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「甘橘山の物語」 コーラ職人コーラ小林の「日本を、飲む。」

2022年4月28日、コーラ小林は小田原の江之浦測候所にいた。江之浦測候所とは現代美術作家の杉本博司が創った壮大なランドスケープ(庭園、屋外美術館)だ。

「各施設は、ギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成される。また財団の施設は、我が国の建築様式、及び工法の、各時代の特徴を取り入れてそれを再現し、日本建築史を通観するものとして機能する。よって現在では継承が困難になりつつある伝統工法をここに再現し、将来に伝える使命を、この建築群は有する」という場所。

施設パンフレットより

コーラ小林はコーラ作りのヒントを得ようと、日々の製造の合間を縫ってやってきたのだ。

江ノ浦測候所を歩き周り、構内の竹林を抜けるとそこには柑橘畑が広がっていた。おそらく年代物だろう古いトロッコもなぜか不思議とまだ現役で使われているかのような佇まいを見せる。

東家

近くの東家にいた職員に話しかける。

「なぜ、この場所に、柑橘畑があるのか」

と。

職員はこう答えた。

「杉本は自身のランドスケープを体現できる土地を探していました。ある日、かつて柑橘畑だったこの土地と出会います。柑橘畑を引き継ぎ、そのまま柑橘を作り続けることを条件にこの土地を譲り受けたのです。」

その名も甘橘山(かんきつざん)。

「甘橘山の物語」


その話を聞き、コーラ小林は
「物語があるこの山で作られた柑橘でコーラを作ってみたい」と思った。
究極的に美味しさにこだわった素材を使うという手法ももちろんある一方で、物語のある素材を使い、物語の語り部としてのコーラを作りたいと思ったのだ。

持っていた伊良コーラのチラシの裏に、コーラ小林の汚い字で(味があるとも言える)、自分の連絡先を書いて、お土産のボトルコーラと一緒に職員の方に渡し、甘橘山を後にした。

数日後、1通のメールが届く。

「柑橘畑を耕作しております 農業法人 株式会社 植物と人間の代表を務めます磯﨑と申します。伊良コーラを飲みました。スパイスのバランスが大変良く、後味スッキリで美味しかった。うちの畑の柑橘を使用してコーラが出来ないかと興味を持ちました。一度お話を伺えないかと思いメールさせて頂きました。」

すぐにメールと電話でやり取りをし、磯崎氏から早速柑橘類のサンプルが送られてくる。甘夏、紅日向夏、日向夏、そしてバレンシアオレンジだ。

届いた柑橘たち

皮を剥いて、果汁を絞る。
たちまち工房の中は柑橘の爽やかな匂いで満たされた。

試飲会のために磯崎さんを総本店に招き、試作品を試飲する。

グレープフルーツらしい苦味を持った甘夏も捨てがたいが、
今回は苦味と甘味が絶妙な日向夏を使うことに決定した。

そして、6月9日、コーラ小林は柑橘山にいた。

朝7時に伊良コーラの総本店を出発し、9時に甘橘山に到着。
メンバーはコーラ小林の他に、藤原、井上、学生インターンの古川さんだ。
全員で日向夏を収穫する。

同日、工房に戻り、下処理をする。
1つずつ手洗いをし、皮をむき、果汁を絞る。レモン、ライムよりも果皮は少なく、果汁が多いようだ。

その後、特殊な火入れをし、13日に瓶へと充填する。スピード感を持ち、6月14日、販売開始。イヨシの日だ。

製造したシロップはSサイズとMサイズで合計144本(イヨシにちなみ)。
下落合にある総本店で約40本、渋谷の店で約30本、オンラインのストアで約54本を売る。卸としては伊勢丹新宿店に5本ずつ、甘橘山に5本ずつだ。
店舗では限定数だけ、その場で飲めるようにした。甘橘山にあるSTONE AGE CAFEでも飲めるようにした。

一杯のコーラに込められた物語を是非飲んでいただきたい。

終わり