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三つ子の育児をワンオペで背負い込んだお母さんの悲しすぎる事件。やはり、日本にもネウボラが必要

先日、名古屋地裁でとても悲しい事件の判決が出ました。

不妊治療の末にようやく三つ子を授かったお母さんがワンオペ育児の末に鬱となり、夜に自宅で子どもたちを寝かしつけていた際になかなか寝てくれずに泣き出した次男の声に苛立ち、次男を畳に2回たたきつけ脳損傷により死なせた、という事件です。

裁判長は、このお母さんに対して懲役3年6カ月(求刑懲役6年)の実刑判決を言い渡しました。



辛すぎませんか…


せっかく、妊活の末に、ようやくできた待望の子どもなのに。

ワンオペ育児で追い込まれて、誰にも助けを求められなくて(お父さんは育休を取得されたようですが、事件当時は職場に復帰していて、お母さんは独りで寝かしつけていた)

愛しいはずの我が子に苛立って、そしてそんな自分自身を嫌悪して、ずっと楽しみにしていたはずの子育てが地獄になって…


こんなの、本当に辛すぎる。


で、ネット等では例によってこのお母さんを更に追い込むようなコメントで溢れかえっているわけですけど…


それは違くないか。

間違っているのはこんなことをお母さんにさせてしまった社会ではないのか。


日本の保育園の配置基準では、プロの保育士さんひとりで0歳児をみれるのは3人迄です。それ以上はプロでもダメなわけです。その保育士さんだって、園の仲間と助け合ってどうにかやっている状況なんですよ。

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それなのに、このお母さんはひとりで三人の0歳児の子育てしてたんです。

こんなのまさに無理ゲーです。


この悲しい事件の責任は、本質的には社会にあるはずです。


そして、政府は普段から声高にやれ「女性活躍」だの「少子化対策」だのっていうなら、こんな悲しい事件を二度と起こさないように本腰入れて対策うってくれよっていう。ほんとに。


では、今回のような事件を二度と起こさないために我々が、そして行政ができることとはどういったことがありうるのか、考えてみました。



大前提としての、保育園の【全入化】

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まずは、何はともあれ、保育園への全入化は必須です。

【無償化】じゃないですよ!

【全入化】です!!!


保育園を無料にする前に、まずは全員入れるようにしてくれよと…

それが全国のお父さんお母さんに最も必要なライフラインだと思います。もはや、水道水と同じレベル。


政府はどういうわけか、このあたりは本当にセンスがないというか、現場感覚ゼロっていうか、ドヤ顔でこの幼児教育・保育無償化を進めています。

しかし、無償にしたって保育園に入れなかったら全国のお父さんお母さんはめちゃくちゃ困るでしょう!!

そして、育児を各家庭だけに押し付けず、社会全体で行うことによって虐待などの問題を未然に防ぐことが可能にもなります。家庭と社会の接点が増えるからです。

この幼児教育・保育無償化は今回のエントリの本論ではないのでこれ以上突っ込まないですけど、とりあえずこのツイートだけは見て頂きたいです。


だいたい、小学校に入れない子どもなんていないわけじゃないですか。そんなことが起こったら大問題ですよね。

でも、政府は毎年平気で待機児童問題は起こします。待機児童問題ゼロにするっていってもう何年経っとんねん。

政府が本気になったら、待機児童問題なんてなくなるはず。でもそれをやらないってことは、そういうことなのかなって思っています。

最近は怒りとか悲しみを通り越して、闘志が湧いてきてます。

あ、もう自分たちがやらないとダメなんだな、っていうね。



キーワードは、切れ目のない支援。日本にも広がりつつあるフィンランドの「ネウボラ」の仕組み

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この事件の詳細について多くのことはわかりませんが、大切なポイントがあると思います。

それは、お母さんは行政に相談するため足を運んでいるけど、役にたつアドバイスがもらえていないことです。頼れていない。孤独なままです。

● 出産前、子育ての不安を市に相談したが、双子の育児ガイドブックと多胎育児経験者の会のチラシを渡されただけ。

● 出産後、自宅を訪問した保健師に相談すると、子どもを一時的に預けられる「ファミリーサポートセンター」の利用を勧められたが、事前面談に3人の乳児を連れて行くことが難しく、利用することはなかった。 


実際、同僚のママたちに話を聞いてみるとこの保健師さん(行政)のアドバイスについてすっごい不信感を持っていました。

子育てについて真剣に悩んで相談をしたのに「大変なのは今だけだから」とか「この時期を楽しんで」みたいな回答がかえってきたと。

そんなアドバイス聞きに来たんじゃねーよっ!!という怒りを今でも抱えておられました…


では、この行政の担当が職務怠慢でどうしようもないのか、というとそれはまた違った話だと思います。

なぜなら、突然やってきた初対面の人にそんなヘビーな悩みを打ち明けられても、本質的なアドバイスなんてなかなかできないじゃないですか。

誰だってそうなんじゃないかと思います。


しかし、聞く方は真剣だからそういう浅い回答に不満が募ってしまう。

これはもはや、行政の担当者個人ではなくて、構造的な問題、仕組みの問題なのではないでしょうか。



ではどうするか。

私は「ネウボラ」の設置がひとつの解だと思います。


「ネウボラ」とは、妊娠期から小学校へ上がるまでの子どもとその親を含む家族全体の健康と生活を守るため、かかりつけの保健師(助産師)が責任をもって切れ目のない支援につなげるフィンランド発祥の制度。

