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KESARI/21人の勇者たち(感想スケッチ)

インド映画「KESARI/21人の勇者たち」という映画を見てきました。

大英帝国植民地時代にあったサラガリの戦いという史実をもとにした戦争映画です。

英領インド軍兵士21人対パシュトゥン人連合軍10000人という圧倒的戦力差の攻防戦をどのように戦ったのかを、イシャル・シン軍曹の活躍を中心に描きます。

主演はアクシャイ・クマールです。
フォーブスの世界でもっとも稼ぐ俳優ランキングでなんとジャッキー・チェンを抑えて4位にランクインというニュースが出たばかりです。

ケサリとはサフラン色(明るい黄オレンジという感じ…半熟卵の黄身のような色かな…)のことで、シク教徒にとって神聖な色とのことです。

シク教徒は、シク教を信仰する人々のことで、古くから戦士や兵士として活躍し、エンジニアなど技術にも長けていると言われています。

また、もともと富裕層から改宗した人が多かったので、海外進出しビジネスで成功している人も多いグループだそうです。

男性のターバン着用が教義で義務付けられているので、ターバンが彼らの象徴となっており、オートバイに乗るときなどはヘルメットをかぶらなくてもいいことになっているそうです。

映画の話に戻ります。

時は1897年、大英帝国の領土となったインド北西部に、3つの砦があります。
1つはグリスタン砦、1つはロックハート砦、もう1つがサラガリ砦です。
3つの砦は望遠鏡を使えば様子がわかり、光信号での通信ができる程度の距離感で配置されています。
インド人兵士は大英帝国軍にまとめられており、国境の向こうのイスラム勢力(パシュトゥン人)とモメています。

平和を愛する農民だったイシャル・シンは、イギリス軍に徴兵されて耳学問で英語を習得し、グリスタン砦の軍曹になっています。
ある日、国境付近を哨戒しているとパシュトゥン人の集団に遭遇します。彼らは大勢で女性を追い立て望まぬ結婚から逃れた罰を与えようとしているところでした。

イシャルは平等を愛し心優しく勇敢、模範的なシク教徒なので、面倒を起こすなという上官のイギリス人将校の命令に背いて、女性を逃がすためにパシュトゥン人の男たちを蹴散らしてしまいます。イシャルは英国将校から「インドの土は奴隷を生む土だ」などと腹いせに侮辱された上、辺境のサラガリ砦へ左遷されます。

サラガリ砦は岩山にお豆腐が乗っているみたいな何もない砦で、結構暇です。
20人の駐屯兵(+飯炊きの男性もいます)はたるみきっていて、パンツ一丁でターバンもせず、闘鶏するとかつまみ食いするくらいしか楽しみがありません。赴任してきたイシャルはそれを叱ったりもしますが、日を追うごとにお互いに慣れて理解も深まり、仲間になっていきます。

パシュトゥン人たちは、近くの3つの部族連合軍を結成し、自分たちの法律(妻が夫のもとから逃げるのを罰したりとか)をイギリス人やインド人に口出しされたくない、支配を受け入れてなるかという大義のもとにサラガリ砦に侵攻します。

その数10000人の大軍勢。
わずかなシク教徒の兵士+食事係のたった22人でこれを迎え撃つことになります。

というのがあらすじなのですが、あらすじだけだと結構真面目な映画なのでは?と思ってしまうのですが、これはなんというか…面白いのですがなんか妙な映画でした。

妙といっても鑑賞には十分に耐え、迫力もありストーリー運びもこれといったストレスとかもなく、面白く見られます。ダンスもアクションもドラマも兼ね備えたちゃんとしたインド映画です。

でも思い出すと、20人の兵士の顔と名前が全然わからないんですね。群像劇じゃないですか。なのに全員ヒゲとターバンと同じ名前「〜・シン」なんですよね。1/3くらいはなんとフルネームがかぶっています。
キャッツが全員同じ模様の猫で「〜・キャット」っていう名前で進んでいくとか、七人の侍が全員同じ姿で名前も「〜千代」のまま進んでいくみたいな感じです。
わかんないよ!ふざけるな!と思うのが普通ですが、でもなぜかイライラしたりしないんですよ。
特にイライラしない工夫があるわけではなく(あるのかもしれないが作劇のことはなにも分からない)、ただなぜかゆるせてしまうので、なんか妙な感じです。
でも面白いんですよね。なんなのだろう……鑑賞後ちょっと奇妙な気持ちになりました。

