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瞠目せよ、行政の本気 遠野カッパ旅

 あまり大きい声では言えないが、わたしは正直なところ遠野市立博物館を舐めていた。市立の施設ということで、くそ真面目な、学びはあれど華はない展示を想像していたのだ。
 
 実際に足を踏み入れてみて、この先入観は完全にくつがえされた。

 まず映像作品がすごい。2階のシアターでは座敷童子のアニメーションが映写されていた。これがとても良い。絵本のような美しさと民話的な恐ろしさが共存した素晴らしい短編作品…というわたしの陳腐な感想は忘れて、ぜひ実際に観てほしい。
 さらに1階に降りると、馴染み深いサイヤ人親子によく似た声が聞こえる。ふらふらと声のするほうに吸い寄せられると、紛うことなき水木しげる先生の絵柄のカッパが画面の中で動いているではないか!しかも、ちゃんと赤い。さらにCV野沢雅子である。こんな贅沢なことってあるだろうか。ちなみにこのカッパアニメは門外不出だそうで、遠野市立博物館でしか見られない。
 それから、通路の壁にさらっと有名漫画家先生達の描いたカッパや座敷童子が飾ってあって、こちらも必見である。すごいぞ、すごいぞ遠野市。

馬。これ以降は興奮しすぎて写真が無い


 なんでも平成22年に遠野物語100周年と開館30年を記念して全面リニューアルしたとか。遠野物語そのものの紹介もさることながら、その時代背景や地域の暮らしについても体験的に学べるため、理解に厚みが増すようになっている。
 展示についてもただ分類して並べて終わりではなく、「魅せる」工夫が随所にしてある。さらっと流し歩いても世界観を楽しめるし、足を止めて読み込めば情報量にうなることができる。真面目さとエンタメ性の配分が、とても良い塩梅なのだ。

 博物館を去る頃には「わたしここに住む!」という気持ちになっていた。実際に住んだら民間信仰の展示が怖くて寝られないかもしれない。心残りといえば、遠野物語の序文から引いた「戦慄せしめよ」をデザインした缶バッジが品切れだったことである。再販のチャンスがあれば馳せ参じたい。