お花

それは、彼女に元気になって欲しくて
選んだオレンジ色のバラの花束だった。

彼女は、毎日忙しく、何も手に着かないほどに忙しく、
さみしさで一杯だった。
だから、少しでも元気に活き活きと、
何より爛々となれるように選んだ。

忙しい彼女の事だから、水替えもしてる余裕もないだろうから、
と、少し咲き掛かったお花にした。

自分が居る間は、自分が水の取り換えをしてあげればいい。
自分が居なくなったら、きっと満開になっているだろうと考えてた。

それは、きっと、お花が満開になるのと同時に彼女の心が満開になってくれたら…
そう願う気持ちだったのだと思う。

けれど、そのお花は3日も経たぬ間に、葉が萎れ、花弁が萎れ、首が垂れて行った。

買ってきたのは、自分が着いた次の日だったのに、今は一週間。

まだ咲いても居ないつぼみまで、首を垂れ、まるでウツボカズラのようなバラの花束が10本。

彼女の心みたいに見える。

自分の願いは届かないのだろうか。

活き活きとして、爛々としていた彼女は、もう此処には居ない。
たった一年前、自分が来た時に撮った彼女は、もう居ない。

何故だろう。

そのテーブルの上に飾ってあげた、ウツボカズラのようなお花を毎日眺めて、考える。

彼女の明るさも、楽しさも、可憐さも、何もかもが消えてしまった。
自分の知る彼女は、もう戻らない。
元には帰らない。

出発当日の寝覚めに見た、その夢は、いま此処に居る彼女だ。

彼女のこころは、首が垂れ、うつむいて、
楽しそうに、活き活きと、青春を謳歌している振りだけの沈んだ、哀しさと淋しさでいっぱいだ。

どうか、彼女のこころを曇らせないでくれ。
どうか、自分の知っている彼女を奪わないでくれ。

その腕を、背中を、すべてを、このオレンジ色のバラのように腐らせないでくれ。
自分が見てきた、知っている彼女は、うつむいたお花なんかではないのだから。

ネジバナという小さな野花を摘んで帰って来た、彼女が言った言葉は、
『くるくるしてて、小さなピンクのお花がいっぱいでかわいいね』。

その彼女は、成長したからだとは思えない。

何処へ行ってしまったのだろう。
誰が奪ってしまったのだろう。
何が変えてしまったのだろう。

こんなにも、彼女と一緒に居て苦しくなる想いは、一度もなかった。

自分が愛した彼女をどうか返して下さい。

健気で、可憐な、ピンと真っ直ぐ立ち、道端の脇で、くるくると沢山の小さなお花を咲かせている。
それが彼女らしさ、そのものなのだから。

彼女を奪わないで。お願いだから。

わたしが育てたお花なのだから

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