第1回新しい自治体財政を考える研究会4/4:参加自治体の皆さんからの質問集

こんにちは!

今回も前回に引き続き「第1回新しい自治体財政を考える研究会」の内容をご紹介します。

前回までの記事はこちら
自治体の皆さんが抱える「予算編成」の悩みを分析しました
今村寛さん「枠予算のススメ」
安住秀子さん「横浜市財政見える化ダッシュボード」

今回は今村さん、安住さん、参加自治体のみなさんで行った意見交換や質疑応答の内容を紹介します。

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※前回までと同様、可能な限り当日の発言のまま紹介しています。

1.枠予算導入で大変だったこと~今村さんと安住さんの対談

【今村さん】
安住さんの話(リンク)をすごく面白く聞かせていただきました。
横浜市は、平成16年に枠予算を入れてるんですよね。
福岡市は、平成17年から入れているんですよ。
実は、平成16年に、横浜市へ出張に行って、横浜市にどんなことをしているのか聞きに行っているんですよ。
横浜市がつくったものをモデルにして、福岡市は、平成17年の当初編成からやっているんです。
横浜市のまねをして、平成17年度に始めて、枠予算にしたのは経常くらいで、重点事業・主要事業は一件査定だったので、非常に厳しいシーリングで、みんなに「こんなの守れるか」と言われました。
横浜市は平成20年度から「無理っぽい」という感じになったんですよね?
私たち福岡市も、平成19年、20年あたりが一番きつかった。
私が平成24年に財政課に帰ったときに、このままではだめだと思って、枠予算を重点まで含めた全部を枠とするように拡充しました。
それで、出張出前講座に行って、横浜市の職員に会ったら、「横浜市は、やめたんですよ」って
先ほどのハイブリッドになったと聞いて、「それは、アカンやろ!」と。
その変遷を、今日まさかここで聞くことになるとは思いませんでした。

【安住さん】
私も、今村さんの本を拝読して、横浜市の変遷の進化というか、退化というかを聞いて、「あちゃ~」と言われるだろうな、と思いながら参加しました。

【今村さん】
たぶん、福岡市が横浜市をまねしたときの私の印象は、すごく精緻につくられている印象でした。
経費区分が、1部が重点・政策的経費、2部が義務的経費、3部が枠なんだけど、そこに3-1、3-2,3-3…って枝番があって、そこがすごく細かかったんですよ。
そうしないと、平等に、公平に枠が配分できないというのが横浜市の思想だったんですよね。

【安住さん】
そのとおりです。

【今村さん】
それをずっとやってて、経費区分争いや、経費区分準義務費ってやってるのに
「結局、シーリングかかってるじゃん!」
って文句言われたりとかがあって、私が戻ったときに、経費区分の細目をやめたんです。
3部経費に3-1とか3-2とかない。
全部枠だ。
その代わり、シーリングの率だけで調整するようにしました。
そこで細かくやりすぎて、みんなに
「こんなのできるか!」
って言われて投げ出した横浜市。
「じゃあ、もっと簡素化しましょう」
とやった福岡市。
とにかく、長所は「簡素化する」ってことなので、枠配分のための議論を夏場にしっかりやっているので、結局、横浜市も似たところに戻ってきているんです。
だから、横浜市は間違ってないですよ。

【安住さん】
よかったです。

2.参加自治体からの質問

枠を超えた要求があった場合の対応は?

【人口15万人以下・九州地方の某自治体】
本市では、枠配分を設定しても、担当部局からの要求は枠を超えて来ることが多いです。
福岡市では枠配分を超えた場合はどうされているのですか?

【今村さん】
受け取りません。
ただ、それだけです。
枠に入るまで待ちます。
ただ待っているだけでは入らないので、入りそうにないところには、財政課の係長や担当者が、どうやったら入るかを手取り足取り教えながら、締切までに枠に入れて来させます。
基調講演内(リンク)で、枠に入れた後、市長・副市長へのプレゼンがあると言いましたが、「枠にはちゃんと入れました」と局長に言わせます。
なので、枠に入れずに持ってくることは、私の課長時代は1回もありませんでした。
かなり厳しい言い方をしましたが、その代わり、配分をするときに「このくらいだったら入るよね」というような金額で配分しています。
枠に入れるという目標を達成することが彼らのインセンティブに繋がるので、どうしてもできないのであれば、ゲタを履かせたりしてできたように見せるようにはしています。

現場のやる気を起こす仕組みづくりが難しいです…

【人口10万人以下・関東地方の某自治体】
質疑応答の前に行った参加者同士の意見交換でお話しした団体の全てが枠配分予算を行っていましたが、現場の要求がどうしても枠を超えてしまうという問題を全団体が抱えていました。
対話で解決できたという団体もありましたが、現場のやる気を起こさせる仕組みづくりが、やはり難しいと感じています。

