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減損会計から見るコーポレートの本質・課題

皆さん、こんにちは!公認会計士・社労士・元CFOの植西です。

このnoteでは不定期で、コーポレート・管理部門にまつわる様々なテーマをこれまでの経験・知見などを通じて、書いていきます。
Disclaimer的な話ですが、多種多様に意見がありますし、あくまでサンプル数たった1の意見だと思って読んでくれると良いです。

今回のテーマ:「減損会計」と「コーポレート」

なぜこのテーマを上げようかと思ったかというと、減損という会計事象が自分のこれまでのコーポレートキャリアの中で、非常に頭を悩すことが多い事象だったからです。そしてその頭を悩ます理由が、経営の本質を問うような、コーポレートがぶつかる課題を扱っているからです。その課題とは、具体的には以下です。

①計画と実行の分離問題
②トップダウンとボトムアップから見た問題

実はこのテーマは先日Youtubeでも動画をアップしています。ここでは減損会計の基本と板挟みの会計処理である由縁を話しているので、ご興味がある方はご覧ください。※減損会計の細かい話は、このnote記事上では割愛します。


①「計画と実績の乖離」問題

計画を作るコーポレートは「経営企画」「人事」です。一方で実績を作るコーポレートは「経理」「労務」です。※多少の経験・主観も入っていますが様々に外部内部から複数の会社を見ていく中では、こういった傾向です。

この区分、実はコーポレートを分断する区分けになることも多々あります。前者を「企画部」「社長室」「コントローラー」と表現したり、後者を「管理部」「アドミ」「バックオフィス」などとも呼ぶ時もあります。※あまりこの区分は個人的には好まないのですが一般的傾向としてあります。

減損会計は、実はこのコーポレート内の良く起こる分断を、思いっきり正面衝突する会計処理なのです。具体的にこのような事象が良く発生します。

・実施前にキャッシュフロー・損益計画を作る【経営企画】
⇒計画値よりも実績が悪化する(好転より悪化の方が確率は高い)
⇒減損会計時に、実績との乖離を会計監査人から問われる【経理】
⇒経理は応えらず、経営企画側に問う
⇒経営企画と経理側のコンフリクトが生じる

この構造はコーポレートにとっての大きな課題です。計画を立てる難しさと、実務も踏まえて実績を回す難しさ。どちらも大変で大切ですが、「両者を適切に実行できる人材・組織をどう作るか」、ということを問われる会計処理なのです。本来これらが一気通貫しているならば、このようなコーポレート間コンフリクトは起こりません。

②トップダウンとボトムアップからみた減損

減損会計は、大きな経営意思決定(新規事業推進・多額の設備投資・M&A)に対する事後的な評価手法、です。つまり、その意思決定の際には、必ずコーポレート業務が関与します。
・経済性シミュレーション【経営企画】
・組織構築&人事採用【人事労務】
・帳簿&決算処理【経理】
・サプライチェーン構築【購買物流】etc,,,

つまり、ボトムアップ的なプロセスが必ず発生します。これに対して、大きな意思決定であればあるほど、各部署での判断領域を超えているため、トップダウンによる決定が必須となります。なので、減損損失が起こるタイミングでは、経営や事業に対してのコーポレート内としての様々な意見・課題が噴出します。

・【ネガ】やっぱりこんな事業やらなければよかった。お金の無駄だ
・【ネガ】どうして私たちが尻拭いをさせられるのか
・【ネガ】会社として将来性がないのではないか?
・【ポジ】失敗を恐れずチャレンジしていく経営姿勢が素晴らしい
・【ポジ】別の事業・挑戦は収益が上がっている、これも戦略の一つだ

減損損失自体の責任は、根源的にはトップダウンで決めた経営責任なのですが、それをボトムアップとして経営支援するコーポレートがどう捉えるか、についても問われる会計処理になります。

考え方・捉え方に対しての正解はありませんが、少なくともコーポレートスタッフとしての経営・会社への評価・想いが垣間見える会計処理です。だから経営者はこの処理に対して社内としてもどう感じているかを敏感に感じ取ってほしいと思います。

減損会計についてのコーポレート的な考察

減損会計は会計的側面を見ると、将来発生する損失を早めに吐き出してしまおう、という非常にリスク志向な会計処理です。それはリスク管理としては良い事かと思います。

ただ、個人的な思いとしては、「減損処理」という経営課題を、それを取り巻く人たち、つまり「監査人」「経営者」「コーポレート」がその影響力を考え裏側にある課題や理解を深めながら、処理を進めていってほしいなと思います。

自分は本件処理に全ての側面で当事者として関与した経験があります(恐らく国内でもほとんどいないと思います)。その中で実際に減損処理に直面するたびに、心が揺さぶられます。
・【経営として】経営責任・意思決定の杜撰さの痛感
・【経理として】なんでこんな無茶な計画を立てたのかという憤り
・【経営企画として】計画値を強く見過ぎてしまった反省
・【監査人として】会社に理解してもらい資産価値を落とさねばという義務

減損というのは一つの処理ですが、もっと根深い部分を考えると、コーポレートとしての在り方・本質を問われるものであり、是非この点について積極的に改善をしていくための事象として活用してほしいなと思うのです。

駄文ですが、今日はここまで。最後までお読みになって頂いた方、ありがとうございました!

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