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西洋剃刀の切れ味テスト、HHT(Hanging Hair Test)についてのメモ


西洋剃刀の切れ味テストとして有名なHHT(Hanging Hair Test)というものがあります。
手順その他については coticule.be というサイト内の"The Hanging Hair Test (HHT)" や、Shave Library の"Hanging Hair Test, from trick to probing method" といったページがありますが、日本語でまとめられた文章を見かけません。そこで、目的、手順、判定基準などについて、私の理解したところを書いておこうと思います。なるだけ正確な記述を目指してはいますが、間違いも含まれているかと思います。上に紹介した記事も参照しつつお読みください。

約3000字のエントリーです。

HHTとは

Hanging Hair Test の名前通り、髪の毛を刃の上に載せて引いた時に起きる反応を観察し、刃の状態を大雑把に調べるプロセスです。
刃がじゅうぶん鋭く研げていれば毛は2つに切れますし、ダルければ刃の上を滑ります。
髪の毛を切る事のできない刃物でヒゲをスムーズには剃れませんから、私は主に足切りとして使っています。
あとは上手く研げていない(=砥石の当たりが弱い)箇所の検出でしょうか。

ともあれOK/NGという判断をするための物ではなく、毛が切れる際の手応えに耳を傾けて解釈をする必要のあるテストです。

おまけとして、毛がプツンと切れる様子は面白く、デモンストレーションとしても楽しいものです。

手順

適当な長さの髪の毛と、研いだ剃刀を準備します。
そして
1: 片方の手(利き手が良いでしょう)で髪の毛の毛先側を持ち、反対の手で刃を真上からわずかに向こう側に傾けて剃刀を保持する。
2: 髪の毛のつまんだ地点から2センチほど先を、刃に直交させて載せる。
3: 刃と髪の毛が触れた状態で、髪の毛を少し手前に引く。

という順序で行います。

結果の判定

冒頭に紹介したページを参照しつつ、私の所感を*の後に記します。

HHT-0
ベベルが設定されているだけの状態。
* 元の記事にはどのような反応が起きるか書いてありません。が、ツルツル滑って特に何の手応えもないことでしょう。髪の毛のキューティクルの段差よりも刃先の直径が大きい場合こうなるはずです。
1000番くらいの中砥で研いだ刃で行うと、刃のギザギザに運良く引っかかって前触れ無く毛が切れる事はあります。
これはヒゲをまともに剃れる刃ではありませんが、HHT-3以降とは手応えが違うため区別できます。

HHT-1 ヴァイオリン
髪の毛を引っ張るとざらざらとした手応えがあり、薄い刃の剃刀ではジリジリと音がする事もある。
* 髪の毛のキューティクルに刃の先端が引っかかるけど、食い込むほどには鋭くない場合こうなります。ヒゲを切ることはできるでしょうが、肌の角質をごりごりと削ぎ落とす、快適とは言えない状態です。

HHT-2 スプリット
髪の毛を引っ張ると途中まで刃が食い込むが、切断することなく長手方向に裂ける。
* ついに髪の毛の表面を突破できる鋭さに達しましたが、切断まではあと一歩。
毛の直径の中程から、さけるチーズやカニカマのような感じで毛が縦に割れます。
砥面との当たりが比較的弱く、研磨が遅れやすい箇所に出がちな印象です。

HHT-3 キャッチ&ポップ
髪の毛を少し引っ張ると刃が食い込んだ感触があり、切れた髪の毛が向こう側に跳ね飛ぶ。
* 快適さに問題はあるものの、ヒゲを無理なく切断出来る最低限がこの辺りです。
刃が薄ければ薄いほど派手に跳ね、ピンッと鋭い音がします。消しゴムを定規で飛ばした事を思い出しますね。

HHT-4 ポップ
髪の毛を引っ張った途端に切れて、HHT-3ほどではないが向こう側に跳ねる。
* この段階に達すれば切れ味は十分。上手く行けばとても快適に剃ることができるでしょう。
HHT-3より音も跳ねも小さくなります。3よりも小さな力で切断できた(=より鋭い刃である)証拠です。

HHT-5 サイレント
髪の毛を刃に載せた途端、切断されてハラリと落ちる。
* あんまり言えることがありません。というのも私は1度しかこのレベルの刃に達したことがないからです。
ほぼ無音、ほぼ跳ねない、はそれなりに起きますが、完全な手応えゼロは1度だけ。
HHT-5をパスした時(#8000>C12k仕上げ)は一切の前触れも手応えもなく髪の毛が刃の向こうに落ちて、ほんとうに驚きました。
(ちなみに剃ってみたところ、快適からは程遠い、ぽつぽつ血がにじむ剃り味でがっかりしたものです)

HHTの使い方

HHT-4をパスしたからと言って必ずしも快適に剃れるわけではありませんし、そもそも切れ味はたったの6段階ではありません。
4の少し上かなという刃でとても快適に剃れたり、これは5に近いぞと興奮したけど血がにじみがちだった事もあります。
結局は実際に剃ってみないとわからないわけです。
とはいえ、HHT-3をパスできない刃で快適に剃ることはかなり難しいでしょうから、冒頭にも書いたように、まずは足切りとして有用です。

また3-4-5辺りを判定する際、刃に厚みがあるタイプの剃刀は刀身がほとんどたわまず、結果的に髪の毛があまり跳ね飛びませんから、毛を引っ張るときにつまむ力の入れ具合を観察することになります。
HHT-5に近い刃なら髪の毛を落とさない程度にそっとつまんだくらいでも切れますし、HHT-3周辺だとかなりしっかりつまむ必要があるはずです。
両刃カミソリの刃など、きちんと切れる刃との比較も勉強になります。


繰り返しになりますが、HHTはOK/NGを判定するタイプのテストではありません。つまむ力や切れる時の手応えを見ての無段階判定をおすすめします。刃の発するサインを慎重に読み取って、よりよい研ぎの助けにしてゆきたいですね。

余談ですが、つまむ力を測ることができれば面白そうです。

他のテスト

AHT(Arm Hair Test)というのもポピュラーなテストのようです。
前腕の皮膚上空で、腕毛の木立に向かって刃を動かす事で判定します。
上空2ミリで切れない
上空2ミリで切れる
上空6ミリで触れた毛の一部が切れる(この辺から実用的な刃)
上空6ミリで触れた毛のほとんどが切れる
上空6ミリで音を立てずに切れる
といった感じで鋭さを判定するようですが、無音切断はちょっと想像のつかない世界です。

問題は、私の腕毛が最長でも5ミリほど、かつ完全に肌に張り付いている事。

というわけで代用として
1: 髪の毛の毛根側をつまみ、髪の毛を垂直に立てる。
2: つまんだ箇所から任意の高さで刃を水平に押し当て、切れるかどうかを見る
という事をしないでもありません。
鉋や包丁で同じような事をしている方もおられますね。

また同工のテストにCHT(Chest Hair Test)という方法もあるらしいのですが、これは何かの冗談かも。

最後に

細かい調整や工夫は私も試行錯誤中ですが、概要についてはおおむね上の通りだと認識しています。
上手に使えば刃/研ぎの癖を見つける手助けになる便利なツールですので、必要に応じて試してみてください。

このエントリーがなにかのヒントになればうれしいです。
また、間違ってる点や見落としている点があればぜひご指摘ください。
コツなども気づき次第追記しようと思っています。

2020/05/22 公開
2020/06/23 誤字等修正

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