【今村さん】
やる気を起こす仕組みづくりで言うと、「予算が減る」っていうことだけ考えると、なかなかやる気が起きにくいだろうと思います。
ビルド&スクラップっていうことをうまく理解してもらうことが必要だと思います。
ただ、ビルドってなかなか難しくて、スクラップを自分でしなければいけないというだけの枠配分が実は多くて。
あまりモチベーションが上がらないというのが実情です。
ただ、それはただの甘えですよね。
お金が足りないけど、やらなければいけないことがあるのは、現場の甘えであって、お金が足りないのは、財政課のせいでも首長のせいでもないんです。
自治体財政の外部環境のせいなんです。
お金が足りない中でやらなきゃいけないことを優先順位付けをしなきゃいけないのは、財政課の仕事ではなくて、職員一人ひとりの仕事なんです。
だから「やる気がないからできない」って言っちゃだめなんです。
言い方は厳しいですが、どんなふうにオブラートに包んで言うかというと、
「やりたことがあったら、自分たちでできるんだよ」
とか、
「どこをどう見直すかは、自分たちで決めていいんだよ」
という言い方でやっていくしかないと思います。
そのためには、財政状況がどう置かれているか、どこの部門も厳しいということを現場の一人一人に丁寧に説明していくことが必要になると思います。

部局ごとに配分の濃淡をつける方法は?部局にインセンティブを与える取り組みはある?

【人口10万人・関西地方の某自治体】
各部局へ配分する際の配分方法を具体的に教えていただきたいです。
部局ごとに強弱や濃淡をつけるにはどのようにされていますか?
また、枠配分の際に、部局インセンティブを与えるような取組がありますか?

【今村さん】
方法論でいうと、先ほど横浜市の安住さんと話しましたが(リンク)、経費を1、2、3、4と4つの区分に分けます。
1が市長が査定する経費、2が義務的経費、3が枠の経費、4が他会計繰出金。
それぞれの区分に必要な額を、6月から7月にかけて、各部局へ来年度いくら必要かを出させます。
ただ、そのときに、青天井で言わせるのではなくて、
「今年度の当初予算よりも1千万円以上一般財源がいるものだけ出して」
っていう言い方をしています。
1千万円以上いるものついて、ヒアリングの中で、
「それはしょうがないね」

「それは自分で頑張んなきゃ」
ということを明らかにしていく。
その上で、必要なものは、全体で財源配分するときに上乗せをしてあげる形です。
言われた額を全部足していたら、来年度の財源見込みと比べて真っ赤っかになるので、そこで一定の調整率をかけるんです。
言っている金額に85パーセントとか90パーセントをかけないと、財源見込みとのバランスが取れないので、そのかける率を各部局ごとに少し変えてあげたり、その枠の外側で見てあげる。
「本来、枠の方なんだけどね」と言いつつ、市長に査定してもらう経費の方に引っこ抜いて持って行ったり。
あるいは、予算編成の途中でそういうことが分かったら、「別枠で持ってきていいよ」とか。
あるいは、最後の計数整理のときに黙ってつけてやるとか。そういうことをしています。

【人口10万人・関西地方の某自治体】
かける率は、各部局は分かるんですか?
そこも見える化しているんですか?

【今村さん】
いいえ。
ここをブラックにしないと、「平等じゃない」と怒る人がいるんですよ。
でも、全ての部局が平等な政策を推進しているわけではないので、当然、大目に見てあげないといけないところと、厳しく頑張らないといけないところがあります。
例えば、消防局なんて、ほとんど事務事業をやっていません。
そういうところに、経常経費5パーセントカットしろって言ったって無理なので、1パーセントでいいです、ということをしてあげる。
ただ、消防局の経常経費が1パーセントしかかかっていないことは、他の局は分からない。

枠予算での運用に限界を感じています…

【人口10万人・関西地方の某自治体】
部局ごとの濃淡をつけるのに、うちでは、だいたい18項目に事業を分類したりするんですが、一般財源が先細りしていて、シーリング自体が限界を迎えているので、枠配分が限界かと考えています。

【今村さん】
枠配分が限界なら、一件査定も限界でしょ。
私はむしろ、財政課で査定するのが無理だとおもったから、枠配分にしたんです。
だから、枠配分だったらできなくて、一件査定だったら予算が組めるという理屈が、私にはよく分からない。
財源が苦しいのは同じで、それを現場に任せるか、財政課が全部引き受けるかの話。
枠配分は、財政課が全く引き受けないという話ではなくて、全部に枠配分をしたら、財政課にマイナス100億とか150億というノルマが残るんです。
それは、財政課長が義務的経費を削ったり、2月補正でやり繰りしたり、基金を取り崩したり、いろんなやり方で財源調整をして150億円をつくるんです。
そういう財政課の査定ノルマを持った上で、
「このくらいだったら、あなたたち、できるでしょ」
と言って配分するのが、枠配分です。

 枠予算の具体的な手法や設定基準は?

