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最近、牛のゲップに厳しくない?『畜産=環境に悪い』は本当か。

最近『畜産=環境に悪い』というイメージが強くなっている気がします。畜産に携わる僕にとって、少し切ない話です。

確かに、畜産には環境に悪い側面があります。特に非難が集まっているのは“牛のゲップ”です。

“反芻動物である牛のゲップには、多量のメタンが含まれており、この温室効果ガス排出量は世界全体の5%に上る。”

畜産研究部門:牛のメタン | 農研機構 (naro.go.jp)

数字で見ると地球規模のインパクトを感じてしまう。牛のゲップだけで環境に悪影響が出るなんてどういうこと・・・?それだけでなく、畜産の生産では大量の水資源も必要なため、環境に対する影響は広く深い様子。


でも、ちょっと待ってほしい。


確かにこれは事実なのだけど、この側面だけで『畜産=環境に悪い』という構図で片付けられるのは悲しすぎる。

このnoteでは、“畜産は環境に悪い”とは言い切れないということを、とある論文の研究結果から紹介したいと思います。

畜産における動物性たんぱく質の“質”は極めて良質

まず、畜産品である牛肉・牛乳・豚肉・鶏肉・鶏卵からは、極めて良質なたんぱく質が摂取できることを伝えたい。東北大名誉教授の齋藤忠夫先生の論文によると、

動物性たんぱく質の消化性必須アミノ酸スコア:DIAAS値は植物性たんぱく質よりも優れており、少量の摂取で十分なたんぱく質が摂取できる

2023年, 新アミノ酸指標 DIAAS によるたんぱく質の再評価と動物性食品の生産に伴う環境負荷の再考 より 72_2022_19-29.pdf (jdta.or.jp)


DIAASとは、必須アミノ酸の消化吸収効率と利用効率を総合的に判断できる指標のことで、この数値が高いほど良質なたんぱく質として評価されます。


2023年, 齋藤忠夫, 新アミノ酸指標 DIAAS によるたんぱく質の再評価と動物性食品の生産に伴う環境負荷の再考 より

表を見ると、畜産品のDIAASが他に比べて高いことが分かります。また、この表の比較対象である小麦・大麦・トウモロコシ・大豆は、どれも家畜用のエサとして使用されています。

つまり、DIAASの低い植物性たんぱく質を牛などの畜産動物へ与えることで、さらに良質なたんぱく質を生み出すことができる、ということです。

また、たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の内、9種類の必須アミノ酸は自身の体では生合成できないため、必ず食事から補う必要があります。


極端な話、穀物や野菜だけで健康的な生活を送るためには、大量に穀物や野菜を生産し、沢山食べる必要がありますが、畜産品を食べれば、それよりも少ない土地や水源利用で実現が可能になります。

卵や豚肉は意外と環境に優しい食品

さらに、DIAAS指標をベースにタンパク質の“質”の視点から温室効果ガスの排出量を比較すると、卵や豚肉が思いのほかエコな食材であることがわかります。


同じく、2023年 斎藤先生の論文より

このグラフは、各食品に含まれる消化性リジン1㎏あたりの温室効果ガス排出量を比較したもの。リジンとは人体で生成できない必須アミノ酸の1種で、消化性リジンとは人体で消化吸収できるリジンという意味合いです。

つまり、人体が利用できるタンパク質の“質”の視点から、温室効果ガスの排出量をグラフ化しています。

このグラフを見ると、消化性リジン1㎏を生産するために、どれくらいの温室効果ガスが排出されるかを見ることができます。卵や豚肉は米やトウモロコシに比べて温室効果ガスの排出量が低いことが分かります。

もっと他の食材と比べた一覧があったらよかったのですが、残念ながら見つかりませんでした。。。

畜産業は不活用資源に新たな価値を与えるアップサイクル

牛のエサには、牧草などを原料としたサイレージと呼ばれる飼料を使います(この他にも、トウモロコシなどの穀物を配合した“濃厚飼料”も組み合わせながら給餌)。

このサイレージは人が利用しない資源をもととするため、不活用資源のアップサイクルとしての役割があります。

また、調理残差や食品副産物、売れ残りなどを活用した家畜用飼料も生産されています。これはエコフィードと呼ばれ、地域のワイナリーから排出されたワイン粕を活用した事例もあります。

さらに、家畜から排出される糞は発酵処理をすることで堆肥などの有機肥料を生産することができ、野菜の栽培へ活用することで循環型農業の実践も可能です。

農業と畜産が補完し合う関係性が大切

牛肉をはじめとした畜産品の生産は地球環境に悪影響をもたらす側面を持ちながらも、穀物や野菜では補うことが難しい優良なたんぱく質を効率的に生産することができます。

しかも、たんぱく質の”質”の目線で見てみると、畜産からの温室効果ガスの排出量は以外にも少ない。

また、人と競合しない資源を活用して生産することも可能で、不活用資源のアップサイクルとしての役割を持ちます。

『畜産=環境に悪い』と断じるのではなく、農業と畜産がバランスよく補完し合いながら持続可能な生産を目指していくのが、あるべき姿ではないでしょうか。そのための互いが納得できる議論をしていきたいです。

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