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【ライブ】tricot One-man Show「秘蜜着 THE FINAL」 恵比寿リキッドルーム 2024.2.12

今回のライブは2023年に遂行された声出し、拍手、口外全て禁止の奇妙なライブ「秘蜜」と、メンバーのリハーサルからライブ中の撮影、さらに打ち上げまで参加できる「蜜着」と言うクレイジーライブのツアーファイナルとなる。


ライブレポート

「蜜着」に参加した客による撮影した映像をバッグスクリーンに映し出されると、Vo.イッキュウさんの歌い出しから「ポークジンジャー」からスタート。

理解不能な変拍子の詰め合わせの「18,19」、開放的で明るい印象の「大発明」はかなり久しぶりに聴いたと思うし、そもそもライブで演奏したのも久しぶりだと思う。

「おちゃんせんすぅす」の時のキダ先輩は思いつくままフリーダムにエフェクターをいじってて、新しいおもちゃを買ってもらった3歳児みたいで面白かった。

tricotの音楽はフルイドアートのように混ざっているけど混ざらない、酢豚のパイナップルのように隠さない隠し味のように感じることがある。絶対に合わないと思っていると意外と合う。

それを具現化するようにフロアの客も各々自由にリズムを取る。

ボーカルのしなやかなメロディに揺れるひと、裏拍でリズムを取るひと、メンバーと同じ振りをするひと、微動だにせず体内で渦巻くタイプのひと。なのに何故か一体感が生まれ、ライブの空間が作品と化す。

曲によっては主役のボーカルがバイブレイヤーになることも、トッピングとして彩るギターが低音として支えに回ることも、支えるはずのベースが大砲の放つようにドカンと前面に出ることも、どの楽器も誰もがセンターになっても同じ力量で様になるとフロントの女性3人のトリプルボーカルの「サマーナイトタウン」で感じる。

正式加入後も吉田さんのドラムのスキルは言うまでも無いのだが、以前はフロント3人を支えるように脇役として叩いていたように思えていたが、今は"tricotの一員"として自信を持っているように思えた。

「アチョイ」「WARP」でイッキュウさんがハンドマイクでステージを右往左往、「混ぜるな危険」のタイトルを無視してわざとイントロとアウトロをグラデーションの混ぜ合わせるように「混ぜるな危険」をアレンジ。

秘蜜

「秘蜜」、このライブのルールは拍手禁止、声出し禁止、口外禁止、メンバーもMC一切無しと、コロナ禍の制限を逆手にとった奇妙なライブだ。バッグスクリーンにこの上記注意事項が映し出され、突如「秘蜜」の再現ターンが始まる。

「秘蜜」のセクションで演奏した曲たちは、バランスからして五行思想みたいだと思った。

蜜着

「蜜着」、その名の通りtricotに密着出来る企画。

枚数限定で販売された「蜜着」チケットの購入者を対象にリハーサルの見学、リハーサル・本番のライブの撮影終始OK、その後の打ち上げにも参加OK(2ショやサインなどありとあらゆるファンサがもらえる上にメンバーが勝手にファンサしてくれる)とクレイジーなライブを敢行。

ここからはイッキュウさんから「皆さんにも蜜着を体感して欲しい」と写真・動画の撮影許可。

その撮影OKの一発目が「POOL」である。

ツアー終了後、「蜜着」に参加し写真や動画を提出した客宛てに「ライブ中に撮影した動画や写真をSNSにアップし、今回のライブの告知を手伝って欲しい」と言った旨のメールが届いた。

「POOL」が発表されたのは10年程前、MVの内容は「演奏中の彼女たちをスマホで撮影する」と言うもので、スマホやSNSが完全に普及し、何でもかんでも”スマホで撮影する”という文化が社会問題視された頃だ。

当時の彼女らはもしかすると”現代社会の皮肉”をテーマにしていたのかもしれないが、10年経った現在「撮影した動画や画像をSNSで拡散して告知する」と言う広報として利用され、今回のライブに至ってはチケットがソールドアウトすると言う立派すぎる結果が残った。

フィーリング派で海外でのライブも多い彼女たちは「POOLのMVを実際にライブで再現してみよう」とも考えはさらさら無かったのかもしれないが、客にライブの動画を拡散させて公認で告知をするという合理的さに加えて自然とMVの再現がされているのである。

先見の明と言うべきか、自然と良い方向にリバイバルが行われる常に我が道を行くバンドのその感覚は凄まじく鋭い。

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これまた久しぶりに演奏された「おまえ」から「99.974℃」ではベースのヒロミさんが客の上に乗ってベースを弾き、ラストの白熱の「MATSURI」でイッキュウさんが客席ダイブ。

tricotのライブでモッシュダイブが激しかった頃から通っている身としては、身体の芯から熱くなるような激情的な曲の雪崩だった。

アンコールでは5月のライブを情報解禁、エンドロールでメンバー、tricotスタッフ、最後に蜜着に参加し、動画や写真を提出したスタッフの名前が流れて終了。

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ほとんどの曲で蜜着でファンが撮影した動画や写真を映し出してくれていた

演奏中のメンバーをモニターに映す手法は後方の客が見えづらいため大型のライブではよく見られるが、過去のライブ映像をバックに目の前でメンバーが現在進行形でライブをするという体験が、ツアーに行ったひとは思い出として振り返ることが出来る上に、ツアーに行ってないひとはどんなツアーだったのかが一貫して分かるようで、集大成としてあまりにも相応しすぎる演出だった。

ファンをほぼスタッフとして取り扱ってくれるバンド

極論かつ暴論ではあるが、tricot側に「tricotのファンは実質スタッフ」と言われているようなものの、私としてはあくまで「tricotのファン」であることは根底にあるのだが、ライブの最後にエンドロールで自分の名前を発見した時は直接tricotの力になれているようで、その嬉しさと同時に不思議と確固たる手応えのようなものを感じた。

結成から10年を超えベテラン枠に差し掛かり、ロックバンドとしては常に唯一無二で特異なポジションのtricot。

複雑でポップ、秩序のあるカオス、それでもまとまりのある圧倒的なバランスセンスの個性的な曲を武器に、今回の「秘蜜」のようなルールだらけのライブや「蜜着」のようにファンを信頼しすぎている可笑しなライブのように、一貫して変わらぬ好奇心の強いtricotの少女性が、ずっと私たちをワクワクさせてくれるのだと思う。

セットリスト

1.ポークジンジャー
2.18.19
3.大発明
4.サマーナイトタウン
5.おちゃんせんすうす
6.アチョイ
7.WARP
8.混ぜるな危険
9.-
10.-
11.-
12.-
13.POOL
14.おまえ
15.99.974℃
16.MATSURI

en.不出来






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