【第311回】『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(ジョージ・ルーカス/1977)

 かつては平和が保たれていた銀河系も、今では共和国が崩壊し、それにかわって出現した銀河帝国が独裁体制をしき圧政によって銀河系全宇宙を制圧しようとしていた。この帝国独裁に抵抗する少数の人々はアルデラーン惑星のレイア・オーガナ姫(キャリー・フィッシャー)を中心に惑星ヤービンに秘密基地を築いて、帝国打倒を秘かに計画していた。一方、帝国側も最新兵器『死の星(デス・スター)』を建造して反逆者たちの抹殺を計っていた。レイア姫が帝国の親衛隊長ダース・ベイダー(デイヴィッド・プラウズ)率いる宇宙巡航艦にとらえられたのは、『死の星(デス・スター)』の構造機密を盗んで逃げる途中のことだった。抵抗する反乱軍が鎮圧されたとき、1組のロボットC-3PO(アンソニー・ダニエルス)とR2-D2(ケニー・ベイカー)の乗った球型脱出機が巡航艦から飛び出し、砂漠の小惑星タトゥーインに着陸する。

記念すべきシリーズ1作目にして、全9部のトリロジーの4本目。公開は新3部作よりも前になったが、ジョージ・ルーカスは今作を撮った時から既に9本の壮大な構想を練っていたという。新3部作では、クワイやオビ=ワンに見出された若きアナキンが、ジェダイ・マスターになるという壮大な予言から始まったが、最後の最後に暗黒面に落ち、ジェダイは皆殺しにされ、オビ=ワンとマスター・ヨーダはしばし地下へと潜る。『シスの復讐』において、アナキンの妻であるアミダラは双子を身籠り、共和国崩壊の最中に生んだ子供が、この旧3部作の主人公となる。『ファントム・メナス』が若き日のアナキンの成長譚だとしたら、今作は若きルークの成長譚そのものである。

抵抗する反乱軍が鎮圧されたとき、1組のロボットC-3PO(アンソニー・ダニエルス)とR2-D2(ケニー・ベイカー)の乗った球型脱出機が、どさ草紛れに巡航艦から飛び出し、砂漠の小惑星タトゥーインに着陸する。しかし、さまよっているところをジャワ族につかまり、セリ市で売られることになる。このセリ市でロボットたちを買った若い農夫ルーク(マーク・ハミル)は、偶然R2-D2の映像伝達回路に収められたレーア姫の救いを求めるメッセージを発見し、心を動かされる。他に救助の手を求めるべくルークの許を去ったR2-D2を追ったC-3POとルークは、砂漠の蛮族タスケン・レイダーズに襲われたところをベン・ケノービ(アレックス・ギネス)と名のる老人に助けられる。彼こそ、共和国のジェダィ騎士団の生き残りで、レーア姫がメッセージの中で助けを求めた勇士オビ=ワンだった。

こういう壮大な英雄物語では、しばしば歴史は繰り返されていく。前作『シスの復讐』において、ラストにアミダラが生んだ2人の子供は、互いを知らないまま別々に育てられるが、何の因果か奇跡のような出会いに導かれていく。この時点でルークも我々観客も、その血族の因縁など知る由も無いし、当初はオビ=ワンさえもルークをジェダイの使徒にしようとは考えていなかったはずである。最後に「MAY THE FORCE BE WITH YOU」という言葉を残し、別れたかつての教え子と最後に一戦を交えたきり、オビ=ワンは世捨て人としての生活を送っている。ルークとその両親の彼は変人だからという言葉にも明らかなように、捲土重来のチャンスを伺っていた男にまたとないチャンスがやって来るのである。

