第1回新しい自治体財政を考える研究会2/4:今村寛さん「枠予算のススメ」

こんにちは!

今回も前回に引き続き「第1回新しい自治体財政を考える研究会」の内容をご紹介します。

前回の記事はこちら
自治体の皆さんが抱える「予算編成」の悩みを分析しました

今回は自治体財政に関する出前講座で全国を飛び回り、著書も出版されている福岡市教育委員会総務部長・今村いまむらひろしさんの基調講演「枠予算のすすめ」を紹介します。

〈今村寛さんProfile〉
1991年に福岡市役所へ入庁。
9年間勤めた財政課での経験を基に、地方自治体の財政運営について、自治体職員や市民向けに語る出張財政出前講座を出講。
また「明日晴れるかな」という福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティングを主宰し、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
2021年から現職。
-著書-
「自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?」
『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』
今村さんnote
今村さんfacebook

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※前回同様、可能な限り当日の発言のまま紹介しています。
※今回の基調講演の内容は今村さんのnoteでもまとめられており、各項目の最後には今村さんのnoteのリンクを掲載しております。

1.ビルド&スクラップと枠予算の自律経営

私は、今、福岡市役所で31年目です。
今は、教育委員会におりますが、2002年から2007年までは、財政局の財政調整課の係長、そして2012年から2015年までは、財政局の財政調整課長として、福岡市の予算編成を9年間やっていました。
その中で、職員向けの財政出前講座をはじめ、他の自治体への出張財政出前講座を開始し、その内容を2018年に本にして出版しています。
出前講座では
「収入の内訳が、どこにどのくらい使われていて、将来の見通し、財政が厳しいってどういうことなの?」
「財政破綻しないのか?」
「これから先の財政状況が厳しい中でどうやって乗り切って行くのか?」
ということをお話ししています。

今村さん1.pptx

これは、出前講座でいつもお話しする資料なんですが、一般会計の総額に対して経常的経費がどのくらい一般財源を使っているのか、という将来推計をグラフで表したものです。
人件費・公債費は高止まり、社会保障費が10年間で3割増えていくので、経常経費がどんどん一般財源総額を圧迫していく。
この棒と折れ線の隙間、ここが政策的経費ですが、この隙間がだんだん狭くなっていく。
隙間がなくなってしまう。
これが、いわゆる「お金がない」「財政が厳しい」という状況です。
なので、この棒と折れ線グラフの隙間を増やしてあげなければいけない。
そのためには、新たに投じる政策的経費のために、過去の政策決定のランニングコストを減らしていかなければいけない。
つまり、「やめる」という政策決定をしない限り、新たな政策に投じるお金はないということです。
新しいことをやるためには、今やっていることを見直しましょう。
これが財政健全化ですよ、って分かりやすいお話です。

私は出前講座の中で、いつもビルド&スクラップという言葉でお話をしています。
スクラップ&ビルドじゃないよ。
見直しをして、見直しができた後に新たにできた財源を投資に回すのではなく、ビルドが先ですよ。
まず、やるべきことを先に決め、それによって優先順位の順位付けが変わっていき、優先順位の低いものをスクラップしていく。
これがビルド&スクラップです。
スクラップ&ビルドとは違います。
それを実現していくためには、局・区、部・課の組織が自律経営をすること。
財政が厳しいのは、新たな施策事業をやりたくても既存の事業を見直せない。
新しい施策事業をやりたいのは誰ですか?
やりたいんだったら自分のやっていることを何か見直してください。
部門ごとにあらかじめ財源を配分する枠予算というのが、部局単位で政策効果を最大化する経営ということで、自律経営を推奨する。
このために福岡市では枠予算をお願いしています。

