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いつもボヤッとしている

 あれは19年前、2005年の夏のこと。徹夜で働いて職場の仮眠室で寝ていたとき、先輩に叩き起こされ電車で所沢駅まで行った。そして西武ドームで西武ライオンズvs千葉ロッテマリーンズを観た帰り。試合終了から1本目の西武池袋線に乗った際、空いてる席に座ろうとしたところ、急にその空いた席にポスターかなにかを丸く筒状にした物が投げられ、「え?」と思ってたら「どうもすみませ〜ん」と若い女性がその席に座った。僕はそのとき、なんであの筒を拾って投げ捨てて座らずに、ボケっとしてしまったんだろうと考えながら立ち尽くした。だからなんだという話だが、この一場面は割と僕の人生を象徴しているというか、「肝心なところでボヤッとしてしまい、言いたいことやりたいことができない」という僕が今まで沢山、経験したことを凝縮している。

 そういう僕のボヤッとしている内に固まってしまうという性分は、それまでもそれからもあった。本当にちょっとしたことでも言い返したり訂正したりができず、「これ、このままでいいのかなあ」と思いながらフラストレーションを溜める。案外、みんなそんなもんなんだろうか。

 去年、差し歯が抜けて歯医者に行くと、「この差し歯、もう歯茎と合ってないので虫歯も全部抜いて入れ歯作りましょう」と言われ、「え?」と思ってる内にバンバンバンと歯を抜かれてしまった。今の僕はほとんどホームレスのようだ。1月2日の新年会も、みっともないなあと思いながらの参加だった。(しかも終電を逃した)

 こんなことが、僕の人生では続いていくのかなあというようなことを、ぼんやりと思う。「あのとき、切り返してああ言えばよかった」とか、そんなことばかりだ。僕はその内、致命的な場面でもボケッとして終わってしまうのではないか。そんな気がしている。それが悔しいのはもちろんだが、その一方で僕らしい人生の終わりかたのような気もして、僕は新年を過ごした。歯は、前歯3本しか残っていない。

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