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時間旅行者レポートVol.30 note de 小説


遠くの報道席に08が
こちらを静観してるのが
見えた。

しばしば時間を気にしているようで
時計に頻繁に目をやっている。

ボクは、その08に
目をやっていた。

その時、また雷がおちる。
地響きするような大声だった。


「またか!てめぇ!!
ボサッとしやがって!

この俺を
誰だと思ってるんだ!

フーバー大統領様だぞ。

それにここは
オマエらの墓場に
なるかもしれねぇ会見場だ。

それにしては
余裕じゃねぇか?」


「じゃねぇか?」って
大統領の語り口ではない。

まるで酒場で酔っぱらいに
カラまれているようだった。

このFUBARさながら
大馬鹿者の大統領の
取り巻きはしかしながら
キレ者揃いだった。

彼らは冷静に
こちらの動向を
うかがっているし

彼らもしきりに
時間を気にしていた。

その一人。
大統領報道官が
マスコミに何やら
指図をしたのが見えた。

すると
ひとつ、またひとつと
手が挙がりはじめた。

そして順に
質問をボクに浴びせてくる。

標的はボク。
回りに護衛がいない中
集中砲火を浴びせてきた。

「あのーー。abcです。

あなたはー、エ~・・
医大生と聞きましたが。

あなたは我が国のアイビーリーグ?
もしくは難関10大学の生徒さん?

ちがうんですね!

脳科学かなにかを研究してるって
聞きましたが。

ミュンヘン大って有名?

あなたの実績は?

時間旅行をしただけで
各国の閣僚と同席できて
幸せだと思いますよぉ。

でもあなたより優秀な
医学生ならアメリカに
たっくさんいます。

なぜあなたなんですか?

時間旅行をして
この22世紀の医療に役立てたい
ってのは立派ですよ。


でも
あなたでなくてもいいでしょう?

その辺はどうお考えですか」

これが
スピーチの国アメリカの
口撃なのか。

腹立たしさを越えて
なにか吐き気がしてきた。

が、ボクは
08に言われた通り
無難に受け答えをした。

「え・・とですね、はい。

参ったな・・

まずはあなたは
ご存じですか?

我が校、ミュンヘン大は
世界的にはあまり知られては
いませんが実は貴国の
ハーバード大と肩を並べる
名門校です。

そこはどうぞ宜しく。

あと、ボクよりも
優秀な研究者はたくさんいます。
それには異論はありません。

はい・・・以上です」

声が一瞬うわずってしまった。

PM11:45分

「諸君!」
とFUBAR(大馬鹿者)が
口をはさんだ。

「諸君
俺はイエール大学の
卒業生だ。

周知の通りだと思うが
俺と同列にしないでくれたまえ。
ってスマンスマン
はっはっはは・・」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ボクの不自然な苦笑いが
世界中を流れた。

この会見をアマルフィにいる
両親が見ていたらどんな顔を
するだろう。

心が敗北と無力感に包まれた。

「つづいてCBSですがー。

オリバーさん。
あなたナチスのことどう思います?

あとあなたの会社の研究所所長の
ご先祖さん、たしか毒ガス作りの
悪人っすよね。

それ、タイムマシンに乗って
なかったことに出来ません?

それならば公共の利益を
この発明に見ることが
出来るんですが。

歴史を操作しちゃいましょうよ」


これは結託されているに
違いなかった。

ボクに理性を失わせ
不都合な発言をするように
あおっているのだ。

ボクは遠くの08を見た。
『クールダウン』を
意味するゼスチャーを
して見せた。

うんうん、と
ボクはうなずいた。

あと08は時計を指さし
時間へ意識せよ、的な
事を暗示した。

そしてボクは
答えた。

出来るだけゆっくりと。

「あ、はい・・・

そうですね。

えっと・・・
なんでしたっけ?」

とわざとらしく聞き返した。

これに呼応するかのように
記者会見場が荒れた。

「あの、NYタイムズですがー」

「こっちこっち、ワシントンポスト!!
ずっと手あげてるよー」

大荒れだったが
遠くでゲタゲタと
08は笑っていたのが
見えた。

「あ、あの・・
す、すいません・・

あぁ!そうでしたねぇ。

つまり・・
起こってしまったことを
なかったことに・・
でしたよね?