今村さん2.pptx

これは、福岡市の予算の拡大のイメージです。
私が課長になる前のやり方。
重点事業というのは、所要額要求をしてもらい、企画が事業選定をして、財政で予算調整をして、市長・副市長が査定をする。
一方で、重点事業に配分する財源のために、ほぼ経常的経費の主要一般事業をPDCAの中で見直してくださいと言いますが、毎年シーリングをして圧縮をすると、「見直せない」と皆さんに言われます。
なので、重点事業まで含めた枠にすべきだ、ということです。
大事な事業もそうでない事業も、みんな局長の下でPDCAサイクルを回して、何か新しいことをやりたいのならば、今やっていることを何か見直す。
こんなやり方で今、福岡市では予算編成をやっています。
財政健全化・政策的経費の確保のために経常的経費を見直す。
それには、ビルド&スクラップ。
やることをまず決めて、それよりも優先順位が低いものを見直していく。
それをするためには局・区の政策分野ごとの単位で自律経営をしていく必要があります。
だから、枠配分予算なんですよ。
皆さん、ここまでついて来れているでしょうか。
財政健全化のためには、枠配分しかないと、私は明言しています。
この枠配分がどうして財政健全化へ繋がるのかを今日は簡単に紐解いていきたいと思います。

2.シーリング=一律カットではない

なぜ指定管理料にシーリングがかかるのか、なぜパソコンのリース料を前年度より5パーセントカットしなければいけないのか、財政課にいたら必ず原課から言われると思います。
まず、シーリングは何のためにかけているのか、ちゃんと説明できますか。
シーリング、予算要求額の上限額ですね。
シーリングって、天井という意味ですから、この天井よりも上に予算要求額を上げてはいけませんよ。
元々、予算要求とは1件ずつ要求して、所要額を積み上げて、それを財政課が査定するというのが昔の伝統的なルールでした。
これは、高度経済成長期に、どんどん新しいことをやりたい、予算要求は腹いっぱいする、それが組織のミッションみたいなことでした。
とにかく青天井で、予算要求が膨れ上がってしょうがない。
どのみち査定で切られるから、この要求の上限額を決めます。
これ以上の要求をしないでください、というのがシーリングです。
シーリングって、昔は、前年同額って意味だったんです。
前年度を超えてはならない。
なのに、マイナスシーリングが入ってからややこしくなったんです。
要は、成長が終わって、前年度の予算を上限とするというキャップのはめ方では、予算編成がうまくいかないということで、前年度よりは少し下げて要求してください。
5パーセントカット、3パーセントカットでお願いします。
これが、マイナスシーリングです。
あくまでも、要求の上限額を去年よりもこれだけ減らしてください、という意味です。
一律削減でお願いしているわけではないんです。
パソコンの管理料も、土地の借上料も、指定管理料も全部一律でカットしてください、という意味ではありません。
この一律カットではありません、
という意味が正しく現場に理解されていないんです。
これは、予算要求の上限額なので、部局単位でシーリングをかけて、このシーリング内に収まれば、ある事業は前年より増えていても構わない。
前年同額でも構わない。
部局単位でどこかでマイナスをして、全体が上限額に収まっていればいいんですよ、って言っています。
ところが、これを部局内でやろうとすると、
「どうせ財政が査定するんだろ?」
といって、自分のところの見直しをするインセンティブが湧かないんです。
シーリングの意味が正しく理解されていないことが原因で、みんなシーリングを守ろうとしない。
「どうせ財政が査定するから、一律でやろう」
ということで、大事な事業もそうでない事業も一律で全部5パーセントカットというやり方をしてしまう。
それを財政課が受け取り、その後でガツガツ査定するわけですから、結局、部局の財務担当で調整をしても何の意味もない。
なので、シーリングは基本的に誰も幸せにならない。
上限額を決めて予算要求をさせても、そこまでの過程で現場が努力しても財政課は何も見てくれませんから、努力のやり甲斐もないし、財政課は財政課で受け取ったものをガツガツ査定するので、
「だったら所要額要求でいいじゃないか」
と思ってしまうわけです。

