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AMC・グレムリン&ペーサーは本当に欠陥車なのかという疑問

ピクサーが制作した ''車が主人公'' の長編アニメーション映画

この記事を読んでいる皆様は『カーズ』を知っているでしょうか。

『カーズ』とはピクサーが制作しディズニーが配給する形で2006年に第1作目が公開された長編アニメーション映画です。
2011年に第2作である『カーズ2』、2017年には3作目である『カーズ/クロスロード』が続編として公開されています。

作品の特徴として、自動車を中心とした乗り物全般(飛行機や船舶、鉄道を含む)が擬人化されたキャラクターによってストーリーが構成されており、人間が一切登場しないことが挙げられます。

また劇中に登場する「ピストン・カップ」のモデルがNASCARであったり、声の出演に俳優・レーサーとして名を馳せた故ポール・ニューマン氏やNASCARで最多記録である7度のチャンピオンを獲得したレーサーであるリチャード・ペティ氏が登場していたりと、車好きにとっては注目するべき作品となっています。

キングのモデルとなったプリムス・スーパーバード
カラーからゼッケンの数字まで忠実にキャラに落とし込まれていますね

この他にも第1作の終盤のクラッシュシーンが実際の事故をモデルとしていたり、F1でチャンピオン獲得経験のある選手がゲスト声優を務めていたりと逸話・トリビアは中々尽きないシリーズ作品であるため、気になった方は実際に作品を観たり調べてみると面白いでしょう。

『カーズ2』についておさらい

そして本題に入っていくのですが、今回のテーマとして焦点を当てていく作品は第2作目となる『カーズ2』です。

映画の大まかなあらすじをYahoo映画の作品情報から転載すると
「天才レーサーのマックィーンとレッカー車のメーターが訪れた“トーキョー”で大事件が発生。さらには、フランス、イタリア、そしてイギリスと、ワールド・グランプリで世界を旅するマックィーンたちが行く先々でスパイが暗躍。マックィーンたちは巨大な陰謀から世界を救おうと立ち上がる。」
といった物語となっています。

この作品では主人公のライトニング・マックイーンの元となったストックカーや今作でのライバルであるフランチェスコ・ベルヌーイのベースとなるF1(フォーミュラ1)マシンに加え、WRC(世界ラリー選手権)のマシンやWEC(世界耐久選手権)で活躍するプロトタイプカーやGTカーが一堂に会してレースをするという、モータースポーツファンにとってはある種夢のような舞台が描かれていることが特筆すべき点です。

ちなみに今年度のル・マン24時間レースでは100周年記念枠として特例でNASCARのマシンが挑戦しており、F1マシンこそいなかったもののストックカーがプロトタイプマシンやGTカーと混走するという劇中のような事象が起きました。

そしてこの作品においてディズニー・ヴィランズ(ディズニー作品における悪役・敵役キャラの呼称。『美女と野獣』に登場するガストンや『アラジン』のジャファーはその代表例)として登場するのが ''レモンズ'' と呼ばれる歴史的な欠陥車で構成された組織となっています。
※レモンには、アメリカでの俗語で「質の悪い中古車」という意味がある。

そのような組織を構成するキャラクターのモデルに今は亡きアメリカン・モーターズが生産販売していたAMC・グレムリンとペーサーがいます。

中の人がイベントにおいて撮影
画像出典元:https://www.businessinsider.jp/amp/post-171559

他に組織を構成するキャラクターのモデルとして、レモンズのNo.2には第二次大戦後の西ドイツで生産された個性的なマイクロカーであるツェンダップ・ヤヌスや、アメリカ海軍が保有するインディペンデンス級沿海域戦闘艦まで濃いキャラクター達が登場しますが、今回は上記のAMCによって生産された2台の車について考えていこうと思います。

・注:完全に余談ですが最後に触れたキャラクターのモデルとなったインディペンデンス級沿海域戦闘艦の生産された内の半数に、船体亀裂につながる構造上の欠陥があることが明らかとなり本当の意味でレモンズの仲間入りを果たしてしまったようです。
競合のフリーダム級もギアボックス周辺に欠陥を抱えていたあたり、アメリカ海軍は何をやっているのか。


