【第671回】『宇宙からのメッセージ』(深作欣二/1978)

 銀河系の遥か彼方にある惑星ジルーシア、太陽系から二百万光年の彼方にある平和な星であったが、今は宇宙の侵略者ガバナス人の要塞と化し、ジルーシア人は壊滅の危機に曝されていた。長老キド(織本順吉)はジルーシア人の絶滅の危機を救うべく、孫娘のエメラリーダ(志穂美悦子)に、奇蹟の願いをこめた8つのリアべの実を太陽系連邦へ向けて放ち、救世主となる8人の勇者を連れて帰るように命じた。エメラリーダのお供には用心棒ウロッコ(佐藤允)が付き、2人は早速リアべの実を持つ8人の勇者を探す旅に出る。その動きを察知したガバナス帝国の12代皇帝ロクセイア(成田三樹夫)は、彼女を殺害するために追撃の宇宙戦艦を発進させる。リアベの実は、銀河系の地球連邦の植民惑星ミラゼリアで、軍に失望して辞職した元将軍のゼネラル・ガルダ(ヴィック・モロー)、宇宙暴走族の若者シロー(真田広之)とアロン(フィリップ・カズノフ)、関西弁を話すチンピラのジャック(岡部正純)、富豪令嬢のメイア(ペギー・リー・ブレナン)の5名の元に届く。 だが彼らはメイアには内緒で、他の勇者を紹介すると嘘をつき、息子の嫁探しをしていた老婆にエメラリーダを売ってしまう。

 本国アメリカでのスティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』の記録的ヒットを受けて製作されたスペース・オペラ作品。忘れもしない1977年の夏、本国アメリカでは『スター・ウォーズ』というSF超大作が流行っていると知り、私のように期待に胸を膨らませたキッズは多かったはずだ。当時は配給との兼ね合いもあり、どんな大ヒット作も全米公開から1年後に封切られることはザラだった。1978年の夏に『スター・ウォーズ』が直輸入されるという噂を聞きつけた和製ロジャー・コーマンこと東映の岡田社長は、それより少し前に今作を封切り、便乗してヒットさせようと『仁義なき戦い』シリーズや『県警対組織暴力』、『ドーベルマン刑事』の深作欣二に白羽の矢を立てる。当の深作もノリノリで監督を引き受けたのが今作である。ヒロインが全国各地に拡がった8つの実を持つ8人の勇者を探す旅は、江戸時代に滝沢馬琴によって作られた大河ドラマ『南総里見八犬伝』の影響が色濃い。ガバナス帝国の攻撃により、気絶したエメラリーダとウロッコはこのリアベの実を持つ4名の若者に救い出される。「宇宙暴走族」と称される彼らは当初、戦の最前線に立つことを拒否する。そこには戦争の苦味を抱えながら生きる闇市世代であるシローとアロン、関西弁が堪能なジャックと、戦争の英雄の娘として育ったお嬢様であるメイアとの階級差を浮き彫りにする。

 とはいえ、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』に比べれば僅かな制作費で作られた今作は矢島信男の主にミニチュアやシュノーケル・カメラの使用など、職人的特撮技術には長けていたが、いかにも東映太秦的なセットの中で、眼力の強い昭和の役者たちが大挙集結した宇宙版『仁義なき戦い』の匂いが強い。ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』では軽快だったマーク・ハミルやハリソン・フォードの英語がここではヤクザ映画的、もっと言えば東映京都の時代劇的な重厚な節回しに変貌し、SF作品として見れば違和感は拭えない。中でも異端中の異端となるのは、ガバナス帝国の12代皇帝ロクセイアを演じた成田三樹夫の白塗りの怪演に尽きる。素顔のわからない能面のようないびつなマスクを被理、ダース・ベイダーになるはずだった男は随分あっさりと素顔を晒し、透視したカメササ(三谷昇)の原風景から、いきなり太陽系第三惑星である地球に恋する。若者たちの馬鹿騒ぎの列に最後に加わることになったガバナス帝国の正当な皇位継承者であるハンス王子(千葉真一)のあまりにも堂々とした時代劇風の節回し。クライマックスの成田三樹夫と千葉真一のライトセーバーならぬ剣戟を駆使した戦いなど見所も多い。ただ闇雲に騒いでいるだけにしか見えない真田広之の初々しさもある。R2-D2ならぬベバ2号も微笑ましい。深作は当初、ウロッコ役に室田日出男、ジャック役には川谷拓三をキャスティングしていたが、とある都合で佐藤允と岡部征純がその代役として参加した。今思えば室田と川谷の仁義なきスターウォーズが観たかった気もする『スター・ウォーズ』になれなかった珍品中の珍品が今作である。

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