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Dreamers


ジョングクさんが2022年カタールワールドカップの開会式で歌った。
その日のことを書いておきたい。

Born Singer


ステージに登場した時、彼は目を閉じていた。
イントロが始まり、彼は音楽に身を委ねるようにゆっくりと頭を揺らす。
そしてまるで今まさにこの音楽から生まれたかのような、ここで歌うために生まれたかのような不思議な神々しさを纏って歌い始めた。
ダンサーさん達と息を合わせ、時折笑顔も見せながら歌い、踊る姿。
本人が言っていたように、余り緊張はしなかったのだと思う。
彼は最高の舞台で誰よりも純粋に音楽を楽しんでいた。


Away

BTSとして世界中で大きな会場を沸かせてきた経験があるとはいえ、それはARMYがアミボムを手に会場を埋め尽くす超ホームな状況。
サッカーの、いやスポーツの最大の祭典であるワールドカップというステージは、彼にとってアウェーであることは想像に難くない。
今回集まるのは世界最高峰のサッカー選手とサポーターたち、中継を見守る世界中のサッカーファンたちだ。
ジョングクさんが歌うことよりも試合開始を今か今かと待っている人々だ。
注がれる視線もその規模も何もかもがコンサートとは全然違う、まさにアウェーの状況。
そこにBTSの看板を背負ってたった一人で挑んだ彼。

しかも今大会は開催国であるカタールの人権問題に対する批判が噴出し、沢山のセレブ達がこの大会に関わることを是としない風潮ができていた。
正直ジョングクさんが開会式に参加すると聞いた時、驚く程大きなステージで嬉しいこと以上に、どうして事務所はこんな火中の栗を拾っちゃうんだろうと思った。
釜山コンの時みたいに政府の思惑の押し付けかななんて思って心配したりもした。

でもステージを観れば、まさに釜山コンと同じように、そんな杞憂を吹っ飛ばすような最高のパフォーマンスだった。
あぁ、これがバンタン、これがジョングクさんと言う人だ。
ステージで全てを魅せてくれる人だ。
知っていたつもりだったのに。
アミなのに、いつもどこか信じきれていないのかもしれないと恥ずかしくなった。

I'm proud of you


Chance


サッカー選手なら誰もが夢みるワールドカップ。
4年に1度のチャンス。
プロになり、世界で戦う位置にいても、怪我やライバルの状況や調子の波で出ることすら叶わないかもしれない大舞台。
サッカー選手がそれを夢みて努力を重ね、ワールドカップに辿り着いたなら、
歌うことが自分の存在意義だと言うジョングクさんだってようやくそこに辿り着いたのだ。
一人でも多くの人に自分の歌を届けられる最高の舞台に。
4年前では届かなかった、そして4年後はBTSと言えども届かないかもしれない、まさに千載一遇のチャンスを掴んだのだ。
誰にも真似できない位の努力を重ねて。


Respect

人権問題について考え、あらゆる人の人権を尊重すること、尊重しようと声をあげることはとても大切だ。
カタールの法律で定められていることは、BTSがこれまであらゆる差別に反対すると伝えてきた姿勢とは異なる。
だから今大会に参加すべきではないという考えも理解できる。
けれども今回ジョングクさんや事務所が採った参加という決断も、きっと大きな価値があるものだと思う。

今のカタールの方々が宗教や習慣に根ざし信じているものを間違いだと糾弾し、今すぐ改めろと別の国の別の価値観を押し付けるのは一方的過ぎないかと思う。
勿論非人道的な行いは決して許されるべきではない。
改めるべきだと主張する側が、過去の過ちを反省した上で積み上げたどんな正しさを持っていたとしても、
議論する相手に対して、この曲でも繰り返し歌われる「respect」を忘れてはならない。