鑑賞中、私はおそ松くんのことを考えていました。
見分けがつかないのだ。バカボンのパパなのだ。

個別のキャラははっきりしなかったのですが、エピソード自体はぐっとくるものがあります。

・故郷のお父さんが兵隊の靴はかっこいいなと憧れるので、靴を持ち帰るために裸足で過ごしてる・シン
・食いしん坊の・シン
・パンツ1丁の・シン
・鶏の鳴き真似がうまい・シン
・結婚した日の夜を待たずに出征してしまったので女性経験がないのを気に病んで暗い曲ばかり弾く・シン
・面白い話をしたいがいつも断られる・シン
・妻から生まれたばかりの赤ん坊の手形が送られて来る・シン
・その兄弟でいつも手紙を見せてもらい、姪の成長を手形の大きさで知る・シン
・子供の頃地主のマンゴーを盗んだせいで母親が地主に踏み殺されて自分に誇りを持てなかった・シン
・若くて気弱だが英語に堪能な19歳のグルムク・シン

それぞれこの19歳グルムク・シンくらいエピソードとキャラクターが一致できればなあ…。
最年少のグルムク・シンはとても美男子で、見せ場も多く、見た人はみんな彼のことは印象深く思い出せるでしょう。

数の差を見てわかるとおり無傷では済まないので、ややネタバレしますが、兵士が死んでいくときに「アーモンドのシン!悲しい人生だったが、最後に誇りが持ててよかったな…!」とか思いづらいんですね。
「うっ、死んでしまった…厳しい戦況だから仕方ない…でも誰…」ってなってしまって…この「でも今のは何・シンだったのだろう…」のことばかり考えていました。ターバンを取ったり、ビジュアルに変化があるキャラクターは印象に残りましたが……。

味方の個性が今ひとつだったのに対し、敵チームは見た目にバリエーションが豊富です。

まず、英国人将校は白人青年の俳優が演じているので、それだけで目立ちます。エドワード・ソネンブリック(日本語の読み方があっているのかわからない。Edward Sonnenblick)というアメリカ出身の俳優です。
とてもヒンディー語が堪能です。他のインド映画でも英国人の意地悪将校の役をよくやっているようなので、時代劇には欠かせないポジションを獲得しているのかもしれません(インド映画のイベントなどでまれにかかるエア・インディアのCMに出てくるインド大好きな外国人の青年としても有名なようです)。

パシュトゥン人たちは、3つの勢力の連合軍で、ビジュアルが個性的でよかったです。

最初のシーンで女性を罰する気満々の白いターバンの長は、狭量で石頭の嫌な奴という役どころ。要所要所で厄介さを発揮します。

黒ぐろとした豊かなヒゲが魅力の肩から毛皮をかけている長は、イシャルの奮闘をたたえる敵ながら気高い男です。

3人目の長は二人に比べるとセリフや性格では目立ったシーンがありませんが、眼力がすごいのでそれだけで存在感をアピールしていてすごかったです。

そして忘れてはいけないのが謎のスナイパー。ひげそりあとも青々としていますが、口紅をし、頬も赤く化粧しています。でも特別そのことに対しての説明はない……謎……。
サフラン色のターバンの次に思い出すのはあのスナイパーだろうというほど強烈な存在でした。
お化粧し、アクセサリーを身につけ乙女走りなのに、とても長い火縄銃で瀕死の兵士を殺さないように痛めつけるため何度も撃つという冷酷な面も併せ持っていて非常に謎めいていて恐ろしいやつです。
しかし、ライバルポジのような感じを醸し出しつつ主人公との因縁があまりなく、結構早めに退場してしまうのでとてももったいない感じがしました。

それと、特別出演でイシャルの妻役を演じるパリニーティ・チョープラの登場の仕方も非常に変わっていました。合理的な演出ではあるのですが、とても変わってる!特別出演にしては結構出演時間も多かった気がします。男ばかりの戦争モノなので、女性が出る場面というのはつくりにくいはずなので、かなり工夫された出演の仕方だなと思いました。
女性の活躍の場面という点ではパシュトゥン人の女性の役も少ししか出演時間がないのに印象深かったです。

封切当初は1週間限定上映だったのですが、じわじわと追加上映が増えているようですので、気になる方はぜひ鑑賞してみてください。

「ケサリ/21人の勇者たち」アヌラーグ・シン監督
アクシャイ・クマール、パリニーティ・チョープラー、ラケシュ・チャトゥルヴェディ・オーム、ミール・サルワール、エドワード・ソネンブリック他出演
ヒンディー語、154分

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