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【論文紹介①】フィリピン人のたまり場


たまり場について色々考える中で、以前読んだ資料が出てきたので紹介します。



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フィリピン人のたまり場
たまり場はクローズドな世界



フィリピン人のたまり場

たまり場から展望する多文化共生―フィリピン食料雑貨店サリサリストアの「長いす」を事例に」(早稲田大学人間総合研究センター 小林孝広 先生)


この方は、日本在住のフィリピン人が経営する、サリサリストア(フィリピン版コンビニ)について検討されているのですが、特に店内に配置している”長いす”に着目しています。


サリサリストアとは、食品や生活用品など、小さな区画に多くの商品を陳列している、いわばフィリピン版コンビニです。フィリピンでは、自宅でも気軽にオープンする事が出来るとあって、多くの方が経営しているようです。

※サリサリストアのイメージ
(写真はPhil Portal記載の佐藤英太さんの記事より。サリサリストアをもっと知りたい方はそちらもどうぞ)


サリサリストアの多くは、店先に食事をしたり飲酒をしたりするための”長いす”(場合によってはテーブル)が配置されているようです。本資料に出てくるサリサリストアもその例外ではなく、多くのフィリピン人がこの”長いす”を利用しているようです。


そして、この”長いす”という「たまり場」が地域の中でどのような役割を果たしているのか、ということを検討する研究です。


 この研究では、どのような人がどの時間に入って、何分ぐらい滞在して、退店するか、という調査を行っています。
 調査の結果、午前中から夕方にかけては、子連れのフィリピン人、夜は日本人(夫)とフィリピン人(妻)の夫婦、深夜は近所のフィリピン・パブからタレント(フィリピンパブの女性)と日本人男性グループが飲みに来る、というように時間帯によってたまり場の棲み分けがなされていることが報告されています。


またそれぞれの時間帯に合わせて、近々フィリピンに向かう友人に実家宛の荷物を託したり、就労ビザについての話といった生活に関する情報交換が為されていることもあれば、長らく市役所で外国人相談窓口として勤務していた日本人男性が公営住宅に入居する手続きについて無料で相談する様子もあったとあります。


こうした棲み分けの背景には、来日フィリピン人の生活リズムもさることながら、店主が「来日フィリピン人のため」に、日本人客を選んでいることも描かれています。



これらを踏まえ、本論では、サリサリストアにおける”長いす”は、来日フィリピン人女性にとってはなじみ深い、経済的な自立手段の一つとして機能しており、フィリピン人と日本人が交錯する緩やかなコミュニケーションの場となっている、と締めくくっています。




たまり場はクローズドな世界


こうした資料を読む上で強く思うのは、たまり場やコミュニティというのは、「自由に集まれる」とか「みんなのための」といった公共性に富んだ代物だと思われがちですが、やはり、一部の人たちのためにつくるべきだということ。



場所的な問題でいえば、コメダ珈琲が心地よいと思っている人もいれば、マクドナルドの方が落ち着く人もいます。そこに、一緒に集まる仲間の属性も絡んでくるので、万人ウケするたまり場を作り出す、というのは、実質難しいと思います。


 高校の同窓会に大学の友人を連れて行っても緊張するだけですもんね。


上記の資料も、店主が「来日フィリピン人のため」という超クローズドな世界をつくり出し、守っているからこそ、一部の熱狂的な来日フィリピン人の常連さんができ、サリサリストアが長く運営できている訳です。



たまり場をつくろうとする際には、特定のターゲットを絞り、その人たちのためだけに作ってあげることが、成功の秘訣かもしれません。


そういう意味で、たまり場という空間は世界共通なんだなあ、、と考えさせられる資料でした。興味のある方はぜひ。


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