※今村さんnote
「シーリングは何のため」

3.枠配分で現場の「やる気スイッチ」をON

ところが、枠配分って、シーリングではないんです。
枠配分とシーリングは違います。
自分たちで事業を見直した。
あれだけ厳しいシーリングを守ったのに、更に査定されるなんて信じられない。
これは、シーリングです。
あくまで、予算要求の上限。
その範囲に入っていても、無駄なものがあれば査定させてもらう。
それが財政課の仕事だ。
これをみんなシーリングと思っている。
枠配分と勘違いしている人が多いです。
シーリングと枠配分は違います。
一件査定と枠配分は完全に違います。
一件査定は、先ほどのように1件ずつ査定する。
そのための前提として、全部査定したくないから、一応この上限に収めて持ってきてください。
これがシーリングです。
枠配分予算は、あらかじめ推計した財源に基づいて、局・区の裁量が効く財源を枠として配分して、その枠の中で予算を組んだらそこは尊重する。
つまり、扱わない。
これが枠配分予算と一件査定の大きな違いです。
福岡市における枠配分の仕組みはこのようになっています。

平成24年に私が財政課長に着任したときは、重点事業、局裁量経費、義務的経費とあって、重点事業と義務的経費が一件査定で、局裁量経費、いわゆる経常的経費が枠予算でしたが、これを大幅に拡充して、重点のほとんどを枠にしました。
義務的経費は所要額でしかないので一件査定していますが、あとは市長が特にやりたいと思っているトップマネジメント経費みたいなものだけを除いて、あとは全部枠にしました。
枠とすることで、大事なことを何かやりたいのなら、今やっている経常的な事業を見直してください。
ただし、義務的経費を除く、と。
この各部局への配分は、一律のルールではありません。
必要な額を必要なだけ配分するようにしていました。
局によって微妙に塩梅を変えたり、今年と来年、来年と再来年のルールも変えます。
なぜかというと、枠配分というのはルールではないんです。
目標なんです。
「この範囲だったら自分の裁量でできるでしょ?」と。
配分するときに経常経費の率がすごく高い局と、ある程度投資的経費があって、やったりやめたりの事業がある局を同じ率で配分すると不公平です。
なので、見直し幅があるところとないところで、目標設定を変えてあげる。
配分のルールを変えていくことが、彼らの裁量をきちんと守っていこうというインセンティブに繋がる。
枠を守ったのに査定されるというのは、悲劇です。
枠配分というのは、あくまでも査定をしないことを前提に枠を与える。
その枠を守ったのであれば、そこは尊重される、という決まりでやっています。

