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【LIVE REPORT】NICO Touches the Walls"N X A"TOUR (6/6 ZeppTokyo)

NICO Touches the Wallsの約一年ぶりの全国ツアー("N X A"TOUR)の初日、ZeppTokyo 公演を観に行ってきました。以下ライヴレポートになります。内容に触れていますので、閲覧にはご注意下さい。

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場内が暗転して大歓声が上がる中ステージに登場したのは、対馬祥太郎(Dr)、坂倉心吾(Ba)、古村大介(Gt)、そしてサポートメンバーの浅野尚志(Key,Vn,Gt)の4人だけだった。彼らは、まるでセッションを始めるかのように音を鳴らし始めると、金髪姿の光村龍哉(Vo&Gt)が颯爽と現れ、1曲目“N極とN極”へと雪崩れ込む。初期衝動のままに走り出す“Broken Youth”が放たれると、7月25日に発売『TWISTER -EP-』より新曲“フリッパー”、浅野のヴァイオリンの音色が一段と強く響き渡った“THE BUNGY”、そして爽快なギターがまっすぐ届いた“まっすぐなうた”へと続く。

バンドは次から次へと曲を畳み掛けていたが、かといってフロアとのキャッチボールが出来ていないわけではない。曲が投下されるごとに大歓声と拳が上がり、オーディエンスは跳ねまくるという、ここまでは普段のニコのライヴでよくある光景だった。

異変に気付いたのはライヴ中盤から。まずは再び『TWISTER-EP-』から披露された“新曲”は、過去のリリース作品の世界とは大胆にかけ離れさせた、なかなか振り切ったもの。さらに、歌詞に時事ネタをぶち込んだことでより重厚でブルージーに仕上げた“病気”、緊迫した空気を黄昏色に染め上げた鍵盤とヴォーカルオンリーの1番から、情感あふれる切なさを鳴らした“勇気も愛もないなんて”、そして青と緑の放射状の照明が季節感を表していたニコ流AOR “bud end”、心洗われるシューゲイザー・サウンドの“Ginger lily”をバンドは黙々と演奏する。フロアは一時騒然としていたが、一曲一曲が終わるごとに上がる歓声はどよめきにも近く、私の背後からは「すごい…」との声が聞こえてくる。

ライヴ後半の光村のMCによれば、普段はあまり表には出さない、スタジオでやっていることをそのままCDにしてしまったのが『TWISTER-EP-』である。このTWISERは、本来「竜巻」という意味であるが、派生させて「捻くれ者」としているとのことだ。つまり、昨年の全国ツアーFighting NICOでも彼らは好き放題やり、それを形にしたのが同年12月リリースの『OYSTER -EP-』だったが、さらにその上を行くのが『TWISTER-EP-』=「捻くれ者」で、それを引っ提げたツアーなのである。この時点で自然と思い浮ぶキーワードが「原点回帰」ではないだろうか。現在メジャ-デビュー10年目を迎えていることも相まって、あのインディーズ時代から1st Album『Who are you?』までのモードにバンドは返り咲いたと誰もが思うのではないか。しかし、あまりにディープな中盤と今から述べる後半を観た限りでは、彼らは原点に立ち返りたいわけではないのだろうと私は感じた。それこそ活動初期の頃は、ジャパニーズ・ロックのかっこよさを追求していたが、今のニコは洋楽的な要素を詰め込んだ楽曲主体のバンドに成長したからである。同じ「捻くれ者」でも天秤に掛けているもの自体が違うのだ。

『TWISTER-EP-』から披露されるのは3曲目の“新曲”は、スモークが噴出するというド派手な演出にも劣らぬスケール感のあるアッパーなナンバー。そして、最新モードの“mujina”と初期曲“アボガド”が続いたが、これが「海外のハード・ロック・バンドの来日公演か!」と突っ込みたくなるほど、破壊力あるダイナミックなサウンドを放っていた。“渦と渦”の後に続いた"Funny Side Up!"もそう。ギターを抱えたまま、ほぼハンドマイクで歌いきった光村のソウルフルな歌声と、ファンキーなグルーヴに会場一帯が巻き込まれる中、勢いよく銀テープが飛び出し、それを掴んだ多くの手が揺れる景色は、まるで70年代のソウル/ディスコ・ミュージック・バンドのライヴシーンを観ているよう。本編ラストの新曲、GS調の“来世で逢いましょう” は、出だしが<嫁に行っちゃった>という歌詞だったこともあって、1曲目である“N曲とN曲”のアンサーソングにも聴こえた。普段、アンコールの最後に歌われることが多い曲がライヴの1曲目であることを不思議に思っていたら、最後にこんなオチがあったとは。

アンコールに応えるためにメンバーが登場すると、光村の誕生日プレゼント購入エピソードを古村が話し、「そもそもは…」と光村がアンコールについてのうんちくを解説。そこから「今日演奏された曲の中から一曲だけリクエストに応える」という流れで“THE BUNGY”を披露。そして、ここで終わるのかと思いきや“天地ガエシ”が始まりライヴは終了。最後は5人で肩を組み「ツアー行ってきます!」と元気よく告げ、ステージから去っていった。

メジャーデビュー10周年といえば、ベストアルバムをリリースし、それに伴った記念ライヴを行うバンドも多い。しかしニコは10周年に固着することもなく、現代版にアップデートさせた過去と今を猛烈に絡ませながら、ロックバンドとしての可能性をさらに押し広げようとしていた。だからこそ「捻くれ者」=『TWISTER-EP-』を世に放つという一見挑発的にも見える姿勢は、デビューから10年間ひたすら音楽を愛し続けてきた彼らの真摯な姿とも受け止れる。そして、ライヴ中に胸に沸き上がるものは、高揚感や幸福感だけではなくて、どこかへ置いてきてしまった青い感情も、思わず身震いしそうになる興奮も、センチメンタルな情緒もあった。5人の勇士によって繰り広げられた約2時間のステージに、ツアー初日とは言え私は200点満点を付けてあげたいくらいである。

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