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James Blake - Friends That Break Your Heart (2021)

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総評: 8/10


これまで彼が感じてきた焦り、喪失感、自己嫌悪。それらが歌詞に色濃く反映されている。「OK、僕は代替可能だ、次は誰だ?」と自虐的に歌う"Foot Forward"。「みんなのために頑張ってきた結果、自分の場所は無くなった」と悲痛に告白する"Lost Angel Night"。極め付けはFinneasへの嫉妬を包み隠さず表した"Say What You Will"のMV。

それらの引き裂かれるような感情が、最終曲"If I'm Insecure"で「別に全てが失われたわけではない、持てるものを愛そう」という彼なりの暫定的な結論に結びつけられる。苦境の中、自分で見つけた答えは何よりも尊い。

こういった作品は時に、御涙頂戴のエセ感動ものに成り下がることがある。だが本作がそうなっていないのは、他ならぬ彼の声とメロディ自体があまりにも説得力に満ちているからだ。特に"Show Me"以降の曲のメロディの美しさは筆舌に尽くし難い。本作での彼はメロディの力を信じ切っている。そしてメロディもそれに応えるだけの美しさを持っている。理想的だし、幸せなことだと思う。

本作に関してはおそらく「良いけど地味」というのが世間一般の評価になるだろう。 10年前のデビュー作で見せたあの先鋭性はどこへ消えたの? 終わったなJames Blake。常に新しいものを求めるサブスク時代、こんな地味な作品がインパクトを残せるような時代ではない。そしてそういう声は前作のリリース時点で既に聴こえ始めていた。

だが、そういった雑音に悩まされながらも、「トップでいなければならない」という呪縛から何とか逃れ、自分のありのままの感情を朴訥としたシンセに乗せて絞り出すように歌うことを彼は選んだ。これは彼の精神的なストラグルを克明に記録した、ある種のカミングエイジものだ。これまでで最も正直で、最も心動かす作品。


Monica Martinのボーカルが素晴らしい。少しハスキーで憂いを帯びたな声は、本作の世界にしっかり馴染みながらインパクトを生んでいる。



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