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スミソニアン『地球博物学大図鑑』との話

 何年か前に、自分へのご褒美を買おう!と思い立ったことがある。すごく頑張ったか、つらいことがあったか、何があったかはもう忘れてしまったけれど。とにかく、ちょっと贅沢で、気分の上がるものを買おうと思ったことは覚えている。

 たとえば食べ物や飲み物で贅沢をする方法もあるが、なにか形に残るものが良かった。服や靴やアクセサリーという選択肢もあったが、特にこれといって欲しいものが無かった。妥協はしたくなかったのでしばらく保留していたのだが、あるとき、閃きの妖精が降りてきて囁いた。

「ねぇ、図鑑はどうかしら?」

 ずかん。図鑑。ZUKAN!なんて甘美な響きだろう。思い返せば子どもの時から植物や生き物の図鑑を眺めるのが好きだったが、自分で買い求めたことは無かった。大型書店に行くと時折、鉱物や恐竜の図鑑に目が留まるものの、ウィンドウショッピングの域を出ていなかった。これぞまさに、普段はちょっと手が出ない「ご褒美」にふさわしい買い物ではないか!
 
 早速ネット検索でめぼしい図鑑を探してみると、鉱石図鑑、天体図鑑、ウミウシ図鑑やキノコの図鑑など、表紙を見るだけでわくわくするラインナップの数々。目移りしてなかなか決めきれずにいたところで、「図鑑 スミソニアン」とのキーワードを見つけた。スミソニアン博物館といえば、映画『ナイトミュージアム』の舞台になったことでもお馴染みの、アメリカを代表する博物館だ。これはなんだか素敵な匂いがするぞ…と鼻をひくつかせて検索を進めると、こんなタイトルにぶつかった。

 『地球博物学大図鑑』

 なんて魅力的なタイトルなんだろうか。まず『大図鑑』がもういけない。大百科やら大辞典やらの文字面を見るだけで胸が高鳴るのは私だけではないはずだ。さらに『地球博物学』というのは「こちとらァ地球上の博物学はまるっと網羅してるんだぜ!」と豪語しつつも「まっ宇宙はもっと広いんだけどね(ニヤリ)」と不適な笑みを漏らすような趣きがある。あるよね、あるったらあるんだい。

 このようにときめく邦題を冠したこちらの図鑑であるが、原題は『The Natural History Book』とシンプルだ。映画や書籍でも邦題に比べて英語の原題があっさりしていることはしばしばある。どちらかといえば「邦題がダサい」みたいな文脈で話題になることもあるような。ところが『地球博物学大図鑑』は直訳ではないにも関わらず、ちゃんと匹敵する輝きを放っている。これはなかなかに稀有なことなのではないだろうか。

 よく見ると、英語のタイトルには小さな文字で『The ultimate visual guide to everything on earth』と副題が添えられていて、ここから邦題をつけたんだなぁと納得。もし仮に私が訳者だったなら『超図解!!!地球の…すべて』などと、はしゃいだ邦訳をしてしまっていたことだろう。正統派でありながらわくわくを喚起してくれる『地球博物学大図鑑』で本当に良かった。

 ちなみに私は、少し安かったのと英語の勉強にもなるので英語版を買った。ご褒美なんだからそんな貧乏くさいことを言わなくても良いのだが、結果として自分が満足できる買い物ができたので万事OKとする。

 さて勢いにまかせてタイトルの素晴らしさを語っていたら、結構な文字数を食ってしまった。中身の魅力についてはまたの機会にしたためたい。尻切れトンボの申し訳なさに、出版元のページのリンクを貼っておきますね。



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