【人口15万人以下・中部地方の某自治体】
枠配分方式の具体的な手法・設定基準を知りたいです。

【今村さん】
枠の具体的な設定基準は、先ほどの質問(リンク)への回答と同じになりますが、経費区分を4つに分けて、自分のところの一般財源が、どこにどのくらい配分されているのかを見てもらって、それを来年度の財源配分をするときにどうするかを考える。
一件査定の自治体でも、財政フレームはつくっていると思うんです。
来年度の収入の見通し、交付税の見通し、税収の見通しをたてた上で、扶助費などの義務的経費がどれだけいるか。
それで、裁量経費をどれくらい使えるかを出していると思います。
あとは、それを査定するか、配分するか、というだけなんです。
配分するときに、市長に査定してもらうのか、義務的経費だから財政課が査定するのか、それとも、枠で局に任せるのかを区分していく。

枠予算の枠に収まりにくくなってきました…

【人口30万人以下・関東地方の某自治体】
ずっと枠配分予算をやっていますが、枠に入りづらくなってきました。

【今村さん】
枠に入りづらくなってきたというのは、義務的経費の歳出が増えてきたか、収入が減少したか。
それで、裁量的経費に配分できる財源が細ってきたということなんだと思います。
それは、構造的な問題なので、「枠に入りません」ではなくて、「予算が組めません」なんですよ。
財政課がそれを引き受けるか、現場に任せるかという2択でしかない。
どっちがいいかというのは、財政課の方で選んでください。
私は、少ない予算の中で何を見直すかというのを、他人から言われて切られるよりは、自分で見直していった方が、市民にも説明ができるし、本当に大事なものを大事なやり方で残すことができるので、現場で判断した方がいいと思っています。
それを実現させるためには、「財政が厳しい」ということを、本当に現場に分かってもらう。
自分で乗り越えないといけないことであって、財政課がなんとかしてくれることではない、ということを理解してもらうことが必要です。
そのために私は、職場に対して、出前講座を4年間で80回もやったんです。
分かってもらうという努力を、財政課がどうやってやるか、ということにかかっていると思います。
厳しい言い方ですが、お金は増えませんからね。
一つ付け加えます。
実は、局の自律経営が、お金を増やしたときに自分のお金になるというインセンティブの持たせ方があるんです。
福岡市は一般財源で配分していますから、一般財源で事業費が足りないときは、「自分で特定財源を見つけて来い」と。
国の補助金でも、企業の協賛金でも、広告とってきてもいい。
それは全部、自分の局の財源で使っていいですよ、っていう制度にしています。
そうすると、皆さん必ずどこかから財源を引っ張ってきます。
自分でお金を見つけてくる。
財政課に何にも文句を言われないお金です。
どうかしたら、施設の使用料の値上げとかもしてくれます。
そうやって、自分のお金を自分で稼ぐっていうことを現場が考えるという意味では、自律経営の方が収入が細ってきたときの自治体運営としては、ありがたいです。
もっと言うと、事業のやり方そのものを見直す。
「民間の力を借りられないのかな。」
「もっと安い方法でできないのかな。」
こういうことを考えるようになりますので、財政課が全部引き取って査定すると、「なんで切ったんだ」と文句ばっかり言って、枠に収めたことには何の感謝もしてもらえないので、ありがたくない結果になります。
ぜひ、自律経営を尊重して、できるようなアドバイスをするという仕組みで頑張っていかれた方がいいと思います。

経営陣の枠内に収める意識が低かったり、現場へのインセンティブが尽きてきた場合はどうしたらいいでしょう?

【安住さん】
はしごを外されたときにどうしましょうか?
上の人たちが、理事者を含め、「枠にいれなくてもいいよね」という人がいた瞬間に崩壊することについて、その説得をどうしたらいいのだろう。
あと、インセンティブ予算設計を横浜市もずっとやってきましたが、ネタが尽きてきて、みんながインセンティブをやるようになり、インセンティブを頑張ったところに政策的経費を増やしてあげますよ、という財源がもうなくなってきている状況になっているので、どうしたらよいか。

【今村さん】
まず、インセンティブ予算は、財源がなくなることは基本的にあり得なくて、自分で見直した経費を翌年度に使えるという話で、決算剰余金を事前に振り分けるだけの話なんです。
だから、見直した範囲内でしか振り分けないということですので、これは上手くいくのではないかと思います。
それから、上がはしごを外すというのは、永遠の課題ですが、ちょっと表向きの話と裏向きの話をします。
表向きは、市長が最終的に決めることができる区分を持っていますから、市長がそういう風に求めたという風に整理をして区分することは可能です。そうすることで枠外要求を受けて枠外査定をして、市長経費といった形で処理することは可能です。
ただ、実際は、この仕組みについて市長と握ることです。
市長が、「これやってほしい」って財政課におねだりすることをやめさせる。
財政課にはそういう権限がなくて、各事業部局に全部財源を配分しているから、各事業部局の長に、「枠の中で頑張ってこれを入れてくれ」と指示してくださいとお願いして、市長から局長に指示し、局長から財政課に「ごめんけど」と言ってもらうやり方で、なんとかバランスを保っています。

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ありがとうございます!