Socializing

ワールドカップの開催でカタールには国籍や肌の色や宗教が違う世界中の人々が訪れ、
様々な交流が生まれ、様々な影響を及ぼすだろう。
カタールの人々が、自分の国がどう見られ、世界ではどんな風に人々が暮らしているのかを知ることもあるだろう。
その中の一つとして、韓国のアイドルであるジョングクさんが歌う。
少しでも興味を持ってくれて、ジョングクさんやBTSのことを知ってくれたら。
ジョングクさんとファハド・アル・クバイシさんの声が重なって生まれた美しいハーモニーを味わってくれたら。
内側からほんの少しでも変われるきっかけになるのではないかと願う。


Arabian Prince

現地のホテルかレストランかで、ジョングクさんが女性スタッフと記念写真に収まっているのを見た。
カタールでは外国人労働者が人口の9割を締めている。
また、女性の人権も極めて制限されているというから、そこで働く女性は日本の私達よりずっと生き難いのではないかと想像する。
そこにアラビアンプリンスみたいなジョングクさんが現れて一緒に記念写真を撮ってくれたら、彼女達にとっても、同じ環境にいる方々にとってもどんなに希望になるだろうと思う。
世界は、カタールに暮らす人々を、今まさに差別の対象となるかも知れない立場の人々を見捨てたりなんかしていない。
優しい笑顔で写真に収まって、そんな事が自然にできちゃうジョングクさんは凄く大人で凄く素敵だ。


Wind and Sun

物事を変えたいなら、闇雲に一方向に押してばかりでは駄目で、
様々な方向から力を加えて次第に大きな流れを作っていくのが効果的だ。
今回カタール大会に反対の声をあげた人、あげなかった人、そしてそこに住む人みんなが一つになって、世界をより善い方向へ導く流れを作っていけるのだと私は信じている。
私もdreamerなのだ。


Imagine

先月BTSの兵役履行の知らせを受けた時、私はジョン・レノンのイマジンに触発されて「I'm a dreamer」という記事を書いた。


そのイマジンが今回「Dreamers」の歌詞にリンクしていてちょっとびっくりした。
この時も私もdreamerだと書いたけれど、
ジョングクさんの仲間になれたみたいで
そして世界には沢山のdreamerがいると感じられてとても嬉しかった。

夢はみなければ叶えることもできない。

Look who we are, we are the dreamers
We make it happen, ’cause we believe it
Look who we are, we are the dreamers
We make it happen ’cause we can see it

Here’s to the ones, that keep the passion
Respect, oh, yeah
Here’s to the ones, that can imagine
Respect, oh, yeah
Dreamers    / JUNGKOOK of BTS


信じて、未来を見て、実現させる。
情熱と想像力のある人にリスペクトを持って。


Harmony

あの日以来、Dreamersがとても気に入って現在ヘビロテ中だ。
特に開会式で披露されたステージが良い。
実は#BTSの人なんてトレンド入りした時は、ジョングクさんなら歌もダンスももっと難しいものだってできるし、もっと驚かせられるのにって思っていた。
だけど音域が狭くて繰り返しが多いと感じていたこの曲は聴く程に凄く癖になるし、誰でも口遊むことができる。
「ala ho la dan」という掛け声もIDOLやDionysusにも通じるし、何より力が湧いてくるからこういう場にピッタリだ。

そしてステージで一緒に歌ったファハド・アル・クバイシさんも凄く素敵だ。
どうやってあんな風に美しく伸びやかに発声するのだろう。
二人が並んで心から楽しそうに歌う姿と美しいハーモニーは、異なる文化の出会いと調和をシンプルに訴えかける。

harmony


Dreamers

スポーツや芸術には様々なボーダーを超える力がある。
私自身今大会を通じてカタールという国の事情についてや、イラン代表の国歌問題など、各国に様々な問題があることを知り、考えるきっかけになっている。
そしてそれ以上に、大会が始まってしまえばゲームの面白さに誰もが夢中になるのを実感している。
スポーツに政治を持ち込むべきではないというより、最早スポーツに政治が介入する余地はない。
きっと音楽も同じだ。

もっと夢をみよう。
今日は昨日よりずっと良い日だ。
そして明日は今日よりずっと良くなる。
Dreamersがいる限り。




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