とはいえ、ルークがジェダイを目指すことになるまでの過程の描写はあまりにも性急で粗雑である。レイアのメッセージを受けて、オビ=ワンは彼女の故郷の惑星オルデランへの旅へルークを誘うが、ルークは叔父が許してくれないと断り、ベン(オビ=ワン)をアンカーヘッドの街まで送ろうとする。その途中、ルークらはドロイドを売ったジャワ達が帝国軍に襲撃された現場を見てラーズ家の危機を察知し農場へ駆け戻るが、時既に遅く、オーウェンとベルーは帝国軍に無残に殺害され、農場は焼き払われていた。『ファントム・メナス』におけるアナキンは、奴隷として実の母親と共にこき使われていたが、今作では両親不在のルークは親代わりであるアナキンの母親の親族に引き取られている。タトゥーインの街では地道に農業をやるしか生計を立てる道はなく、ルークもその状況に不満があるにせよ、親代わりの両親に逆らうつもりもない。そんな平安の日々を帝国軍の攻撃がぶち壊す。この場面は明らかにジョン・フォードの『捜索者』にオマージュを捧げている。

旧3部作でルークの仲間となるのはオビ=ワンとC-3POとR2-D2だけではない。宇宙船調達のため、タトゥーイン惑星の宇宙空港のある街モス・イーズリーで密輸船長ハン・ソロ(ハリソン・フォード)とその右腕チューバッカ(ピーター・メイヒュー)に会い、彼らの乗る宇宙船ミレニアム・ファルコン号を買い取るが、その時ロボットたちを追跡してきた帝国側の襲撃にあう。ファルコン号に乗りこみ、タトゥーインを緊急脱出するが、追手からのがれるために別の空間にジャンプした時に、帝国の属領総督グランド・モフ・ターキン(ピーター・カッシング)が『死の星(デス・スター)』の偉大さを示すために破壊した惑星の残骸のただ中へと飛び込む。

クライマックスにはオビ=ワンとダース・ベイダーと成り果てたアナキン・スカイウォーカーとの因縁の再会が待ち構えている。ダース・ベイダーはかつてジェダイの騎士時代の名残りで、フォースを持つ男がいま自分の元へ急接近していることを感じ取るのである。髪も白髪になり、すっかり老いぼれたオビ=ワンは無謀にも、たった一人でダースベイダー討伐へと向かう。

ルークたちもファルコン号の二重床を使ってストーム・トルーパーの装甲服を奪って変装し、管制室へ逃れる。R2にデス・スターのコンピュ-ターから情報を引き出させ、トラクター・ビームは複数の電源のうち1つを切るだけで停止することを知ると、オビ=ワンは一人で電源を切りに向かった。その後、R2の解析によりレイアがここに監禁されている事が分かり、ルークはソロとチューバッカを説得し救出に向かう。帝国軍の猛追を受けながらも三人はレイアの救出に成功、ファルコン号へと急ぐ。ここでのストーム・トルーパーへの変装のアイデアがまさに牧歌的で70年代そのもだと言えるだろう。マスクを被れば敵か味方かわからないという安直なオチを用いながら、ルークたちはしたたかに振る舞う。途中、焼却炉に投げ込まれた時の絶体絶命の場面も、VFXに頼ることが出来なかった70年代の方法論であろう。タコの足に絡まれたルークが、何度も水に引っ張られる場面のSFとは思えない演出がすこぶる良い。結局、宇宙船を降りれば、人間と人間とのアナログな活劇でしかないということを逆手に取り、ジョージ・ルーカスは素晴らしいアイデアで物語を押し進めるのである。

『スター・ウォーズ』シリーズにかつてあって、今は失われたものがあるとしたら、この人物の動きのアナログな活劇的魅力に他ならない。ストーム・トルーパーも人間も、宇宙船を降りればただの人間同士の戦いに終始する。あくまで「特撮」と「VFX」は別物であり、水と油だということを声高に叫ぶ今作のSFとしての魅力は永遠に色褪せることはない。砂漠の上を2台のロボットが歩くということが、インターネットもない時代の僕らにとってどれだけ衝撃的だったかは、当時を体験していない世代にもきっと想像出来る。クライマックスのまったく空間把握の出来ていないSF描写も、この時代の手探りな状況の証明となる。私にとって永遠に色褪せない不滅の名作なのである。

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