ただ、よくあるのが
「市長、経常的経費も1事業ずつ全部説明が必要ですか?」
というようなものや、市長が「全部見る」という例です。
「当たり前だ。財政課も所管課も私の見ていないところで勝手に何をしているか分からんからな。」
と。
たたき上げの市長、財政課あがりの市長だと、こんな風になってしまいます。
全部自分が見ないと気が済まない。
私も財政課長をやっていましたが、スーパーマンではありません。
3千の事業を全部査定できるわけがないんです。
これをすると何が起こるかと言えば
「委託は8掛けだ」
とか
「前年同額だ」
という意味のない、だた数字をいじるだけの査定になってしまいます。
これは、財政課あるあるです。
ただ、市民に近い現場で責任をもって判断するためには、枠配分で枠を渡して
「責任もって予算を組んでください」
って言う方がよっぽどいいんです。
あと、枠配分予算をすると、全体最適が守れないという話がよくあります。
じゃあ、財政課長が査定をしたら、全体最適になるんですか?
逆に問いたいです。
実は、財政課長が3千の事業を一件査定すると、頭がバカになります。
1個ずつ見ているから全体が分からなくなる。
それよりも、枠を配分する際にしっかりと全体を見て、その中で
「これとこれは大事だから個別に査定しよう。市長に最後見てもらおう」
と、引っこ抜いてやっていく方が全体最適は図られるというのが私の考え方です。
あと、
「財政課が査定しないと財政規律が守られない」
と言う人がいますが、財政規律って何ですか、っていう話です。
一件査定で財政規律を守るといいますが、実際は、市債残高をこれ以上増やさないとか、経常経費の率を下げるというような財政全体の構造については、財政規律という形で守るべきものがありますが、これは一件査定とはあまり関係がありません。
一件査定で事業の中身を1件ずつ見ていくということは、その事業が適切かどうか、経費の計上は適当がどうかというのを見るだけであって、財政規律でも何でもない。
事業の効果性、効率性を見ているだけだと私は思っています。
査定で削ったお金はどこに行くの?
これは財政課から資料要求が来て、みんな徹夜で資料をつくっているイメージですが、それって、結局、財政課が査定で削るところを探すための資料なんですよね。
なんでみんなこんなに一生懸命残業しているんだ、って感じです。
予算編成作業って忙しいと思いますが、ほとんどが歳出予算を削減するための金額の精査です。
そこで削ったお金で新しいことに振り向けるために一生懸命査定をするわけです。
ところが、本当は、新しいことをやりたいと言っているのは現場です。
財政課がそんなことを言っているのではない。
新しいことをやりたい現場は、自分がやっている今の事業は見直したくないわけです。
なので、そこをゴリゴリ査定して、新しいことをやるためにお金をつけてやる。
財政課が削ったお金が、新しいことをやりたいと言っている現場に戻っていくんだったら、最初から現場にお金を渡すから、配分された予算の枠内で自分のやりたいようにやり繰りしてください。
その方が、自分の裁量でやり繰りできるからいいじゃないですか。
これが、枠配分の考え方です。
やる気スイッチです。
「もう、財政課査定しないって」
「配分した枠の中であれば、自分たちで自由に使い道を決めていいんだって」
という、やる気スイッチを押すのが枠配分です。
枠配分は、組織の自律経営というもののためにやります。
自分のことは自分で考えて、自分で自分を律する。
組織の自立経営。
この最大のメリットは、担当課のモチベーションです。
特に行財政改革をやっていく上で、
「なんでこの事業を見直さなければならないんだ」
と、財政課や行革担当課から言われて見直すということがありますが、そうではなく、ビルド&スクラップ。
自分で「やりたい」と言うもののために、自分の持っている事業を見直す。
それなら、見直すことについて、自分で説明が果たせます。
この事業をやるためには、この事業を見直さないといけません、って自分で言えます。
なので、担当課のモチベーションは上がるということです。
ただ、前提として、何かを見直さないと何か新しいことができないという財政状況であるとか、見直す担当課と新しいことをやる担当課が同じではないので、役割分担が部局の中で分かれてしまいますが、一つの意思疎通は必ず必要になってくると思います。

※今村さんnote
「枠配分予算のススメ」
「続・枠配分予算のススメ」
「査定で削ったお金の行方」
「やる気スイッチはどこにある」

4.枠予算はうまくいかない?

枠配分予算を私はバラ色だといつも言っていますが、否定的な意見もあります。
「配分される予算がそもそも足りない」
「枠の配分が公平でない」
「それぞれが勝手に部分最適を図る」
「財政規律が保たれない」
だいたいこの4つに分かれます。

「配分される予算が足りない」
というのは、枠配分予算のせいではありません。
自治体財政の外部環境の話です。
配分される枠が足りようと足りまいと、その範囲内で予算を組まないといけないのは、財政課の皆さんは全員ご存知ですよね。
ただ単に、各部局、各担当課にもご存知いただきたいだけの話です。

「枠の配分が公平でない」
というのは、当たり前です。
市役所の事業は、A事業もB事業もみんな同じ大事さではありません。
大事な事業とそうでない事業があります。
忙しい部門、そうでない部門があります。
これ、みんな公平だ、不平等だ、って言いますか。
違いますよね。
大事な仕事にはしっかりと財源が充てられる。
そうでない事業にはそれなりの財源しか充てられない。
ただそれだけのことです。
「公平でない」ということは、全然制度的な欠陥ではありません。


「部分最適を勝手に図る」
といいますが、実は、それぞれの部局ごとにやりますので、ある程度の部局単位での部分最適を図っていただいた上で、最後は企画と財政で全体を束ねるということになりますので、調整の方法でいかようにもなります。

