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感傷の赤 遠野カッパ旅

 遠野市に入ると、至る所でカッパを見かけた。道路の案内標識や看板のあちこちに、まんが日本昔ばなしのエンディング曲で手を振ってくれそうなカッパのイラストが添えられている。

 「遠野のカッパは赤い」のだと予習していた。だからてっきり看板や土産物にも赤カッパが目立つのかと思いきや、存外に緑色ののカッパが幅を利かせていた。たしかにカッパといえばアマガエルのようなグリーンで塗りたくなるし、ぱっと見で「カッパだなぁ」という安心感がある。

 しかし「カッパは緑」というわたしたちの先入観によって、遠野カッパのオリジナリティが失われているとしたら由々しき問題である。せっかくの遠野ならではの赤いカッパ、緑に押されて存在感が薄いのだとすれば寂しいではないか。

 外来種ミドリガッパに居場所を奪われた固有種アカガッパについて思いを馳せ、肩を落としたとき。わたしの涙ぐんだ目に愛くるしい笑顔が飛び込んできた。



カッパの大福(緑、赤)


 この大福を見て、悟った。わたしはなんと浅はかだったのだろう。赤緑ふたつ並んだ、この屈託のない表情よ。カッパたちは棲家を巡って争ったりしない。赤いから緑だからと排斥しあったりはしないのだ。この大福はいわば平和の象徴である。カッパ・イン・ザ・ピースフルワールド!

 ちなみに持って帰って宿でおやつにする予定だったのだが、カバンが揺れるたびに赤と緑が押し合いへし合い。なるべく元の形に戻そうと試みたものの、写真のミドリガッパのあごがややシャープなのはそういう事情である。(これは決して居場所争いではなく、仲良さゆえ、すもうをとりはじめてしまったのだろう。)このままでは可愛らしさを保ったままの帰還が危ぶまれたため、路傍で早々にいただいた。

 もちもちした生地に程よい甘さ、たいへん美味。わたしのセンチメンタリズムも一瞬で霧散した。カッパ淵付近にお立寄りの際は、ぜひ。