文字の世界で真壁瑞希が挑みゆくもの~『地上の光はすべて星』によせて~

1.概要

『アイドルマスターミリオンライブ!』の同人誌即売会・ISF11にて、小説同人誌『地上の光はすべて星』(作:潟野様)が頒布される。

 本同人誌を『アイドル同士の賑やかな会話』『真壁瑞希の奮闘』『ライブシーンの圧倒的描画力』という三点で紹介する。
 この記事を通して本同人誌に興味を持っていただき、是非即売会にて購入していただければと思う。
 尚、紹介にあたってはサンプルで投稿されている範囲で本文を引用している(作者様からも了承済み)。

2.アイドル同士の賑やかな会話

『地上の光はすべて星』には、『アイドルマスターミリオンライブ!』で度々見かける、アイドル同士の賑やかな掛け合いを多く読むことが出来る。

「もう、しっかりしてよね」
「すみません、しゅぎょうさん……あう」
「そんな噛み方する?」
「まだ、寝ぼけているのかもしれません……思いのほか、ぐっすり寝てしまったぞ」
 取り出した携帯には瑞希が最後に確認した時刻から一時間強経った数字が示されていた。自主練で掻いた汗もとうに乾き、肌寒さだけが残されている。
「居眠りもそうだけど、あんな姿勢でずっといるなんて感心しないよ」
「確かに、首に負担がかかっていたようです。自分の首を絞める、とはこのことですね。次からは寝袋を使いましょう」
「…………」
「ジョークです。ちなみに、絞首はチョーク」

地上の光はすべて星・本文より

 瑞希の堪能な語彙、そして連続していく冗談。実に彼女らしくて面白い。本作ではこんな会話が様々な場面で起こる。相手も桃子だけでなく、亜利沙や歌織という、普段はあまり関係性の窺えないようなメンバーとも繰り広げられる。個人的には、後半に出てくる琴葉と海美の、短いながらも二人らしさに満ちた会話もとても好きだ。更には、765プロ外のあのアイドルたちも登場し、会話は益々賑やかになっていく。
 後述する物語的な起伏もありながら、本作の会話はとても明るく、読んでいてとても楽しい。目にこそ映らないが、確実に想像出来る賑やかさを、是非体感してほしい。

3.真壁瑞希の奮闘

『地上の光はすべて星』は、真壁瑞希の奮闘を描く物語である。

スランプに悩みつつ、真壁瑞希さんがライバルである北上麗花さんにアイドルとして真っ向からぶつかって行く話です。

地上の光はすべて星・サンプルのキャプションより

 奮闘。本作において、瑞希は自らを奮い立たせながら、何度も闘いの場に立つ。それは冒頭の麗花のインタビューで明言されるオーディションであり、その後に瑞希自身が提言する勝負でもある。
 アイドルとしての自分に悩む瑞希は、何度となく自らを戦いの場に投げ込み、勝利を求めていく。勝負好き、という言葉だけではその姿勢や熱情を語ることは出来ず、時に普段の姿からは想像がつかないかもしれない。しかし断言するが、本編を通して描かれる真壁瑞希は、間違いなく我々が普段目にしている彼女の延長戦上にある。前述した会話や、後述するライブシーンからも、それは窺える。
 それでいて、何度となく自分に対して悩み続け、挑み続ける姿は、本作だからこそ見得る、読み得るものだと思っている。時にその描写は悲痛を伴うが、決して悲惨さや凄惨さを含むものではない。アイドルとして、必然的に行き当たる命題に、彼女は立ち向かっていく。是非、彼女の担当プロデューサーには、彼女の奮闘を見守ってもらいたい。
 加えて言うならば、北上麗花のプロデューサーにも、この物語を読んでいただきたい。いつもと変わらない奔放さが語られたり、アイドルとしての強さの所以が描かれたり、後述するライブシーンでは、ため息が出るほどに素晴らしい表現を味わい尽くせるだろう。瑞希のライバルとして、彼女がどう相対するのか、想像以上のものが読めることを保証する。

4.ライブシーンの圧倒的描画力

『地上の光はすべて星』は、圧倒的描画力によってライブシーンが構築されている。
 これだけはこの記事に一部を掲載することが惜しかったため、サンプルを読んでいただきたい。ページ数で言えば4ページ目からである。
『彼女たち』のライブシーンが、文字だけで描かれたものが、段々と頭の中に浮かび上がり、そして轟音と閃光が満ちてゆくことを、体感出来るだろう。文字という情報媒体でここまでのものを経験出来るのは、滅多にないことだと思う。圧倒的、という言葉は『彼女たち』に向けられるものであり、そして本作の描画力にも当てはまるものだ。
 それでいて恐ろしいのは、本作のライブシーンはこれだけに留まらないことである。瑞希と麗花の勝負があり、更には後半でとてつもない『共演』の話まで出てくる。
『アイドルマスターミリオンライブ!』は、その名にライブを冠しているコンテンツである。だからこそ『シアターデイズ!』ではアイドルたちが常に歌い踊り、年に一度は声優陣によるライブが開催され、各楽曲はとても魅力的であると、個人的には思っている。そのコンテンツの二次創作において、ここまでライブシーンが素晴らしいことに、惜しみない賞賛を贈りたい。本記事を書いた一番の動機もそこにある。
 ライブシーンが凄い。凄すぎる。それは描画力であり、選ばれた楽曲であり、それが連なったセットリストであり、彼女たちが纏う衣装でもある。その全てが怒濤のように押し寄せる終盤は、齧り付いて読み進めたほどに面白く、素晴らしい。
『アイドルマスターミリオンライブ!』のライブをもっと体験したい、という方には断然お勧めしたい一冊である。喩え担当プロデューサーでなくても、アイドルたちが好きで、ライブが好きならば、本作を好きになるのは間違いないと確信している。

5.終わりに

『地上の光はすべて星』という小説同人誌は、『アイドル同士の賑やかな会話』『真壁瑞希の奮闘』『ライブシーンの圧倒的描画力』という三点に於いて、非常に優れた一冊である。
 正直、ページ数や値段を見て一歩後ずさりしてしまうかもしれないが、そこはこの記事と、本作を読んで火を入れてもらった私が、大丈夫だと背中を押したい。大丈夫、絶対面白いから。
 最後に、本作のタイトルに触れたい。『地上の光はすべて星』は、SF小説『天の光は全て星』を題材としたタイトルである。地上の光とは何なのか、星とは何なのか。誰がそれを問い、誰が回答するのか。その全てが分かった時、このタイトルが『アイドルマスターミリオンライブ!』にぴったりと当てはまっていると思えた。
 プロデューサー、ファン、いちユーザー。本同人誌を手に取る人には色々な肩書きがあると思うが、アイドルたちを見守っている者であることに変わりはない。そうであるならば、本作を手に取り、楽しみ、星の正体を知る意義があると、信じてやまない。




6.オマケ

 本記事を書いたサイトロという人も、同人誌即売会(ISF11)で新刊を刊行する。

 こちらの作品もまた、『アイドルマスターミリオンライブ!』におけるライブというものに着目し、注力し、尽力した一冊である。20ページ、20,000字以上に及ぶライブシーンは、『地上の光はすべて星』とはまた違う読書体験になることを信じている。それでいて、自分たちで披露する楽曲を決める楽曲ドラフトは、会話形式(SS形式、とも言う)ですらすらと楽しく読むことが出来る一冊である。あと表紙がかわいい。超絶かわいい。かわいすぎてめまいがする。
 縁があればこちらも是非。