「財政規律」については、何を守るんですか?という話です。
もう少し具体的に言ってくださいという話です。
「予算を余らせるのは悪いことか?」
と私はよく言います。
予算編成の中でよくあるのが、決算至上主義です。
前年度の決算額を前提に次年度の予算編成をやるので、なるべく予算を余らせたくない。
余らせると、来年減らされてしまうから。
そうすると、工夫して執行、節減するとか、工夫を前提として予算を組むというのは、しにくいです。
いるものはいるんだから予算を取っておけ。
来年つかなくなるから、全部使いきれ。
こうなりますが、これ、全く無駄な作業です。
福岡市では、節約インセンティブという制度を設けて、決算剰余金の確保を現場に推奨しています。

例えば、N年度の予算が100万円だとします。
創意工夫、経費削減、財源確保などを行った結果、80万円で済みました。
普通なら、80万で済んだのなら、次年度は80万で予算を組んでください。残り20万は別の部局にあげます。
こうなります。
ですが、福岡市は違います。
20万も余らせてくれてありがとう。
これは、決算剰余金で次年度のお金になるから、あなたの部局の来年度予算に10万くらいつけてあげます。
100万円に10万円つけて、110万円でスタートできますよ。
こんな制度です。
こうすることで、予算を余らせよう、工夫によって別のことに回せるようにしようというインセンティブが働きます。
なので、前年度決算で今年度の予算の査定をするのはぜひ禁止していただきたい。
あと、執行の段階での予算流用の柔軟化です。
「こう使うって言ったじゃないか」
ってあまり言うと、予算編成の段階で、柔軟に予算を組むことがお互いにできなくなります。
流用は後で認めてあげるから、とりあえず枠内に収まる予算を組んでくれ、とお願いする。

そして、誰が枠配分を殺したか、ということです。
「枠配分がうまくいかない」
「せっかく枠配分をやってみたが、元に戻りました」
「上手くいきそうにないのでできません」
とよく言われます。
これには、2つ理由があります。


1つは、現場の財政課依存。配分した枠が守れない。
「こんな枠では自分たちのやりたい事業ができないので、あとは財政課が査定してください」
と匙を投げる。
これは、責任の放棄です。
お金がないのは、財政課の責任ではありません。
事業が見直せないのは、原課の責任です。
なので、原課が責任を果たそうとしない、これは、市民に対して説明をしたくない、現場で部下から突き上げられたくない、先輩や関係者から怒鳴られたくない。
だから、見直せない、と言っているだけであって、お金がないことを財政課に責任を負わせようとしている非常にずるいやり方です。


もう1つは、財政課の現場不信。
これは悲惨ですが、せっかく枠を守って持って行ったのに、赤ペンをどんどん入れられる。
現場は財政課の下請けではありません。
「財政課の下請けをやらされている」
と思った瞬間に、
「だったらお前がやれ」
と配分した枠にそのまま所要額を要求してくるようになります。
どっちみち枠配分予算を正しく運用していくことにはなりません。
でも、できていないことを悟りましょう。
今日は財政課の人が多いので、財政課ができていないということを悟りましょう。

※今村さんnote
「枠配分予算はバラ色か」
「信じて任せてくれれば」
「誰が枠配分予算を殺したか」

5.「財政課が現場を信じること」が枠予算成功の鍵

枠配分予算をやりたいのに、なぜできないの?
それは、今自分たちがやっていることが、一定期間機能しているから。
一件査定で、毎年それなりに予算が組めている。
しんどいけれど、収支バランスはとれている。
このままでいいかな、と思っている。
一件査定は、効果的な資源配分に貢献しているのか、ということにポイントを置きます。
財政健全化のため、収支バランスを向上させる意味では、一件査定の方がよいという場合もあります。
ただ、一つ一つの事業の資源配分に本当に役に立っていますか?
財政課が現場にかなうはずがないんです。
現場で知っていること、起こっていること、問題になっていること、財政課は、現場の人に聞いてしか判断できません。
個々の事業のやり方について、何が一番よいかは、現場の方が知っているに決まっています。
組織の自律経営を阻むのは、財政課の自負です。
自分たちが最終的に予算を取りまとめなければいけないという責任感。
もし枠配分にしてうまくいかなかったら、財政課の責任になるという、責任回避。
きちんと回せるかという現場への不信。
公平性・平等性のとれた枠配分がきちんとできるかという不安。
こういったものにより、財政課が枠予算へなかなか踏み出せない。
けれど、私はあえて言いたい。
皆さん、たくさん残業しているはずです。
部局の皆さんにもたくさんの残業を強いています。
もっと効率的な方法はないですか?

