〈創作超短編4〉私のガイドさんは苦労している

ピコピコとヘッドホンから電子の音がする
モニターはこの世のものとは思えない生物と
何やら剣を持った人型が戦っている様子だ

指が忙しなく動く

勝利のファンファーレのような音楽が流れ
人型は剣を掲げて勝利のポーズを決めている

それを満足げに眺める少女が一人

そしてそんな少女を眺め
眉間にシワを寄せる半透明のおじさんが一人


私のガイドさんは苦労している


「先輩、やっぱダメっすわ」

「根気だ」

「そうは言っても、部屋すら出ない者をどう導けと…」

半透明のおっさん二人が
何やら雲の上で相談している

先輩と呼ばれたおっさんは
少し赤みがかかった髪の色をして短髪だ
何となく熱血っぽい感じがする

落胆しているおっさんは
武士のような出立をしているが
話し言葉がどうも現代の若者を思わせる

「直接的なルートは狙うな、あくまで「あら偶然!」作戦で行け」

「人間というのは奇跡を好むが
奇跡が起きるまでの出来事は好まない傾向にある」

だから…


今日何度目のファンファーレかわからない
正直この音楽嫌いになりそうだ

「先輩のアドバイスは抽象的すぎて
全然参考にならない」

そうぼやいた声はここでは誰にも届かない

何故なら俺は肉体を持ってはいない
霊のような存在だ

俺はこの少女の遠い先祖にあたり
今はこの少女をサポートする役割についている

「大変だったが子供の頃は可愛かったのだがのう…」

十数年前の少女を思い出しては感傷に浸っていた
もう涙が出る肉体ないのに

ヴーッ

四角い平べったい鉄の物体が突然動く

「うわっ!!!」

スマホと言われるものだ

どうもこいつの挙動には、いつも驚かされる
いいかげん慣れたいものだ
びっくりする心臓はもうないというのに

少女がその平べったい鉄の物体をいじって表情を曇らせる

どんな内容なのか俺も
少女の後ろから覗き込んでみた

少女の唯一の友達からの連絡で
「今から遊びに行こう」の文字があった

少女は返事を返そうとせず
スマホの画面を閉じようとしていた

待て待て待て待て!
これはチャンスだ…!

俺はつかさず少女に団子のイメージを送った

何故団子かって?
今俺が食べたいからだ

本当は少女の好物の方が良かったのだが
咄嗟だった為、俺の好物になってしまった

そんな適当な理由で団子のイメージを送ったのは
彼女にどうにかこの部屋の外へ出かけてもらう為なのだ

その先に俺たちの目的がある

ただ団子を食べたいという理由で外にさえ出てくれれば
あとは何とか働きかけがしやすくなる

どうにか返信してくれ…!

スマホを閉じようとした少女は
思いとどまりはしたが
なぜか打ち込もうとしない

団子という単語だけでもいい

せめてこの子と会話をしてくれ…!

しかし手は止まったまま
少女はまたゲームを再開しようと
目線がモニターの方を見る

ここまでか…

ヴーッ

相手からまたメッセージが来る

「私、めっちゃ美味しい団子屋さん知ってるから一緒に行こう!」

この友達は女神様か…!

俺の念かはたまた彼女の念が届いたのか
ピンポイントで誘ってきた

今少女は団子が食べたい筈…!

返事はたった一言でいい
その一言を打ち込んでくれ…!

少女の指が動き出す

短く「いいよ」と言う単語

俺は歓喜した

少女の返事に、すぐ歓喜のスタンプが送られてくる

今の俺を表しているかのようだった

まさに今、勝利のファンファーレを流して欲しい

ただ団子のイメージを送っただけの仕事だったが
これからが忙しくなる

これから先の少女の未来と
俺のやるべき事を確認しながら
先輩のアドバイスを思い出す


『だから…食いもんでもオモチャでも何でもいい、餌で釣れ!』


そういえばガイドのプロである先輩は
生前は一流のプロの釣り師だったのを思い出した

執筆者:千尋ゆか

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