【第314回】『スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒』(J・J・エイブラムス/2015)

ネタバレ注意

これから観る人は読まないでください。



 『スター・ウォーズ』を9本に及ぶ大河ドラマの長い歴史だと仮定した時、旧3部作の熱狂とは裏腹に、新3部作の低調さを憂う声は世界中至る所で聞こえた。ジャー・ジャー・ビンクスへの違和感を筆頭に、新3部作7時間弱に及ぶ物語が、アナキン・スカイウォーカーが暗黒面に落ちるバッド・エンドまでを克明に記録したに過ぎず、ヒーローものの裏側としては何とも言いようのない後味の悪さを感じさせたのは言うまでもない。そのジョージ・ルーカスの過剰な愛ゆえの失敗を踏まえ、J・J・エイブラムスはあえて新3部作に触れようとはしない。ここにあるのは旧3部作との緊密さであり、30年経とうが同じ構造の物語へ変奏することに力を注いでいる。冒頭の場面、ポーがルークの居所の書かれた地図を回収するためにある村へ降り立つが、そこには既にファーストオーダー(旧帝国軍の新しい名前)が追っ手として現れ、村は焼き払われ、村人たちは皆殺しに遭う。ポーはその寸前でBB-8というドロイドにその地図を託す。これは『エピソード4/新たなる希望』の冒頭で見られたC-3POとR2-D2による姫が誘拐された情報を持っての彷徨行為の変奏である。R2-D2はそこから幾人かの人間の手を仲介し、無事ルークの手に渡ったが、今回は同じく砂漠を彷徨いながらすぐにレイの元に辿り着く。

それだけではない。途中ファーストオーダーの追っ手に執拗に追いかけられたレイとフィンは、そこに捨てられていた古い母艦に乗り、追っ手から逃げる。その船があの銀河系最強のガラクタと呼ばれたミレニアム・ファルコン号なのである。そして追っ手から逃れ、星を彷徨ううちに動力を奪われ、何者かのベースの中へと強制的に押し込められる。そこにいるのはこの船の元の持ち主だったハン・ソロとチューバッカである。旧3部作においては金銭と恋により、ジェダイの末裔たちと運命を共にした彼らが、ここでは最初はレイとフィンを追い出しにかかるが、やむを得ぬ理由から彼ら2人が逃げるのを助けることになる。30年経過しようが、ミレニアム・ファルコン号での移動が綱渡りなのも相変わらずで、光速になり時空を抜けるリスクや一か八かの危ない賭けをするのである。そしてクライマックスにはファーストオーダーの母艦のシールドを破壊し、そこに楔となるトドメの一発を打ち込もうという作戦を決行する。そのどれもが既知の光景でありながら、『スター・ウォーズ』シリーズにしかなし得ない王道の展開を誇るのである。またフィンとポーの友情はかつてのハン・ソロとルークの友情とも重なり、『スター・トレック』シリーズのカークとレナード・マッコイにも受け継がれている。他にも『新たなる希望』や『ジェダイの帰還』に登場したクリーチャー楽団や辺り一面砂地が広がる砂漠の町など、旧3部作との符号はそこかしこに転がっている。

上映直前まで新キャラクターと旧キャラクター陣との相関関係について色々と予想が繰り広げられたが、私としては主人公のレイはレイア姫とハン・ソロの子供だと信じて疑わなかったため、まさかの展開には心底やられた。そして伝えられた悲劇の物語がルーク、ハン・ソロ&レイア夫妻、そしてその一人息子に降りかかり、愛憎入り混じった大河ドラマの裏で筋の通ったシリアスな物語を作り上げる。今回の物語は単体で観ても見応えがあるが、やはりこれまでの旧3部作を一通り観ている方がより深い感慨に浸ることが出来るはずだ。特にハン・ソロとレイア姫の再会の場面は映画の中だけでなく、実際に1977年から四半世紀の時を経て、観客と俳優とを残酷なまでに当時の思い出に浸らせる。2人の再会は心底ハッピーなものでありながら、それを受け止める2人の表情は決して喜ばしいものではない。そのことが象徴する暗い影が実際に現実のものとなった時、我々は受け止められないような厳しい現実を受け止めるしかない。『スター・ウォーズ』シリーズでは敗者は決まって奈落の底へと落ちてゆく。その落下がここではフィンの身に起きなかっただけでも良しとしなければいけないのかもしれない。

中盤の艦隊内にエイリアンが侵入する場面や、レイが地下室に紛れ込んで偶然宝箱からライトセーバーを見つける場面など、丁寧に描きすぎたせいでこれはどうなんだろうと思う場面も少なからずあったものの、これまでなら元老院の議会の場面だった群衆の場面に、ナチスの集会のような異様さを持ち込んだJ・J・エイブラムスのアイデアはすこぶる良い。2015年のVFXの進化の髄を駆使した飛行船の攻撃の場面など、特に後半のVFXと音響効果には目を見張るものがある。BB-8に主役を譲った感もあるドロイドたちの力関係だが、C-3POとR2-D2もしっかりとアイデンティティを主張しているし、更にBB-8との触れ合いもあり目が離せない。またJ・J・エイブラムスはレジスタンスが静かに結束していく様子など群衆シーンの描き方が『スター・トレック』シリーズ同様に大変巧い。それぞれの言い分に見せ場を持たせ、レイア将軍以下組織としての在り方をベースに、パイロット一人一人に至るまで粗雑に扱うことがない。決してレイ一人の手柄ではなく。それぞれの持ち場で頑張った結果が今回の勝利なんだと丁寧な描写で説得する。その辺りの妙味を十分に堪能させてもらった。2009年の『スター・トレック』ではまだまだフレームのサイズがテレビドラマ特有のクローズ・アップだらけだったJ・J・エイブラムスとダン・ミンデルの関係性も、随分と効果的なロング・ショットが散りばめられるようになった。

さてエピソード8の展望だが、クライマックスで出て来た「あの男」とレイの関係性は大きな焦点となるだろうし、あの男とレイア将軍の再会の場面も見逃せない。何よりR2-D2があの男の到着を今か今かと待ちわびているのである。また奈落の底に突き落とされることはなかったものの、ライトセーバーで傷ついたフィンの生存が果たしてどうなっているのかなど興味深い話は尽きない。またマズ・カナタの「武器を持ってるじゃないか?」の言葉の真意や、どうしてフィンがフォースを扱うことが出来たのかなど回収されていない伏線は無数に転がっている。今回、アダム・ドライバー扮するカイロ・レンの独特の善人気質というか、悪に染まりきれていない感じをJ・J・エイブラムスはあえて未整理のままデジタルに焼き付けていたが、彼の悪役としての烈しさがどこまで身につくのかも楽しみで仕方ない。ハン・ソロの勇姿をもう観ることは叶わないのだと思うと残念だが、伝統あるシリーズをしっかりと新しいものに昇華し、継承しようとするJ・J・エイブラムスの『スター・ウォーズ』への愛情を確かに感じる136分間であった。

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