あと、行革について。
必ず庁内に敵をつくります。
見直しを指示する担当者です。
財政課だと、予算を「つける」と「削る」のバランスがありますが、行革担当は、「削る」ことしか指示しません。
第三者委員会をつくる、行革担当が事業をピックアップする、現場からアイデアを出してもらうなど、見直しのパターンはいろいろありますが、最後は結局指示された現場の「やらされ感」です。
皆さん不満に思いながら仕方なく仕事をすることになります。
先ほどの、削られた予算がどこに行く?って話をしましたが、財政課のポケットに入るわけではなく、市政運営の上で一番大事である新しいことをする、生み出すために、一つ一つの事業の中を精査しているだけ。
これは、正しい理解をして、
「市役所のため」
「隣の課の予算のため」
ということを分かってもらうことが必要と思います。
自分が新しいことをするために、自分で進んで改革をする。
もし自分が市長だったらこうする、と考えられる職員をつくることが、枠予算の大きな効果になります。
福岡市には、行革担当はいません。
行革を進めるのは、各部局の自律経営の中でやっていくことになっています。
行革が旗を振って、行革プランの中で事業を見直すことは、今はやっていません。
プライドを捨てましょう。

私もいろんな査定をしてきました。
査定の結果、生き残っている事業や、あの査定で正しかったのか、と振り返ってみると、うまくできたと思った施策は、担当課の熱意と実行力によって成果が出ています。
財政課が「こうしろ」と査定したからうまくいったというものは、ほとんどありません。
財政課の使命は、全体調整の枠組みをつくって、全体として持続可能な財政運営をしていく枠組みを管理していくことです。
全て財政課が決めるということで、枠組みだけでなく、1件ずつの内容を全部財政課が決めていくと、必ず齟齬が出ます。
この、財政課が決める組織文化を払拭できるか。
自分たちで全部できると思っているプライドを捨てられるかどうかが、枠予算に踏み切れるかどうかのカギになります。
財政課が全部手放す必要はありません。
本当に議論すべきことだけに時間と労力を割くために、大部分を現場に任せたらどうですか、というのが枠予算です。

※今村さんnote
「できていないことを悟る」
「以心伝心」
「プライドを捨てるとき」

6.部分最適から全体最適へ

みんな、自分の担当の仕事は見直したくないです。
なので、財政課からの指示は越権だ、領空侵犯だ、とよく言われます。
これは、現場が、財政課から指示していることが財政課の仕事だと思っているんです。
けれども、そうではないです。
現場は現場で、限られた財源の中で必要な成果を出さなければならないというミッションが出されています。
限られた財源、限られた権限について、「あなたの分はこれだけですよ」と示しているのが財政課であり、これは、越権でも何でもありません。
役所の中のルールを示しているだけです。
これに基づいて各部局が、自分たちのやりたいことだけをやっていくと、やりたいことがあちこちに飛び、方向性が定まらない。
これを、10個ずつ束ねていって、それを10個集めて、最後に100を束ねる。
そうすると、全体最適になります。
この部分部分で束ねていく作業が、分野ごとの目標共有や優先順位付けなのではないでしょうか。
政策分野ごとに、局長や部長に任せてやってもらう。
同じ政策目的で働く現場同士が互いに仲間であると思って、お互いの財源や人材を融通し合って、一つの政策目標を実現していくこと。
これが部分最適を全体最適にしていく枠予算の仕組みになります。
だから、枠予算は、適当性・妥当性を追求してはいけません。
正しい予算を組もうとしてはいけません。
「正しい予算」ってありませんから。
個々の事業の効率性は、現場に任せればいいんです。
政策内の施策事業、例えば、保険福祉の分野、まちづくりの分野など、各分野の中でどんな施策事業をやるかのバランスは、局長や部長といった、政策分野の長にちゃんと調整させてください。
枠配分予算で配分した予算をどうやって自分たちの部局の中で適正にバランスをとるかの作業になります。
政策間のバランス。
「子供と道路どっちが大事?」
ということです。
あるいは、
「こんなにたくさんやって、借金は大丈夫か?」
といった持続可能な財政運営については官房部門です。
企画や財政の部門で全体を束ねる。
この役割分担が、枠配分予算の中で組織の自律経営のための規律としてみんなが守っていけるものになります。

