事だった。台風が通過すると言われていたのが12日の昼頃。彼の当直は11日の昼過ぎから12日の昼までだった。つまり、12日の昼まで、私は家でひとりぼっちになる。
いよいよ旦那が仕事に行く時間になって、ようやく私は寝室を出た。
さすがに「行ってらっしゃい」も言わずにいるのはまずいと思った。それこそやばい台風が来ているというのに、これが一生の別れにでもなったりしたら…と思ったのだ。
すると旦那は、クローゼットから出した普段使わないリュックを差し出してきた。
「何かあったら、これを持って避難するんだよ。
大丈夫。ちょっとの辛抱だから。
ひどくなったらすぐに仕事から帰って来るよ」
中にはブランケットや水、お菓子、タオル、軍手などが入っていた。
持ち手のところには笛もついていた。
「困ったらこの笛を吹くんだ」
私が寝室でふて寝をしている間、彼は家で一人になる私のことを考えて、色々と準備をしてくれていたのだった。
そして「さっきはごめんね」と、彼は私の顔色をうかがいながら言った。私が顔を背けると、ふっと笑って私の腕を掴んでぎゅっと抱きしめた。「これで仲直りね」と彼が言い、私のおでこにキスした。
まぁいっか。怒ってるのも疲れたし。そもそもあんなことで怒る私も私だ。
「行ってくるね。心細いだろうけど、仕事が終わったらすぐに帰ってくるから。大丈夫だよ」
結局、台風が来たのは12日の夕方過ぎ。その頃には旦那も無事に帰宅していた。
その日は朝から警報を知らせるアラームがスマホからひっきりなしに鳴っていた。
家が高台にあるので河川の氾濫や大雨による水没の心配はなかったが、風による影響だけは避けられなかった。強い風が吹き、そのたびにベランダの窓がガタガタ言った。寂れたマンションの、なんだか薄くて心もとない窓である。この風で窓が割れてしまうのではないかと冷や冷やした。
おまけに窓の立て付けが悪いのか、強い風が吹くたびに窓と窓の隙間からピーーーーッ、ピーーーーッと音が鳴る。
突風。
ガタガタガタガタッ!!!!!
ピーーーーーーッ!ピーーーーーーッ!
ガタガタッ!!!!!
ピーーーーーーーーーッ!
もう不安や恐怖を通り越して、なんだか腹が立ってきた。警報の音やニュース、窓の音。朝からずっと不穏な音に晒されて、私の心は参っていた。
「窓のこの音、耳が疲れちゃう。もうイヤだ」
私が弱音を吐くと、旦那がこんなことを言った。
「なんか太鼓と笛の音みたいに聞こえてきた。お祭りみたい」
その一言で恐怖も苛立ちもなくなり、一気にお祭りモードになった。
対策は出来る範囲で十分やった。じたばたしても仕方ない。不安になっても仕方ない。せっかくなら楽しい時間を過ごそう。
そう彼に言われたような気がした。
その後、結局二人でゲームをしていたらいつの間にか嘘みたいに外は静かになっていた。大きな被害もなく、無事に台風は通り過ぎていった。
どんな時も私のことを愛し、そしてどんなことも楽しく乗り切ろうとする彼の頼もしさをしみじみ感じた。そういえば私は、彼のそういう所に惚れて結婚したんだった。
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