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Aztec Camera キャリアを振り返る

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私にとって最大のお気に入りバンドの一つであるAztec Camera。純粋無垢なギターポップからデビューし、様々な変遷を経ながら最終的に究極の完成度と無我の境地に至ったそのキャリアは、ロックを超えて人生の縮図であるようにも感じられる。

だから、その魅力の種類はアルバム毎に面白いほど大きく異なる。ここで、私にとって各アルバムがどのように私の心を揺さぶってきたのか、整理してみたいと思う。各アルバムごとに特に素晴らしい曲を2曲ずつ貼っている。


1st: High Land Hard Rain (1983) 全英22位

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リアルタイマーの心を掻きむしる青春の一枚。私は後追いだが、本作を10代や20歳前後で聴いたリスナーはそりゃ夢中になるだろうな、と思う。清冽なアコギの音色と絶妙に効いたボーカルエコーがいつだって張り詰めた早朝の冬の空気を思い出させる。胸一杯にその空気を吸い込んだロディ・フレイム18歳の作品。



2nd: Knife (1984) 全英14位

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10代で素晴らしいデビューを飾ったアーティストは大概、ドラッグに溺れるか、ヘンにアヴァンギャルドな作風に走るか、明らかにトーンダウンするか…。だがロディ・フレイムには健全な向上心と、何より音楽への純粋な愛があった。華やかな"Still On Fire"と"All I Need Is Everything"を除けばやや地味な印象はあるが、特に前作からの成長痛を感じさせることもなく、健やかに伸びている。1stの魅力を損なうことなく上手く洗練させた第2ステップ。リアルタイマーは本作を聴いて安堵したことだろう。最終曲、"Knife"の空気感はこのバンドが生み出した最も美しい瞬間だと思う。



3rd: Love (1987) 全英10位

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"ネオアコ"から素晴らしき羽化を遂げた名作。普通のネオアコバンドからネオアコを取り上げれば何も残らないが、このバンドは違う。アメリカ進出も視野に入れた明るくソウルフルなサウンドに仕上がっている。だがレコード会社からの押し付けではなく、あくまで内側から滲み出る、ロディ本来の繊細さや自然体を踏まえた上でのソウルになっている。それが分かるのが"Deep And Wide And Tall"や、"Working In A Goldmine"だ。1stからのファンも置いてきぼりにすることなく一緒に成長できた、稀有な名盤。



4th: Stray (1990) 全英22位

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これほど"過渡期"という言葉が似合うアルバムも無いだろう。キャッチーなギターポップの"The Crying Scene"と"Good Morning Britain"。しっとりしたジャジィなプレイを楽しめる"Stray", "Over My Head"。歌も演奏も盤石そのもの。しかしながら全体としては散漫で、作品名通り方向性を決めかねているように感じる。完璧なデビューを飾った一人の人間が自分の理想郷を探して彷徨う様、その姿を見せられれば感情移入せずにはいられない。だがその理想郷は案外すぐ、次作で見つかることになる。



5th: Dreamland (1993) 全英21位

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もはやジャンル分け不可能。永久のポップロック桃源郷であり、全てがここに封じ込められている。AORの極致"Birds"、遊び心溢れる"Spanish Horse"、胸詰まる名曲"Belle Of The Ball"はじめ、曲の質、サウンドの質、雰囲気、アルバム構成、全てが完璧な圧巻の名作であり、これ以上のものは有り得ないだろう。Aztec Cameraというバンド、そしてロディ・フレイムという人間の集大成と言える名盤。



6th: Frestonia (1995) 全英100位

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最終作。究極の完成度を誇った『Dreamland』の反動か、ある程度ラフなギターロックに仕上がったのが本作だ。サウンドとしては一般的なロックだが、これまで培ってきた情景喚起力のあるピアノや緩急を織り交ぜることで、名盤特有の風格を作り出している。それでも全く息苦しくなく爽やかな聴き心地になるのは、もうこの人の性だろう。ラストのアコースティック"Sunset"はバンドの最期を締める曲として素晴らしいが、過度な感傷には浸らず、サラッとした余韻があるのがこの人らしい。



振り返り

その童顔とイケメンボイスには似つかわしくないが、このバンドの本質は、破壊と創造だった。自分のフォーマット——しかも完成度の高い——を崩してまで新たなサウンドを模索し、そして必ずそれを結実させる。その冒険心と実力こそ、ロディフレイムの最大の魅力なのだ(そして何より歌とギターがめちゃくちゃ上手い)。

1stと2nd以外は全く無名で地味なアルバムかもしれない。また2021年の耳で聴いて響くのは恐らく1stくらいかもしれない。ただ、それらを経たからこそ手に入れた5thや6thといった熟達の名盤も忘れ去られて欲しくない。その思いで書いた。

最後に好きなアルバムランキング。
1位 Dreamland (5th)
2位 Love (3rd)
3位 Frestonia (6th)
4位 Knife (2nd)
5位 High Land Hard Rain (1st)
6位 Stray (4th)



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