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note de 小説「時間旅行者レポート」その6

「Hi.
ボクは、オリバー。

ミヒャエル・オリバー
と申します。

あ、あの…ですね」

すると甲高い声が
ボクの終わりを
待たずに

「あぁ、Herrオリバー!
お電話 Danke shÖne

お待ち申し上げて
おりました。
上役から聞いています。

必ずご連絡を
頂けることも。

そして?
本日のご要件は?」

と告げた。

たじろぐボクをよそに
既に研究所サイドでは
話が進んでいる
らしい。

そんな口調での
応対だった。

「そ、そうなんです。

昨日のお約束どおり
今回の時間旅行を

お受けしたいと
思いまして…」

「あぁ、良かった。
今やあなたと私どもは
時の人。

世界中が注目する
仲ですものね

あ、お待ち下さい!

上役が会議を終えた
ようなので。
会議室にこの電話を
繋ぎます

少々、お待ち下さいね。
では

Auf Wiedersehn!」

ほんの束の間の
保留のコール。

あぁ、とうとう。
と後に引き返せない
自分を思った。

と、同時に
乗りかかる船の
豪華さに胸が騒いでもいた。

「やぁ、Dr.オリバー
Guten Tag!

やはり連絡をくれたのだね。
Danke!

心の準備はいいのかね?

申し遅れた。
わたしの名前は
リヒトフォーフェン
という。

こんご一切の君の
行動を上に報告する
立場の者だ。

よろしく頼む」

「あ、はい。
よろしくおねがいします。

で、ですが
お受けするまえに
ひとつ確認しておきたい
ことがありまして」

それはなにか、と
聞き返すまえに
このリヒトフォーフェン
という男は切り出した。

そう、こちらが伝えたい
ことをすでに察知している
かのようだった。

「残りの「報酬」の
ことだね。

それならすでに
ドレスデンのネット決済で
支払っておいた。

こんごの余生
遊んで暮らせるだけの
額だと思うがね。

改めてあとで
ご両親に連絡をとって
みたまえ。

あと、報道だね。
これもすでに
交通整理は済んでいる。

だから安心したまえ。

けさ、われわれも報道を
みて驚いているのだよ。

極東ヤーパンの芸人風情が
時間旅行者第一号に選ばれたのは
自分だ、とか

ロシアでは
タイムマシン第二号を
画策している、とか

君が殺し屋に狙われている
とかのゴシップをみて、ね

そんな心配は無用だよ。

君は知らないだろうね。

すでに護衛に囲まれている
ことに」

「あとね。
君の大学の学長は
本日をもって
罷免された。

あまり言いたくはないが
彼は粛清されるだろうね。

君もあまり
彼のいったことを
鵜呑みにしないように
気を付けたまえ」

!!!
そうだったのか。

これはすべて
仕組まれている。

ボクの通信も行動も
すべて

今日起こったことも
何から何までが
この研究所の
思うツボに
進んでいたのだ、と
ボクは知った。

だとしたらもう
逃げられない。

逃げられないのなら
逃げ隠れする意味も
もうすでにない、と
悟った。

しかし。
しかしあの学長がなぜに。

!!!

「わかったかね?

歴史を歪曲する行為は
絶対にご法度なのだよ。

それを君に伝えてしまった
ことそれ事態が重罪だ。

法規制はまだない。

だが時機に施工されるだろう

わが研究所の
「Zeitmaschine」
世界標準になる。

人類が空をとんだ200年前よりも
月面に着陸した100年まえより
そして交通手段にロケットが
一般化したつい最近よりも

圧倒的優位にたつのだ。

わが大ドイツが
再び世界の頂点に・・

まぁいい。
これは忘れてくれたまえ

君はどうか
迷いの淵には
落ちないでほしい


これは君だけの
成功話ではない。

君は単なる
被治験者に過ぎない。
主役は我々であり
わがドイツの技術力だ

君の行動は随時
現在のコントロール室
から把握されそのまま
レポートされる

今回は君と我々の
利害が一致しただけなのだ」

「わかります。

わたしは間違わない。

症例をこの眼で見て
現代医療の助けにしたい

それだけです。

それで?
Herrリヒトフォーフェン?

ボクはこれから
どうすれば?」

「うん。
いい答えだ
Dr.オリバー。

さすがは我らが見込んだ
だけのことはあるね。

今後の指示は
いまから君に接触する
「08」と名乗る男が
伝えるだろう。

もうここに
連絡することも
ままならない。

わたしとの
会話もどこかの
研究機関や国家にかならず
ハックされている
だろうからね。

では
Auf WIDERSEHN」

電話が切れた。

ーーーーーーーーーーー

ボクはまもなく
コンタクトをボクに
とってくるという
「08」を待った。

市街地であり
ボクがボクだと
わからぬようにするため
サングラスを買い
変装を試みた。

そしていつもの
行きつけのBarに
立ち寄った。

昼下がりだというのに
学生がたむろしている。

ダーツをするもの
スヌーカーに興じるもの
ブンデスリーガをみて
熱狂するもの

さまざまだ。

その喧騒をすり抜け
カウンターで注文をした。

「あれ?
おまえ、オリバー?

よぉ。

いつものでいいか?」

ニュースを知っているのか
どうか分からなかったが
ここのマスターだけは
いつもと変わらぬ笑顔を
ボクに提供してくれた。

「あ、うん。
そう。ハイネケ・・

いや、コレください」

「・・・そうか。
これ、高いぞ。

でもいいんだよな。

億万長者の時間旅行者
なんだもんな、おまえ」

「知ってたんですね。

そっかありがとう。

そうなんです。
こんど行ってきます」

「まぁ頑張んな。

生きてりゃ色々あるって!

なんでも挑戦してさ
時間を無駄にだけはしない
ようにしなきゃって・・

おまえに時間のことは
いえないんだっけな。

がっはっはっは・・

ほらよ、おごりだ
飲んできな。

でよ、ひとつ聞きたいことが
あんだけどよ」

とマスターに尋ねられた
瞬間、ボクは

「わ! Nicht!!

ダメです。
僕との会話は!

込み入ったこと言えないし
聞くことも・・・

わかってほしい。
なぜなら・・」

といい
ボクは飲みかけの
グラスをおいて
店を出てしまった。

ーーーーーーーーーーーー

続きます。




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