【第556回】『ゴーストバスターズ2』(アイヴァン・ライトマン/1989)

 マシュマロ・マンがニューヨークの街を闊歩したあの事件からちょうど5年、89年のクリスマス・シーズンの大都市ニューヨーク。ディナ・バレット(シガニー・ウィーバー)はベビー・カーを押しながら、寒い街をコートにブーツ姿で歩いていた。アパルトマンの前の段差のある階段、ディナは買い物袋を持つようにマンションの管理人に頼むが、赤ん坊から少し目を離した隙に、ベビーカーは勢いよく走り出す。そのスピードはあまりにも速く、走っても追いつかない。やがて車道に飛び出したベビーカー、自動車の急ブレーキの音。ディナはこの事件の顛末を最新理論研究所にいるイゴン・スペングラー博士(ハロルド・ライミス)に相談する。5年前、破壊神からニューヨークの街を守り、救世主となった「ゴーストバスターズ」の4人だったが、市と州から破壊した街の弁償金を払わされ、あえなく「ゴーストバスターズ」社は倒産していた。その後、レイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)はオカルト・ブックスの店長、ウィンストン・ゼドモア(アーニー・ハドソン)はバスターズに扮し、慰問活動を続けながら糊口を凌いでいた。「ゴーストバスターズ」のリーダーだったピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)は「ピーターの超能力アワー」という番組の司会者になっているが、視聴率は一向に振るわない。

84年に北米No.1ヒットを記録した『ゴーストバスターズ』の続編。5年前、「ゴーストバスターズ」としてニューヨークの危機を救った彼らだったが、既に会社を畳みそれぞれに仕事をしている。だがディナの子供さらいの調査依頼が元で、再び結集する。前作で最後に結ばれたはずのピーターとディナはその後、あっさりと破局。ディナは別の夫との間に子供を身籠るが既に離婚している。今作はピーターとディナの再会の物語となる。気まずさからピーターとの接触を避けていたディナに、無理矢理詰め寄るピーターが可笑しい。ディナの傍らには8ヶ月になる赤ん坊がいるが、ピーターは幽霊のことはわかっても赤ん坊のことなどまるでわからない。最初はぎこちない赤の他人だったピーターが、徐々に父親の表情になっていくのが不思議だ。今作は父親を必要とするディナと、一貫して父親になれなかった男ピーターの疑似夫婦の物語に他ならない。それと共に前作でディナにアプローチするが成功せず、最後には皮肉にも幽霊に憑依されたルイス・タリー(リック・モラニス)が被害者から一転、顧問弁護士として登場し、奥手だった彼にも奇跡のような恋が訪れる。「ゴーストバスターズ」の受付嬢ジャニーン・メルニッツ(アニー・ポッツ)との大人のロマンスは、ソフィスティケイテッド・コメディを得意とするアイヴァン・ライトマンの軽快な筆致に溢れている。

前作でも全開だったアドリブ芝居は夜の道路、裁判所、牢獄にてまたしても繰り広げられる。前作の設定からほとんどキャラクターを加えていない登場人物たちのミニマルなやりとり。要所に配したコメディアンたちが抜群の存在感を見せる。事件は50年前に廃線となったニューヨーク地下トンネルに流れるピンク色のスライムの川を発端にして、ディナの勤める美術館に置かれた16世紀に魔術師で狂人と恐れられたヴィーゴ大公の肖像画が元凶だとわかるが、時既に遅しでディナの赤ん坊がヴィーゴ大公の妖力の餌食となる。前作では本来残酷なはずの場面で登場したマシュマロ・マンの牧歌的な姿が最大のインパクトを放ったが、今作では美術館の周りを覆ったピンク色のスライムが異彩を放つ。悪の力を上回る善の力がなければ妖力には勝てないと一度は諦めたピーターだったが、ニューヨークの象徴「自由の女神」がニューヨークの街を闊歩する荒唐無稽な展開は、子供向け映画とはいえあまりにも馬鹿馬鹿しい。アイヴァン・ライトマンは決定的にアクションが撮れない監督ながら、ニューヨークの街を派手にデフォルメすることに余念がない。一貫して父親になれなかったピーターが最後は妖術の罠からディナと子供を救い出すという勧善懲悪な物語ながら、前作ほどのヒットとはならなかった。続編が作られるのは実に27年後のことになる。

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