【第307回】『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(J・J・エイブラムス/2013)

 西暦2259年(前作の1年後)、ジェームズ・T・カーク率いるU.S.S.エンタープライズが、ある惑星の未開種族を火山爆発による危機から救う。その際、火山噴火を抑える為に絶体絶命の状況に陥ったスポックを救助するためとはいえエンタープライズを現地人に目撃されることになり、探査という本来の目的から逸脱して最優先の指令である「艦隊の誓い」に違反したとしてカークは降格処分になり、船長に戻ったクリストファー・パイクから副官に指名される。前作で死んだかに見えたパイク船長が元職に戻り、カークとスポックは別の部署に配属されたかに見えたが、新たな危機が2人を待ち構えている。

『スター・トレック』シリーズ通算12作目にして、J・J・エイブラムスが手掛けた新シリーズ2作目。ロンドンで起きたテロ事件の犯人、ジョン・ハリソン中佐の追跡を協議するため、ちょうど地球付近にいた主だった士官たちがサンフランシスコの艦隊本部に召集されるが、そこもハリソンに襲われ、パイクがあっさりと犠牲になる。自分の父親代わりのパイクを失ったカークと、上官を殺され復讐に燃えるスポックは、クリンゴン帝国の本星クロノスに逃げ込んだハリソンを追う。

前作の主要キャストはここでもほぼ全員総登場している。しかもスコッティが辺境の惑星で別れたはずの宇宙人も晴れてエンタープライズ号の乗員となっている。新しく登場したキャラクターとしては、アリス・イヴ扮するキャロル・マーカスと、その父親であり、連邦軍の提督をしているアレクサンダー・マーカスであろう。アレクサンダー・マーカスに扮するのは、懐かしの初代ロボコップのピーター・ウェラーである。この曲者俳優が連邦軍の提督という時点で、何かあると思うが、J・J・エイブラムスは実際にその通りの方向に導く。

だが前半部分の敵味方が二転三転する物語は、極めて不安定であまり抑揚もない。導入部分の火山の救出のエピソードも、カークとスポックの絆を見せるために用意した荘厳なシークエンスだったが、あそこはそっくりそのままカットでもいい。要はジョン・ハリソンが登場するまでが無駄に長いのだ。娘の不治の病を不憫に思った連邦軍の軍人が、彼女の命と引き換えに、ロンドンの本部を爆破する場面もまったくの蛇足である。何よりもジョン・ハリソンの正体であるカーンと、カークとスポックをまず何よりも引き合わせるべきだし、『スタートレックII カーンの逆襲』という既成事実がある以上、古いファンも新しいファンもカーンの介入にこそ興味を抱くはずである。逆にジェネシス計画 については、この程度の説明では古いファンは納得しないのではないか?

ハリソンの本名はカーンといい、その正体は300年前に遺伝子操作を受けて誕生した優生人類であった。彼によりカークはプロトタイプ光子魚雷の中にカーンの72名の部下らが冷凍睡眠の状態で格納されている事実も聞かされる。マーカス提督にカーンの引き渡しを命令され、拒否したカークとスポックは、カーンと組んで、ドレッドノート級の新型戦闘艦U.S.S.ヴェンジェンスに侵入するというまさかの行動に打って出る。前作では転用を多用したため、ハイテクノロジーな戦いに終始した感があったが、今作ではクリンゴン帝国の本星クロノスには転送不可だったり、U.S.S.ヴェンジェンスへの転送も、彼らの生身の体で小さなハッチの枠に入らなければならない絶体絶命のミッションに迫られる。

ここでも前作同様に、スコッティ(サイモン・ペグ)が大活躍である。提督の持ち込んだ魚雷の使用許可をめぐりカークと揉め、辞表まで叩きつけるが、ヤケ酒を呑んだBARから、U.S.S.ヴェンジェンスに秘密裏の侵入を試みる。カークとカーンの突入場面も、小さな隕石にぶつからないように進む彼らよりも、U.S.S.ヴェンジェンス内部の警備員に捕らえられたスコッティの行方の方が十分にサスペンスフルである。それどころかウフーラ、ヒカル・スールー、パヴェル・チェコフ、レナード・マッコイなど主要キャストに対し、J・J・エイブラムスはそれぞれの特徴を捉えた見せ場を用意するのである。逆に仲間たちの見せ場を用意し過ぎたために、かえってカークとスポックの絆にはスポットが当たらなかったものの、群集劇が得意なJ・J・エイブラムスらしい仕上がりとなった。

前半の低調さとは打って変わり、後半の性急な展開はなかなか様になっている。カークに船長代理の大役を任されたスポックは自分の判断に迷いが生じ、スポックプライムの指示を仰ぐが、そこで彼は「カーンは最大の難敵であり、我々はとんでもない代償を負うことになる」という哲学的な忠告をもらいながら、過酷な運命へと向かっていく。エンタープライズの中と外という違いはありながら、カークとスポックが一心同体となり、カーンに向かっていく終盤のシークエンスは、前作以上の圧倒的なショット構成と「最後の瞬間の脱出」という古典的な構造を敷いてドラマチックに進行する。透明なガラス越しにお互いがハンド・サインを合わせる場面は涙なしには見られない名シーンである。ウフーラ、ヒカル・スールー、パヴェル・チェコフ、レナード・マッコイなど主要キャストに見せ場を作りつつ、最後はやはりスポックの行動がカークを救うのである。

ジェームズ・T・カークとキャロル・マーカスのやりとりは一瞬しか出て来ないし、スポックとウフーラの恋の行方も我々にはどうなったか明かされないままハッピー・エンドを迎え、明らかに続編のアナウンスが待たれる中、J・J・エイブラムスは『スター・トレック』よりも先に『スター・ウォーズ』の新作を撮った。果たしてこのまま『スター・トレック』シリーズもJ・J・エイブラムスが続投するのか?次なる発表が待たれる。

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