グレムリンとペーサーの特徴

ここからはAMCが生産していたグレムリンとペーサーの2台についてより掘り下げて行こうと思います。

画像:https://gazoo.com/catalog/maker/AMC/GUREMURIN/197001/

まずはグレムリン。
リヤを一直線に切り落としたようなテールデザインのこの車は、全長4.1mとアメ車の中では比較的コンパクトな車体が大きな特徴となっています。
(ホンダ・ヴェゼルやトヨタ・C-HRが全長4.3m以上あるのでそれよりコンパクトということになる)

画像引用元:https://www.motortrend.com/vehicle-genres/how-amc-gremlin-sales-success-history-photos/amp/

コンパクトな車体ながら3.8L、4.2Lの直6エンジン若しくは5LのV8エンジンを搭載していました。
しかし低燃費や省エネといった時代の流れに合わせ、アウディ製2L直4エンジンを搭載したモデルも後に追加されるなど改良が続けられ1970年の登場から1983年まで長きに渡って生産/販売される車種となりました。

画像:https://www.autocar.jp/post/705460

一方ペーサーについて。
同車の最大の特徴として、こちらもグレムリンとは異なった意匠ではあるものの前衛的なデザインであるように思います。
低く設計されたエンジンフードに運転席側と比較して助手席側のみ長くされた非対称ドア、そして大型の曲面ガラスを多く使用したとても個性的なエクステリア/スタイリングとなっています。日本では「金魚鉢」という愛称を与えられていたそうです。

駆動系もGMが生産する予定であったロータリーエンジンを搭載するFF車として設計が進められており、デザインのみならず革新的な車となる予定でした。

しかしこの計画は第四次中東戦争の煽りを受けたオイルショックによって燃費面での課題が見受けられたロータリーエンジンの計画が中止となったことでお蔵入りし、直列6気筒(後にV型8気筒仕様も登場)エンジンを搭載するFR車としてデビューします。

しかし同時期にAMCの経営が悪化したことに伴い、同社製の車の品質低下などの影響が出るようになりました。
またデザイン面で見れば革新的であった大型ガラス採用も、それを要因とする車重の増加と燃費悪化の欠点が露呈しますが、この欠点は同車の設計上改善のしようがないものでした。

そして1979年にフランス・ルノー社の資本を受け入れ同社の傘下に入ったことで経営再建のため販売車種の整理が行われた結果、1980年をもってペーサーは生産と販売を終了することになります。
AMC社の命運をかけて生まれた車種が同社の経営を立て直すために生産終了になるというなんとも不遇の車ですが、独特のデザインからか記憶に残る車となったのは幸いだったのかもしれません。

余談に、ペーサーは2018年に発表されたポップ歌手である西野カナさんの作品『アイラブユー』のMVにも登場したこともトリビアの1つになっています。

''欠陥車'' とは何か考える

そしてここからがメインテーマとなっていくのですが、そもそもこれをテーマとして記事を書こうと思った大きな理由に、この2台に劇中でこき下ろされたような欠陥があるのか疑問に思ったからです。

確かにメーカーも車自体もニッチでマイナーなもので知る人ぞ知るメーカー・車種レベルであり、2台ともに欠点も幾つかありました。

2005年にMSNBCが集計した「オールタイム・アメリカン・ワースト・カー」では同時期の他のアメ車とともにノミネートされてしまっています。

原文の記事から文章を抜粋し日本語訳したものとなりますが、グレムのモデルとなったグレムリンは「最も奇妙なプロポーションの車の1つ」「重い6気筒エンジンと後部のサスペンションのトラブル」が欠点として挙げられています。
またエーサーのモデルであるペーサーは「走行中に衝撃を受けて以来ドアがビーグル犬の耳のように垂れ下がった状態となる」「ほとんど機能しないエアコン」等が割と辛辣に挙げられています。

ただ ''歴史的な欠陥車'' というカテゴリーで括るのであればこの記事で挙げられてるような車や、もっとそれよりひどい欠点を持つ車種が存在しているように私は思います。

画像引用元:https://www.motortrend.com/vehicle-genres/chevrolet-vega-terrible-cars-that-shouldnt-have-been-terrible/amp/

例えば同じ記事に挙げられており、かつ突出して票を集めていたシボレー・ベガ。

「走行中に車のパーツが落下する」「6万マイルの走行距離(km換算で9万6000km程度)で廃車となる」など品質が高く20万km以上の走行距離の車でも中古車市場で取引される現代の自動車からは考えられない品質であると考えられる。

