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恋に恋して 第30話

応援ナース

 訪問入浴という仕事に限らず、介護の世界は基本的に人手不足であることに関しては少し前にも書いたと思う。特にどの業種の人手が足りていないかというと、これに関してはその業種にもよるのでなんとも言えないのだけど、訪問入浴に関しては完全に看護師が足りていない。

 なぜ足りていないか、端的たんてきに一言で説明するならば、訪問入浴と言う仕事が過酷で精神的というよりは体力的な負担が大きいからである。
 看護師の資格を持っていれば何も訪問入浴のような体力的にしんどい仕事をしなくても、他にもいい仕事はたくさんある。
 だから、看護師たちが、なかなかこの仕事を選んでくれないのだ。

 ただそんな訪問入浴にも良い点はある。
 それは夜勤がないということだ。
 さらには……在宅介護の仕事なので、病院と違い何度も押されるナースコールに悩まされることもない。
 3人一組で仕事をするので何か困ったことがあれば他の二人にも相談できる。

 そんなところだろうか……。

 命を預かっている仕事ではあるのだけど病院に比べるとその辺の精神的な重さは少ないように思えるのも良いところかもしれない。

 長々と語ったが訪問入浴というのはそういう仕事で慢性的に看護師不足である。
 大手の事業所になると他の事業所から看護師の応援を頼むことがあり、ボクが所属していた会社でも介護保険が始まった直後は、他の事業所から応援で看護師がやってくることが多くなっていた。

 折しも、パンダさんが退職し、代々木さんと川野さん、そしてアヤコちゃんも抜けて、ボクがいた営業所はもともと所属していた看護師が4人も抜けたのだ。
 応援が来るのも当然の話である。

 会社の本社は埼玉にあり、神奈川での営業所は鎌倉にしかなかったので、応援に来てくれる看護師は埼玉に住んでいる人ばかりだった。

富久田ふくだです。よろしくお願いします』
 彼女がやってきたのはそんな春の忙しい時期だった。
『阪上と言います。よろしくお願いします。』
 彼女の名前は富久田奈緒ふくだなおさん。
 年齢はボクと同じぐらいの看護師だった。
 色白で目が二重、ショートカットで、シンプルな服装を好む女性で、一目みると『かわいい』を絵にかいたような女性ひとだった。

 まあ……だからと言っていくらボクが惚れっぽくてもそんなにすぐに好きになることはない。
 そもそもこの時期は大好きだった代々木さんに中途半端な仕方でふられて、気持ちの整理もついていなかったし、恋愛したいという気持ちも自分の中では少なかったからだ。

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