【第337回】『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(スティーヴン・スピルバーグ/1997)

 前作の悲劇から15年が経過。インジェン社の会長ハモンド(リチャード・アッテンボロー)に呼び出されたイアン(ジェフ・ゴールドブラム)は、ある秘密を打ち明ける。それは「サイトA」である「ジュラシック・パーク」に恐竜たちを供給する遺伝子工場の「サイトB」がイスナ・ソルナ島に置かれていたというのだ。閉鎖され、放置された島では人知れず恐竜たちが生き延びて繁殖しているという。ハモンドはマルカムに島の調査を依頼され、ビデオ・ドキュメンタリー作家のニック(ヴィンス・ヴォーン)、フィールド用装備の専門家エディ(リチャード・シフ)と共に現地に向かったが、イアンの娘ケリー(ヴァネッサ・リー・チェスター)もトレーラーに潜り込んでいた。

スピルバーグの続編を引き受ける基準が今ひとつわからない『ジュラシック・パーク』のシリーズ第2弾。前作は『シンドラーのリスト』の監督を是が非でもやりたかったスピルバーグに、ユニバーサルが『ジュラシック・パーク』との抱き合わせを条件に承諾。渋々応じたスピルバーグだったが、前作は図らずも歴代興行収入の第一位に躍り出るヒットとなった。『インディ・ジョーンズ』シリーズは4本を撮っており、かつてルーカスはスピルバーグと5本契約を結んでいたことを認めている。それとは対照的に『ジョーズ2』の企画は話を聞いて即断っている。今作も続編化にあまりのびしろはないように思うのだが、スピルバーグはそれなりの娯楽大作に仕上げている。

前作におけるサム・ニールとローラ・ダーンの主役格2人が共に降板し、ハモンド会長とその孫の出番もほんのわずかである。今作において前作のハモンドの立場(企業の論理側)につくのは、ハモンドの甥で、今やインジェン社の社長となったルドロー(アーリス・ハワード)である。彼はかつての痛ましい大事故の記憶を消し去り、恐竜ビジネスを再興しようと目論んでいる。それに待ったをかける主人公は前作においては端役だったイアン・マルコム博士ことジェフ・ゴールドブラムである。前作で恐竜に致命傷となるような重傷を負わされ、恐怖心を抱くイアンは最初ハモンド会長の提案を断るが、既にサイトBにはイアンの恋人で古生物学者のサラ(ジュリアン・ムーア)が入っていると聞いて、彼の依頼を受ける。

前作では子供嫌いの主人公が最終的に子供達を救い出し、恋人との愛情を育む疑似家族の物語だったが、今作において、イアン博士とその娘ケリーの仲はあまり良くない。彼はサラとの関係性の中にケリーが入るのを嫌い、最初は島の外で留守番するよう命じるが、どういうわけかトレーラーに隠れ、イアンと共に島へと上陸する。このヴァネッサ・リー・チェスターという子役は黒人であり、おそらくイアンの妻も黒人だと推測出来るが、映画の中では離婚に関しての描写はまったく出て来ない。イアンも『フック』同様に家庭を顧みない仕事人間のようで、おそらく新しく出来た恋人と実の娘とのギクシャクした関係性を取り持とうとしているようだが、肝心の物語においてその辺りの家族の描写があまりはっきりしない。

島に上陸したイアンたちは調査を始めるが、そこに一歩遅れて別働隊のヘリコプターが到着する。ハモンド会長に依頼されたイアン一行の他に、ルドロー社長もサイトBの調査を別件で依頼しているのである。ルドロー一行は島に降り立つと、ハンターのテンボ(ピート・ポスルスウェイト)を先頭に次々と恐竜たちを狩り、捕獲していく。テンボはティラノサウルスの巣を見つけると、赤ん坊を連れ出して親をおびき出す囮にした。その夜、ニックたちはルドローのキャンプに忍び込むと恐竜たちを檻から解き放つ。怒り狂い、暴れまわる恐竜たちに、キャンプはパニックとなって壊滅。サラとニックは傷ついた子供のティラノサウルスをトレーラーに運び込んで治療したが、怒り狂った母親がトレーラーを襲う。ここでの恐竜に対する扱い方の明白な違いは彼らの行動に亀裂を生じさせるものであり、またどうしてイアンはまず最初にルドロー一行に挨拶をしないのか少し理解に苦しむ。このシナリオ上のミスは続く場面にも至る所で現れる。トレーラーが崖から宙吊りになり、エディがロープを木とトレーラーにくくりつけて必死に救出するのだが、子供を誘拐され怒ったティラノサウルスに食われてしまう。ここでイアン一行は母親に既に子供のティラノサウルスを返しているのにもかかわらずである。ここでの崖から落ちようとしているトレーラーの描写は、別に恐竜がいるテーマパーク内でなくても出来る活劇なのである。タイトルに『ジュラシック・パーク』と恐竜を大々的に謳いながら、恐竜が介在しない活劇をやってしまっているのは作劇上の根本的なミスであろう。

結局イアンたちは仕方なく、島の本部地区の通信センターを目指すハンターたちと行動を共にする。ここでのテンボ(ピート・ポスルスウェイト)のキャラクター造形は、まるっきり『ジョーズ』のサム・クイントであり、ジョン・ヒューストンの『白鯨』のグレゴリー・ペックである。常人離れした経験を誇りながら、寡黙でどこかミステリアスな老人をピート・ポスルスウェイトは嬉々として演じている。導入部と同じように、途中、ハンターの一員ディーター(ピーター・ストーメア)が小さいが凶暴なコンプソグナトスの犠牲になる場面はB級ホラーの雰囲気そのものである。その夜、川辺の暗闇の静寂の中をティラノサウルスが襲撃してくる。ここでもスピルバーグの映画では、モンスターは一つ窓を挟んだすぐ側にいる。車のミラー越しに、テントの薄い布地の先に、あるいは後方の窓の外側に恐竜はいる。そこから逃れたハンターたちも、草原を横切る際に敏捷なヴェロキラプトルの餌食となった。本部センターにたどり着いたイアンらは無線を復活させ、救援を要請。何とか脱出に成功したかに見えた。

前作同様、クライマックスは『エイリアン2』や『ターミネイター2』以降の活劇の在り方をスピルバーグとインダストリアル・ライト&マジックは模索している。そもそも恐竜がアメリカ郊外に出現したらこうなるしかないのだというスピルバーグの良く言えば開き直り、悪く言えば諦めが滲み、『ゴジラ』でも『エイリアン2』でも登場しそうな凡庸な光景へと帰結するクライマックスは、スピルバーグにしてはあまり能がない。前作においては地球上に存在し得ない産物を生み出した想像主は処刑されなかったものの、今作では倫理観や安全面を度外視し、金儲けに走る社長には悲劇が待っており、TVモニターの向こうでは幾つかの詭弁が論じられるもののどこか釈然としない印象が残る。そもそもイアンとサラの恋の行方とか、サラとケリーの関係性が彼らが一列にソファーに座る様子に集約されるとしたらあまりにも欲が無さすぎる。ハワード・ホークスの『ハタリ!』を意識したのは明らかだが、やはりスピルバーグにとっては『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』同様、2作目のジンクスとの相性が悪かったようである。

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