産前から産後まで、各家庭ごとに担当スタッフがついて相談に乗ってくれたり、状況によっては適切な福祉的・医療的サービスに接続してくれます。

だから、お父さんやお母さんと信頼関係が構築され、深刻な相談もできるようになります。

アドバイスも言いっぱなしにならず、責任を持った対応が期待できるようになります。


日本では、児童虐待によって死亡する子どもの数は年間約350人とされています。およそ毎日ひとり、児童虐待で子どもの命が失われています。(※日本小児科学会「子どもの死亡登録・検証委員会」2016年4月発表)

一方、この制度が行き渡っているフィンランドでは、児童虐待による死亡件数は、人口600万人で年間0.3人。つまり、3年に1人です。


凄まじい差ですね。


単純計算ですが、日本がもしフィンランド並に虐待事件を防ぐことができれば、年間の児童虐待による死亡者数は約20人に激減します。悲惨な事件が、現在の約1/18くらいになります。


かねてよりこの制度に目をつけて実際にフィンランドに視察まで行かれた長島昭久衆議院議員のレポートがとても参考になりますのでぜひご覧ください。


そんなネウボラが、平成 29 年に日本でも「子育て世代包括支援センター」として法律が制定され、市区町村に設置する努力義務規定が置かれました。


しかし… 


児童相談所しかりですが、自治体に対する「努力義務」というのは特にやる気のない人に遠くから「がんばってやってね〜」と言っているようなもの。

つまり、基本は誰もやろうとしないわけです。

残念ながら、日本ではまだまだ質量ともに整備されていないのが現状…



埼玉県和光市で光る先進的事例「わこう版ネウボラ」

しかし、実はいくつかの先進的な自治体でこのフィンランドのネウボラ的制度が実践されています。

そのひとつが、埼玉県和光市です。

松本武洋市長のリーダーシップのもと「わこう版ネウボラ」として親子に活用されています。

大変幸運なことに、先日松本市長から直々にこの「わこう版ネウボラ」の肝についてお話を伺うことができました。

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画像出典元:https://www.holg.jp/interview/matsumototakehiro/


「わこう版ネウボラ」ではまさに産前産後から切れ目のないサービスが実践されています。概要は下図の通りです。

いや、子育て世代のひとりとして、ガチで引越したくなりました。

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もっと当該制度の詳細を知りたい方はコチラをクリック


松本市長のお話は本当に興味深いことばかりだったのですが、この制度を成り立たせる上で重要な要素が4つあると思いました。


① 担当者の異動がないこと

このサービスは子育て世代包括支援センターで母子手帳の交付から開始されますが(松本市長は、本当なら結婚したときから始めたいとおっしゃっていましたが)、それは民間に委託されています

この民間業者には行政とは異なり、担当スタッフ(母子保健ケアマネージャー、または子育て支援ケアマネージャー)の異動がありません

一貫して母子を支えられる仕組みになっています。


② 施設が徒歩圏内にあること

この「わこう版ネウボラ」を提供している子育て世帯包括支援センターは市内に5ヶ所もあるので、和光市のドコに住んでいたとしても徒歩圏内。

松本市長曰く、これがこのサービスの肝とのことです。

施設が物理的に自宅から遠いと、心身ともに疲れている親にとっては足を運ぶハードルが高くなってしまいます。

利用者のアクセシビリティを高める上で、徒歩圏内であることは重要です。


③ 行政のおせっかいを仕組み化

普通の自治体では、母子手帳を受け取る際に出産や育児に関する資料の説明や行政の便利な制度や施設の紹介をしてくれます。

しかし、それで終了。


せっかくの貴重な行政と親子の接点が、ほとんど活用されていません。

和光市では母子手帳を渡すときに、かなり各家庭のプライベートな事情に踏み込んでヒアリングしています。

これによって、要支援家庭の早期発見が可能になっているそうです。

加えて、その後も定期的に調査をして各家庭の最新情報を把握できるようにしています。

こういったプロセスで各家庭の情報を集めたものを和光市では「カルテ」と呼んでいて、必要に応じて各家庭ごとの支援プランを決定しています(※)。

※ 基本的には、各地域ごとの会議でプランが検討されています。虐待やDV等の特に重いケースは各専門家の集う「中央コミュニティケア会議」に移管されます。


④ 総合的な対応が可能であること

要支援家庭が抱える問題は、多くの場合とても複雑なものです。

虐待、DV、貧困、発達支援、親の障害、子どもの障害、等々、様々な問題が複雑に絡み合っています

和光市の子育て世代包括支援センターでは、こういった問題をワンストップで対応できるように担当者が配置されています。

「生活に困っている場合はこの施設です、でも虐待でしたらあっちにいってください」みたいなコミュニケーションを取っていたらその家庭の問題が解決されることはまずないでしょう。

でも、残念ながら日本の多くの自治体では未だこういう感じの対応になってしまっています。





松本市長のお話の中で、強く印象に残っていることのひとつに「行政が地域コミュニティに過度な期待をしてはいけない」というものがありました。

和光市では、人口約8.2万人で4.1万世帯。つまり、核家族化が超進行しています。

さらに、自治会組織率は40.93%。正直、壊滅的です。

このような状態で、地域コミュニティに各家庭の子育て支援を期待するのは無理であり、幻想である、とおっしゃっていました。

だからこそ、これまで地域が担っていた各家庭への支援を行政が積極的に担っていかねばならないのだ、と。

本当にその通りだと思います。


私たち日本人の生活は劇的に変わってきたし、これからも変わり続けるでしょう。

社会の仕組みもそれに合わせて変えていかねばなりません。

それを怠り続ける限り、今回のような悲しすぎる虐待事件がこの国で止むことはないのでしょう。

この社会に、新しいアタリマエをつくっていく必要があることを確信しています。

そして、私が強く望む新しいアタリマエは、お母さんだけに子育ての責任を押し付けない仕組みです。

社会全体で親子の笑顔を守っていくいくことです。

本当に、もう、待ったなしだと思います。

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