福岡市では、9月頃に枠配分をします。
その際に、予算編成方針や重点化の考え方をあわせて示します。
10月の末から11月の初旬に、各部局がつくった予算の原案を市長・副市長にプレゼンテーションしています。
「与えられた枠で、こんな風に予算を組みました」
「こういったところを重点的にやりますが、その代わりお金が足りないので、こういったことを見直させてください」
と。
そこで、市長・副市長から受けた指示・指導をこなしていくことが、財政課と原課の予算編成になります。
その中の調整事項、市長・副市長に見てもらわないといけないもの、枠配分の中でも市長から注文のあったもの、あるいは枠配分以外のもので、市長に査定してもらうと言ったものを1月・2月に査定する作業をし、予算編成ができる。
こうやって、部分最適を全体最適に束ねていく作業が行われているわけです。

「任せてやらねば人は育たず」
これは、山本五十六の男の修行です。
「現場の予算編成スキルをどうやって向上させましょう?」
「枠予算のやり方がいいですが、現場が信用できません」
と皆さん言いますが、任せましょう。
「やっていいよ」と承認し、任せて、育てて、信じて、見守る。
そうすることで現場がだんだん育っていきます。
福岡市も、平成25年の予算編成から、私のやり方で枠配分予算を大幅に拡充しています。
もう8年経ってますが、すっかり枠配分が定着しています。
枠配分予算でやれることは、全部財政局に相談しなくても、各部局でできるようになっています。
やはり、やる気が現場のスキルアップの意欲の源になっています。
ビルド&スクラップ。
自分でやりたいことがあるんだったら、自分で見直せ。
その代わり、財政課は手も口も出さないから。
ということで、現場が少しずつ予算編成のスキルを向上させていると感じます。
自律経営というのは、各現場の職員一人ひとりまでが組織経営していくために財政構造や状況、見通しをきちんと理解していなければいけません。
そのために私は、財政出前講座をやって、情報を共有し、なぜ自律経営を導入したかを共感して、財政部門と現場がコラボレーションすることができるように仕向けています。
出前講座のときに、いつも最後に言いますが、
「1人の千歩より、千人の1歩」
1人のスーパーマン(=財政課長)が切り盛りできるほど自治体の財政状況は甘くありません。
私も、財政課長になって、財政健全化プランをつくるときに、4年間で860億円の財源不足を査定でカバーしろ、というシミュレーション結果になり、
「そんなのできるもんか」
ということで、この枠予算制度に踏み切った、という事情があります。
行財政改革というのは、結局、政策実現のための手法なわけです。
政策実現というのは、職員一人一人がちゃんと担っていますから。
一人一人が担っていることを目的として、そのための手法として一つ一つの事業を見直さなければいけないことを分かってもらえたら、ちゃんとみんな働いてくれます。
まずは、共有する。
共感して、コラボレーションに繋げていくためには、財政課長が1人で千歩を歩くより、職員千人が1人ずつ、財政課長と同じ方向を向いて、市長と同じ方向を向いて、1歩を踏み出すことができればいいのではないかと思っています。

※今村さんnote
「分かち合い譲り合い」
「平等な規律と自由な裁量」
「任せてやらねば人は育たず」

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ありがとうございます!