あなたがおっしゃったこと。

あ・・うん。
どうなんでしょうねぇ。

あまりそこまで
考えたことがなかったもので」

PM 11:55分

08がガンバレ、負けるな、と
後押ししてくれている。

そして
しきりに時間を気にしだした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

そんな中、大統領補佐官も
何故か慌てだした。

そして大統領に助言した。

すると大荒れの会場が
静まり返った。
まるで申し合わせたような
出来レースだった。

大統領はボクの胸ぐらを
つかんで小声で言った。

「おい、おまえ。
さっさとゲロしろよぉ。

お前らドイツは、いや
お前らの会社が世界を手に入れる
つもりだってよ。

だっておまえ、そうだろ。
赤子の手をひねるより
簡単だろ?
大昔に戻ればよぉ。

牛耳ることが可能です、って
いっちまえよぉ。

おまえらがやばい奴らだって
分かれば投資も何もかも
ストップしてよぉ

この合衆国が代わりに
正義の名のもと
引き継いでやらぁ」

とうとう本音が出た。
やはり利権を狙っている。

100年前に
ドナルド・トランプという
破天荒な大統領が存在した。

その彼を上回る大統領が
ここにいる。

合衆国国民は彼を選んだ。
彼を選ばなければならないほど
すでに22世紀ではアメリカの
存在感は薄れているのだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


AM 0:00

時計の針が新しい一日を
指した。

動揺するボクの後ろに
そそり立つ人影が見えた。

それは08だった。
彼がやっと口を開いた。

「お静まりください。

お集りの皆様
Dimentionz社です。

お静まりください」


カメラが一斉に08に向かう。

「現在、日付が変わりました。

世界標準の○月○日をもって

世界に新しい法律が
施行されました。


名付けて
Dimentionz法といいます。

これは
時間旅行、ないし
時間旅行者に関わる者への
義務が盛り込まれています。

まずは
歴史の改ざん
ならびにそれを扇動する行為
国際法上、死罪に処する旨の
規定です。

そして各国財務閣僚
ならび財界は
わがDimentionz社に
人財と資金の無償提供を
行わなければなりません。

さらに
TPの創設です。
つまり
タイムパトロール。
この維持費も各国の資金援助から
捻出されます。

TP創設は時空の亜空間を厳しく管理する
ことで時間犯罪者を一掃するのが
目的です。

その他、人物、植物、鉱物等一切の
採取、取得、保持、持ち帰り
売買を固く禁じるなど
ございますが

あなた方が昨日、つまり
先ほどまで、ここにいる
ミヒャエル・オリバー氏に
浴びせた罵声や扇動行為は
死罪に値する、というこで

大統領閣下。
あなたとて
例外ではありません。

法の下、平等に処罰されます」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

Dimentionz法の施行。
世界にそれは報道された。

事実会場だけでなく
世界中がその瞬間
静まり返った。

ここでも刹那の沈黙のあと
騒然となり大混乱がやってきた。

タイムアップの悔しさを
隠せない補佐官や報道官たち。

そして髪をかきむしり
怒り狂う大統領もいた。

08にとびかかろうと
していたのを双方の取り巻きが
押さえつけたり
なだめたり。

大乱闘寸前の合衆国の
特設ステージ。

メディアのフラッシュの
嵐と熱気で
めまいがする。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そんな中、ある男が
ステージの壇上に登った。

その場の熱気とは無縁の
静かなたたずまいだった。


その男こそ
22世紀のドン

昌平君(チャンピンジュン)国家主席
その人だった。


再び世界中が
沈黙に包まれる。

その中で
彼は話し始めた。

「安静的!(静まれ!)」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

つづきます。







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