劇場が育むものは何か。-伝説のイベント「プレイ!」@アイホール

 伊丹市立演劇ホール「アイホール」の用途転換を具体的に検討しているとのニュースが舞い込んでから、8月になった。

 新たな動きとして、

 アイホールの存続を望む会が、伊丹市役所の施設マネジメント課に、伊丹市立演劇ホール(アイホール)のサウンディング調査に関することについて、公開質問状を提出した。https://twitter.com/aisonzoku/status/1422112688931438592

 また、用途転換の経緯や、アイホールの活動を紹介したチラシが配布されたりしている。(このチラシは、素晴らしくて、多くの方に届いて欲しい!)

 それに対して私は家に篭り、想いを馳せているだけで申し訳ない。が、書く。

 『劇場が育むものは何か』その2回目として、20年前のアイホールの事業を紹介したい。私が、芸術の真髄を知った日のことを。

◇◇◇

 もう20年前になるだろうか。アイホールで、子ども向けのイベントを見学した。

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 後にこの事業は、『<親子で遊ぼう!参加型イベント>プレイ!』だったと知る。私がいつのプレイ!を見学したのか覚えていなくて恐縮なのだが、貴重な資料が手に入ったので載せる。

 なんと、伊丹発演劇情報誌'96「季刊 アイ プレスvol.3」には、プレイvol.2のドキュメントが掲載されていた!

??12?????!!  Vol.6~カサトヤサイニンギョウトシンブンニンゲン~』チラシ

???? プレスV ol.3

???? プレスV ol.3-2

 さぁ、私の話に時を戻そう。
◇◇◇

 このイベントは、朝から夕方まで開催され、子どもたちは、工作をしたり、作った楽器を演奏したりしながら過ごす。そこに時々、岩下氏が現れるというものだった。岩下氏の登場は、アナウンスがあるわけでもなく、演奏が始まるのでもなく、いつの間にか現れる(私の記憶では。実際は違っていたかもしれない)。その現れ方も、そおっと様子を見ていたり、壁にペタンとくっついていたりと外から内へにゅるっと入っていく。そんな異質を子どもたちが発見する。岩下氏を発見した子どもたちの反応は、怖がったり、遠くから観察したり、話しかけたりと、多様で個性的だった。岩下氏は、子どもにダンスで応えていく。その流れは、水に絵の具を落としたらじわりと溶け出すような、ひよこが卵の殻を開けた一瞬のような、戻れない一度きりの瞬間に見えた。その後、みんなで踊りだすこともあれば、戦隊ごっこが始まることもあればと、岩下氏と子どもたちが結ぶ関係性は様々だったのだけれど、その様々さが見ている方にも面白かった。
 そこに一際目立つ女の子がいた。四つん這いの岩下氏の体にしがみついたまま離れなくなったのだ。岩下氏が巧みに体を動かして、その子を床に下ろそうとするのだけれど、それでも登っていく。しまいには、落ちないようにぶら下がるようになった。小学3年生くらいか、子どもとはいえ一人の体が、岩下氏の首に手を回しぶら下がる。姿勢を低くしたりして、体を回転させても、絶対に首に回した手を離そうとしない。息苦しいのではと私は心配になった。
 「危険な行為はしてはいけない。」そう子どもに注意すれば、すぐに解決したと思う。けれど、注意はしないで見守って欲しいと主催者から声をかけられた。見守ることに、この事業の意図があったのだ。学生だった私は、二人の動向をハラハラしながら見続けた。


 しばらく岩下氏は、彼女を乗せ踊り続けた。その踊りは、体重を受け入れ、締め付けられる苦しさを流すような動きだった。次第に彼女も、かける力を調整していった。それから二人は、時間をかけて互いを知り、同志になった。そこに言葉は要らなかった。
 
 私は、アーティストの呼応が、相手の本能に響く瞬間を目撃したのだった。その二人の共鳴には、会話は必要なかった。むしろ、問いかけでは届かないところで繋がった何かを見た気がした。

 この共鳴させる力が、芸術の真髄だと、今でも思っている。

 そして、1日を芸術の世界で遊ぶイベントを企画している私は、やばいくらい「プレイ!」に影響を受けている。


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