【第555回】『ゴーストバスターズ』(アイヴァン・ライトマン/1984)

 ニューヨーク市立図書館。司書の女性が書庫に本を片付けに行ったところ、突如図書館の本が勝手に移動を始める。女は気配に気付き振り返るが、何もない。机の引き出しが勝手に開き、図書カードが次々に散乱したところで司書は異変に気付き、絶叫する。図書館の狭い路地を逃げ惑う司書の姿。公共の施設ではあり得ない怪奇現象に館長(ジョン・ロスマン)は顔を曇らせる。一方その頃、コロンビア大学の超常現象研究室では、ピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)がカードを使って霊視の授業を始めていた。バイトで雇われた助手の男は3問連続不正解で、電気ショックに怯えている。そんな矢先、レイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)に図書館での怪奇現象を聞かされたピーターは相棒のスタンツとイゴン・スペングラー博士(ハロルド・ライミス)を伴い、一路図書館へと向かう。うだつのあがらない3人は研究費を削られ、貧困に喘ぐ中、ゴースト退治ビジネスに目をつける。廃屋のような高消防署跡地、金はないが夢と希望を持て余した三十路の3人の男たちは、幽霊退治を行う会社を「ゴーストバスターズ」と名付ける。

80年代に特大ヒットを記録した『ゴーストバスターズ』シリーズの記念すべき第1作。前作『パラダイス・アーミー』から引き続き、アイヴァン・ライトマン作品に出演したビル・マーレイ、ハロルド・ライミスの活躍はもちろん、ダン・エイクロイドとの息の合った掛け合いが今見ても素晴らしい。アイヴァン・ライトマンの演出は簡単なCGに逃げず、ロマンティック・コメディを基調とした人間ドラマの部分にかなりの時間を割いている。そのシナリオは明らかに定石通りだが、ビル・マーレイを始めとする演者たちのアドリブ芝居が縦横無尽な化学反応を引き起こす。女ったらしでやる気のないビル・マーレイ、ネジの外れた発言を連発するダン・エイクロイド。ただ一人まともな人間に見えたハロルド・ライミスと「ゴーストバスターズ」の秘書役となるジャニーン・メルニッツ(アニー・ポッツ)とのくだけたやりとり。ゴーストを退治するシリアスな物語ながら、ライトマンはあくまでホラー映画ではなく、肩肘の張らないライト・コメディとして物語を丁寧に紡いでいる。キャデラック製1959年型救急車を改造したECTO-1、お揃いのつなぎを着た4人のシュールな構図、レイ・パーカーJr.の軽快な音楽にはアメリカ映画がまだ無邪気だった時代を思い起こさせる。ローテク一辺倒だったこの時代のCG技術は稚拙だからこその味わいを持っている。

3人の男たちの夢に、人手不足で新たに雇われた黒人ウィンストン・ゼドモア(アーニー・ハドソン)。まるで往年の探偵映画のようなジャニーンとビル・マーレイとのちょっとしたやりとりも素晴らしいが、要所に配したコメディアンとしての気質を備えた役者たちの見せ場のオンパレードが素晴らしい。その中でも特に素晴らしいのはウディ・アレンのモノマネでも一斉を風靡したルイス・タリー(リック・モラニス)の軽快なアドリブ演技だろう。小柄な体格に黒縁メガネ、ヒロインにアプローチするために部屋を出て来たルイスがオートロックに引っかかり、部屋に帰れなくなるくだりはライトマン×モラニス・コンビの面目躍如となる。途中、破壊の神ゴーザと雌の「門の神ズール」と雄の「鍵の神ビンツ」のくだりはやや説明的で物語の枷にもなるが、小憎たらしい環境保護局局長のウォルター・ペック(ウィリアム・アザートン)との図式的なやりとり、それを打開するビル・マーレイの起死回生の解決策など肩肘張らずに見れる。クライマックス、水平さんの格好をしたマシュマロ・マンが現れる場面には当時心底びっくりしたが、残酷な悪魔をファンタジーにコーティングしようとするアイヴァン・ライトマンのシュールな絵が素晴らしい。結果、今作は1984年北米興行収入第1位のメガ・ヒットとなる。

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