画像出典元:https://b-cles.jp/car/ford_pinto.html


そして最もひどい''歴史的な欠陥車'' として挙げることが出来るのはフォード・ピントだと私は考えます。
同車は、燃料タンク配置上追突された時に燃料漏れ・火災を起こしやすい欠陥があることが開発段階で明らかになっていたにも関わらず、設計改善に投入する費用より事故が発生した際に支払う損害賠償額のほうが安価であるといったフォード上層部の判断のもと、設計上の欠陥が改善されることはなく市場に送り出されました。
そして実際に火災事故が発生し、その裁判において欠陥を放置していたことが暴露されたことにより賠償金支払いと設計改善によって大きな経済的打撃を受けただけではなく、フォードの製品に対する信頼性や信用を大きく落とすことになります。

画像出典元:https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17145950

その他に日本車で例を挙げると2000年と2004年に発覚する三菱自動車の一連のリコール隠しが露呈するきっかけ(とされている)である三菱・初代RVRなども、考えようによっては ''歴史的な欠陥車'' の範疇に入るのかもしれません。

上に挙げた3台の車と比較してみると、グレムリン&ペーサーの欠点はまだ比較的軽度なものではないでしょうか。

現在存在していないメーカーだから、という説

そこでカーズ2のレモンズ構成員のモデルとなった他の車種について調べてみたところ、興味深い意見を発見しました。

それはレモンズのナンバー2であるザンダップ教授のモデルとなったツェンダップ・ヤヌスについて、Wikipediaにおいて
「悪役として描写される製品に対して該当企業から提訴される恐れ(法廷闘争)を回避するために選択された結果であった」
という記述を見つけたことです。

掲載元が、匿名の不特定多数が編集するため情報が正確でないことがあり信頼性が低いWikipediaであること、その中でも[要出典]認定されている記述であることは留意するべき点ではあるでしょう。
しかしこの記述が1番納得できそうな理屈でもあります。ツェンダップもAMCもメーカーや車ブランドとしては既に廃止されており、悪役として描写しても抗議の心配が極めて低いと考えられます。
この理由が有力であることは、『カーズ』シリーズの他作品やその他の事例からも推定出来ます。

まず『カーズ2』の続編である『カーズ/クロスロード』においてディズニー・ヴィランズとして登場したジャクソン・ストーム。
自信家で実力を鼻にかけた姿かつ、勝つ為に手段を選ばない卑劣な一面も秘めたキャラクターですがモデル車種については明記されておらず、存在していない可能性すらあります。

一説にはキャデラックが2011年に発表したコンセプトカーであるシエルではないのか?といった意見もありますが、真相は闇の中です。

また『カーズ』シリーズから離れて日本国内における例となりますが、三井住友海上のドライブレコーダー付きGKのCMにおいてサーブとオペルの車両が事故に遭うという確率的にはとんでもなく低い車種同士の衝突というシチュエーションが描かれたことで、一時Twitter等でも話題になりました。
これについてもサーブは既にメーカー自体が廃止となり、オペルの方も2006年をもって日本市場から撤退しており再上陸予定も延期・凍結といった情報が飛び交う中では、トラブルになりにくい状況なのでしょう。

他方で欠陥者の例として先に挙げた3車種のうち、ローバーこそはブランドの統廃合や親会社の変遷等で消滅していますが、フォード・モーターと三菱自動車工業は現在も存続している会社となっています。

このような現在も会社・ブランドとして存続しているか否か、が大きなポイントのように私は考察しました。

まとめ

ここまでAMC・グレムリンとペーサーは本当に欠陥車なのかということを考え、書いてきました。

調べた情報とそれを基に考察すると「車としての大きく致命的な欠陥はないものの、現在もあるブランドか違うかという大人の事情による設定」という結論に行き着きます。
この考察を基にして考えると両車両ともにAMC社の切り札として送り出されたにも関わらず、その後の都合によって悪役デビューしてしまった可哀想な車とも言えなくもないです。

しかしどちらの車も比較的マイナーなアメ車扱いから『カーズ2』に出演したことで知名度は少し高まったのではないかとも思えます。

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