【第515回】『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』(ローランド・エメリッヒ/2016)

 1996年の特大ヒット映画『インデペンデンス・デイ』の正統なる続編。20年前、ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンD.C.などアメリカ合衆国の主要都市を侵略・破壊したエイリアンたちは、当時のアメリカ合衆国大統領トーマス・J・ホイットモア大統領(ビル・ブルマン)、天才エンジニアのデイヴィッド・レヴィンソン(ジェフ・ゴールドブラム)、全滅させられた海兵隊航空部隊のただ一人の生き残りのパイロットであるスティーブン・ヒラー大尉(ウィル・スミス)、エリア51のブラキッシュ・オークン博士(ブレント・スパイナー)らの活躍により退治され、アメリカ合衆国に真の独立記念日を打ち立てた。あれから20年、映画はホイットモア元大統領の悪夢のような予知夢で幕を開ける。侵略する巨大な母艦、やがて一筋の閃光が母なる地球を襲う。俄かには信じられないことだが、地球はこの20年間は戦争のない時代として、歴史上前例のない国際協調体制が実現している。人類はあの悲劇を繰り返すまいと、96年の宇宙船の技術を元にして、巨大な防衛システムESDムーンベースの開発に成功した。アメリカ合衆国では初めての女性大統領ランフォード(セラ・ワード)が誕生し、平和な時代にも着々と対抗策を練っている。その大統領室に現れた1人の若い青年。大統領室前の壁に掲げられた英雄スティーブン・ヒラー大尉の肖像画。オリジナルで不死身なパイロットを演じたウィル・スミスは21世紀に入り、戦闘機のテスト飛行時に事故死している。

映画は冒頭、英雄スティーブン・ヒラー大尉の息子であるディラン・ヒラー(ジェシー・アッシャー)への伝説の継承によりスタートする。英雄の息子であるディランは、同じく英雄の娘であり、旧知の仲であるトーマス・J・ホイットモア元大統領の娘、パトリシア・ホイットモア(マイカ・モンロー)と熱い抱擁を交わす。もはや『スター・ウォーズ』ではなく、『ファミリー・ウォーズ』ではと揶揄された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』並みの一大叙事詩を構成する。一方その頃、ESDムーンベース内では、ジェイク・モリソン(リアム・ヘムズワース)と親友のチャーリー・ミラー(トラヴィス・トープ)が通常の任務をトチり、基地の運営を危険に晒す失態を犯してしまう。この猪突猛進で、上からの命令に屈しない男の姿は、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』におけるアナキン・スカイウォーカーにも見え、『スター・トレック』におけるジェームズ・T・カークとレナード・マッコイの関係を彷彿とさせる。そしてディランとジェイクの関係性も『スター・トレック』におけるジェームズ・T・カークとスポックの関係性を想起せずにはいられない。要は大ヒットしたSF映画から良いところだけをつまんだようなローランド・エメリッヒの作風はオリジナリティは希薄だが、ヒットの方程式には堂々と乗っかっている。ジェイク、ディラン、パトリシアの三角関係に、KYに割り込むチャーリーら若手のラインナップに対し、20年前地球を救った救世主たちが次から次に現れるのには、流石に同窓会的なカタルシスを禁じ得ない。特に『激突!』のようなからし色のスクール・バスで81歳のジュリアス・レヴィンソン(ジャド・ハーシュ)が逃げる様子には目頭が熱くなった。

96年のオリジナルではH・G・ウェルズのSF小説『宇宙戦争』を思いっきり意識しつつ、世紀末的意識=終末思想溢れる全世界的なヒットを獲得したが、生まれはドイツで、現在はアメリカに住むローランド・エメリッヒは明らかにアメリカの9.11以降の世界に配慮している。前作ではニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンD.C.を次々にぶっ壊し、ホワイトハウスさえも破壊する悪ノリを見せつけたエメリッヒも、今作で破壊するのはマレーシアのクアラルンプールにあるツインタワー、ドバイにあるブルジュ・ハリファ・タワー、イギリスはロンドンにあるビッグベンであり、そこにホワイトハウスはおろか、ワールド・トレード・センターや自由の女神さえも含まれない。これは『エンド・オブ・ホワイトハウス』の大ヒット後、舞台を早々に英国に移した『エンド・オブ・キングダム』同様に、事なかれ主義の謗りを免れない。しかも我々の住んでいるアジアの国土がエイリアンたちに引っぺがされ、ヨーロッパの上に落ちたという前代未聞な稚拙な設定らしいから恐れ入る 笑。このエメリッヒの配慮はアメリカ人のどういう心情を慮ってのものなのか?人種・宗教・国家に関わらず連帯しましょうというメッセージはクライマックスに僅かに流れるものの、その方向性としては明らかにアメリカ一国の連帯しか認めていない(僅かに出資者の中国人は顔を出すが・・・)。DCコミックスやマーベル製ヒーローたちが広く世界に連帯を求める中、ランフォード女性大統領が就任しているものの、今作のような傷ついたアメリカの内向き現象が、愛国主義やナショナリズムを闊達に想起させる。前作は冷戦後、アメリカの一強体制を背景として大ヒットを記録したが、その20年後の続編である今作は、皮肉にも右傾化し、急速に保守化の進む現代のアメリカを投影している。

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